スサ
2024-06-07 14:10:15
1620文字
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【幽霊族親子+水】ウツギとアザミ

水死後ぽい話ですが幽霊になって生きててもいいなと思います。親子それぞれが水に持つイメージが違う妄想です。ハコネウツギは低山?などで見られ、とても花がかわいいです。

 簡単な依頼だからとひとり出かけた鬼太郎が帰ってきた時、息子の手には小さな漏斗型の花を咲かせる枝があった。白、桃色、紅色、それから仄かな香り。
 初夏の里山の情景を思い浮かべ、目玉のおやじは微笑に似た気配をにじませた。
「懐かしいのぅ」
 ええ、と鬼太郎も目を柔らかくして頷いた。
「箱根空木を見ると、僕はあの人を思い出すんです」
 息子の答えに、おやじはパチパチとまばたきした。少し意外に思ったのは、自分の中にはない印象だったからだ。
 ──あの人、なんてどこか甘やかに、懐かしく呼ぶ相手はそういない。だから誰のことかなんて確かめる必要はなかった。
「あの男にしては少し可憐すぎんか?」
 くすりと鬼太郎は笑った。いやだな、と目を細めて笑う顔には、少年には似つかわしくない余裕と色気があった。
「あの人はかわいらしい人でしたよ」
…………
 鬼太郎を育てるようになってからの水木は、確かに初めて会った時とは違っていた。それはおやじも認める。だが、かわいらしい、と息子の口からこんなにも堂々と明言されると、たじろぐものもある。
ただ、この花を見て水木さんを思い出すのは、花が可憐だからではないです」
「そ、そうか」
 もしかしてこの可憐とは水木にも向けられているのだろうか? おやじは思ったが、言わなかった。
 鬼太郎は枝を軽く上に掲げ、見上げるようにする。
「箱根空木なのに箱根には咲かないんだ、と」
 鬼太郎は追憶に目を細める。
「内緒話をするように僕に言って、頭を撫でてくれた。他愛のない話なんですが、それがとても印象に残ってるんです」
 初夏の頃、縁側で。胡座をかいた膝に鬼太郎を座らせた水木は、色んな話をしてくれた。そんな日は何度もあったが、今となっては昔の話で、全てが懐かしく、慕わしい。
今日、低い山並みにこの花が咲いているのを見たら懐かしくなって。少しだけ失敬してきました」
 そうか、とおやじは言った。そうか。胸の内で彼もまた人間の、唯一無二の友のことを思い出す。そうすれば自然と言葉が滑り落ちていた。
儂はな、薊のような男だと思っておった」
水木さんが?」
 あざみ、と鬼太郎は少し意外そうな顔で繰り返す。で、あろうなあ、とおやじは思う。鬼太郎の前で水木が怒ったことがないわけではないが、基本的に常に大事に、愛情深く、笑顔を絶やさずに接していた。そうでなければ、鬼太郎はもっと人間に対し冷酷になっていたかもしれない。それだけ水木の与えた影響は大きい。
 舌足らずに目にゴミが入って痛いと訴える鬼太郎を抱きすくめて、手を椀のようにして掬った水で幾度も洗わせ、取れたのを見ればほっとした顔で幼い額や目元についばむように口づけて。目薬があれば良かったんだが、と苦笑していたが、そういう問題ではない。同様に、何の躊躇もせず鼻水を吸ってやっていたのも見たことがある。仰天したものだ。あれが無償の愛でなければ何だというのかとおやじは今でも思う。
 けれども。まだ身体があり、あの男にゲゲ郎とあだ名をつけられた頃のおやじ、まだ父親の自覚もなかった頃の彼の目に映った男は、野に咲く薊のようだった。鮮やかな紅色と、外界から必死に身を守るように、見る方が痛いほど棘だらけで。
 だが息子を愛情深く育てていた彼しか知らない鬼太郎にはきっと信じられないことだろう。
 それは不思議な感覚だった。おやじにしか知り得ない友の顔があるということが。
「ま、それはあやつと儂の秘密じゃ」
 愉快と笑えば、息子は若干ムスッとしたような、すねたような顔をした。
「ズルイです、父さん」
「こればっかりは仕方ない、年の功じゃて」
 ほっほ、と笑った後、おやじはぴょーいと倅の肩に飛び乗った。
「久しぶりに会いに行かんか。酒でも持ってな」
はい」
 もう、とため息をついて、鬼太郎は肩をすくめた。その顔は笑っていた。