Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
つの
5655文字
Public
まほやく
Clear cache
体温がいちばん甘い(オーカイ)
付き合ってそうなオーカイが深夜に漫才しながら、ひたすらキスしてる話。4.5周年ログストからの強めの幻覚。
※ オがカの膝に乗ってるけどオーカイ
※ 冒頭だけ賢者(晶)(くん/ちゃんは特に決めてない)います
オズの詠唱で動きを止めたメレンゲドールたちは、最期は晶の腹の中におさまった。口をつけるまでは「かわいそうで食べられない」と言っていた晶も、焦れたミスラに無理やりオズ(※メレンゲドール)の首をかじり取らされてからは吹っ切れたようで、それぞれのメレンゲドールを観察し、似ているの似ていないのと笑顔で感想を言うそばから、思い切りよく口に運んでいた。いつもながら順応力のすこぶる高い晶を、皆は微笑ましく見守った。
贈り物の特製ケーキは、晶曰く“全部はずれのロシアンルーレット”になってしまった。メレンゲドール騒ぎで混乱したデコレーション班が、通常のスポンジにミスラ製のジャムを、双子の薬草入りスポンジにベリージャムを塗り、上から生クリームで覆ってしまったからだ。
「どっちにする? 切り分ければ断面でどっちがどっちかわかっけど」
ケーキナイフを手にしたネロが尋ねると、晶は「なんだか全部はずれのロシアンルーレットみたいですね」と言った。口にした直後に「なんか失礼なこと言っちゃったな」と慌てていたが、「前の賢者様に教わった、合コンの定番ゲームですね!」とアーサーがそれを笑顔で受けたために、ケーキは切り分けてから、せっかくのヒントである断面も生クリームで隠し、シャッフルして、各々に配られることになった。オーエンは「どう考えてもミスラのジャムのほうがはずれだろ」と毒づき、ミスラは「なんでですか、美味いですよ」と口に入れる前から反論していた。
ケーキが行きわたったあと、アーサーの掛け声で皆が一斉に口に運ぶと、半数から
――
あるいは全員から
――
叫び声が聞かれるかと思われたが、一拍の間のあと「意外とおいしい!」「ほんとですねぇ」「つまんねえな」と、約全員が安堵のため息とともに、一部が安堵のため息を押し殺して、口に出していた。晶はずっと笑っていた。
総じて、いい夜だった。
*
カインは、すでに寝間着に着替えてベッドに入り、本を開いているところだった。目は文字を追おうとするけれど、日ごろ積み重なった疲れと、仲間と共に過ごした時間の幸福感が、とろとろと瞼を重くする。本を取り落としてしまう前に、閉じて枕元に置いた。灯りを消そうと半身を起こしたものの、そのために歩くのも面倒で、ものぐさに呪文を詠唱しようとする。その刹那、膝の上に男が落ちてきた。
「うおっ!」
驚きに声をあげたけれど、瞬時に悟った
――
剣に手を伸ばす必要はない。そう思えるほどには、よく知った体温で、よく知った重さだった。
突然現れ、カインと向き合う形で膝の上に座ったオーエンも、寝間着姿だった。けれど片手にはデザートグラスを持っている。デザートグラスの脚を優美につまむ細く白い指の上に、桃色のムースと、その三倍くらいの体積はありそうな生クリームの山。
ムースは、自分たちが調子に乗って三十樽ぶんも作ってしまった生クリームを、ネロがどうにか無駄にしないようにとアレンジしてくれたものだ。今晩、ケーキと一緒に配られて、二十二人全員が食べたけれど、それでもまだまだ残っていた。
こんばんは、騎士様。いつもならば歌うように挨拶をする唇は黙ったままで、そこに生クリームをのせた銀の匙が運ばれる。ぼんやりと眺めていると、人形のように整った顔が近づいてきて、口づけられた。条件反射のように薄く開いた唇に、生クリームをまとった甘い舌が潜り込んでくる。一瞬だけひんやりとしたのは、オーエンの舌とクリームがまだ冷たいからだ。
舌と舌を絡まされ、強制的に咥内が生クリームまみれになる。甘い。ビリビリと舌から脳に信号が送られるのがわかるようだった。普段ネロが作る生クリームよりも甘いみたいだ
――
とはいえ自分はあまり口にしないから、確かかはわからないけれど。呻き声というよりは、少し鼻にかかった声が漏れた。
「う
……
ん
……
」
オーエンの舌は、いつもより大人しく、それがかえって煽るようだった。頭の片隅で、また歯を磨かなければと詮無いことを考える。ぬるりと頬の内側をなぞられ、体温でゆっくりと生クリームがほどけていく。油と水に分かれ、乳の香りが鼻に抜ける。薄い砂糖水のようになった二人ぶんの唾液を飲み下すと、ようやくオーエンの舌が引き抜かれる。赤い粘膜のうえで黒百合の紋章があやしく光った。
オーエンは口の端に垂れた唾液を舌先で舐めとると、「へえ、ほんとうだ」と素直に感心したような声を出した。
「何が!?」
体温がいちばん甘いのだと、オーエンは言った。
*
樽の生クリームが、甘くなかったらしい。
パーティーの前、余った生クリームを活用したムースづくりに勤しむネロの前に現れたオーエンは、樽から生クリームをつまみ食いしようとした
――
つまみ食いなどではなく、生クリームを作るという苦役に対する正当な報酬であるとオーエンは言う。現にネロはスプーンとボウルを渡してくれた、と。
「思えば、樽に触ったとき、冷たかったんだよね。あのときに気づくべきだった」
自分たちが作るだけ作ってキッチンに置いていった生クリームは、悪くならないよう、ネロが早々に魔法をかけて冷蔵してくれたらしかった。ボウルにたっぷりと生クリームを取り、頬張ったオーエンは、眉をひそめた。いつものネロの作りたてよりも、ひんやりと冷たく、何より甘くなかった。
「おい。おまえ、騎士様に教えるとき、レシピの砂糖の量を減らしたの? それとも、あいつが間違えた? 甘くないんだけど、どういうこと」
北の魔法使いに低く呼ばれてギョッとした顔を作ったネロは、すぐに「ああ」と理解して緊張を解いた。
「レシピはいつもどおりだけど、それは冷やしてるからな。冷たいものは甘さを感じにくいんだよ」
*
「あいつが言うには、体温に近い温度が一番甘さを感じやすいって」
オーエンはそう言って、また生クリームを口に含み、顔を近づけてくる。それを両手で押しとどめ、カインは尋ねる。事情と理路は理解した、理解したが。
「じゃあ、魔法で体温に近い温度にその皿ごと温めればいいんじゃないか
……
? そのほうが口の中より温度も安定してるだろうし」
このまま口移しで甘いものを食べさせられ続けるのは困る。オーエンは生クリームを飲み込んで、カインの問いを鼻で笑った。
「おまえはほんとうに雑だね。一生、塩漬けも燻製もされてない干し肉でも食べてなよ」
「食い物に関してだけは、おまえに言われたくな
……
」
抗議の声を封じ込めるように、オーエンに唇を塞がれる。ふたたび生クリームが口腔に満ちて、甘い、と思う。もうコーヒーが飲みたい。単調な甘さに飽きてしまって、頭の空いた場所でオーエンの言ったことを考える。ベーコンは、塩漬けされて燻製されているから美味い。生クリームは、魔法で人肌にするのではなくて、こうやって自分が温めたほうが美味い? ぼんやりと辿り着いた答えに、唇の端が震えた。照れくさいような、その執着らしきものがちょっと恐ろしいような、妙な気分だった。笑みの気配に気づいたオーエンが唇を離す。
「
……
自惚れ屋の騎士様」
オーエンは、まるで思考を読んだように言った。人の心をたなごころの上に置いて転がすのが好きな男だから、魔法を使わなくても頭の中を覗けるのかもしれなかった。こんなにも表情に出ていては、特に。
言葉の割には、かわいがるような声だった。
「僕がこうするのは、甘いものが嫌いなおまえへの嫌がらせに決まってるだろ」
オーエンは自然な表情で、にっこりと笑った。その笑みから目が離せなくて、男がゆっくりと唇にスプーンを運ぶのを、視界の端で捉えた。目の前の色違いの瞳に、薄い瞼がかぶさって、うつくしい顔が近づいてくる。唇が重なる。
今度はムースも口の中に入ってきた。舌と舌のあいだで、すりつぶされるように溶けていく。
「ん
……
うぁ
……
」
全員の口に合うよう作られたムースは、パーティーで食べたときには控えめな甘さでおいしかった。そのとき自分が選んだのは橙色をしたパッションフルーツ味のものだったけれど、これはベリーの味がして、やはり先ほどのものより甘い気がする。けれど、同じものを食べたわけではないからわからない。
生クリーム単体よりは得意な味だな、と思って、ちゅう、と絡んだ舌を吸うと、膝の上のオーエンの身体が小さく震えた。積極的な動きに驚いた? この行為は、本当に、ただの嫌がらせのつもりだったのだろうか。カインの腹の底では、ぐるぐると熱が渦巻きはじめているのだけど。
目の前の細い身体を抱きしめて、自らの顎を上向け、もっと口づけが深くなるようにすると、オーエンは苛立たしげにカインの一つに結んだ髪を引いた。痛むほどではない強さだったけれど、カインはその手に導かれるまま、唇と腕を離した。
オーエンは手の甲で乱暴に口を拭った。その手をおろして薄い唇が見えるころには、もう何かを企んでいるような笑みを浮かべている。
「ずいぶん余裕だね」
音律のように呪文が響いて、一瞬後には、そこそこ重いものが床に置かれるときのドン! という音がした。それも、立て続けに、何度も。
樽だ。ネロでも救いきれなかった生クリームで満杯の樽が、少なく見積もっても十。広くはない部屋の隙間を縫うようにして立っている。カインは悲鳴のような声をあげた。
「これ全部は、さすがのおまえでも無理だろ!?」
「どうかな? メモに二十九樽めまでなら食べていいって書いたのは、おまえだろ」
「おまえは食えても、俺がそれまでに病気になって死ぬ
……
!」
ふふ、とオーエンは楽しそうに笑う。逆効果だった、と悔しがるカインの口に、またキスが下りてくる。舌が渡してくるのは、やはり生クリームだけ。それも、噎せ返るほどにたくさん。カインが苦しそうに喉を鳴らすと、オーエンの唇が笑みを深めた。大きく開かされた口腔の中で、それでもゆっくりと生クリームは溶けていく。ああ、と気がついて、カインは絡めた舌を吸う。ちゅっ、ちゅっ、と繰り返し吸い上げると、唾液の分泌される量が増えた。湧き出る液体を、何度も小さく喉を鳴らして飲み下す。こうすれば早いんだ、と思ったものの、唾液が舌で混ぜ合わされる、くちゃくちゃという粘着質な音は、どうにも耳に刺激的だった。
「ふ、ぅ
……
」
ようやく唇を解放されたときには、カインの口から熱に浮かされたような吐息が漏れた。瞳も潤んで霞み、オーエンの表情はよく見えない。手触りのよい寝間着を、縋るようにぎゅっと掴んだ。
「カイン」
ひさしぶりに名前を呼ばれた。呆れたような、たしなめるような声だった。どちらかといえば、自分が彼に向けることが多いような感情。
「あたってる。
……
ちょっとは我慢しろよ、おまえも僕に我慢させたんだから」
我慢? おまえが? いつ? 視界を取り戻すように、ぱちぱちと瞬いて、声に出さずに考える。思い当たったのは、先ほどのオーエンの言葉だ。メモに二十九樽めまでなら食べていいって
――
カインの書き置きを読んだのだ。そして、生クリームはケーキが完成するまで三十樽、残っていた。
我慢、してくれたんだな。そう口に出してしまえば、即座に否定されて、同じようなことは二度と起きない気がしたので、カインは黙っていた。それでも笑みは浮かんでしまい、オーエンが苛立ちを含んだ声で「なに」と尋ねる。
「いや
……
そうは言うけど、おまえも勃ってる」
「だから?」
腹に触れる熱とは裏腹に、オーエンの眼差しは冷たいままだった。年上という表現がおかしく感じるほど、はるかに長く生きてきた男の、性欲よりは食欲のほうが強いことは知っている。たぶん自分とは真逆に。でも。
「なあ、もう食事は終わりにしないか?
……
これ、欲しいな」
わざと明け透けな表現をして、そうっと二人の腹のあいだに手を這わせた。オーエンは大きな舌打ちをしたけれど、瞳の奥に小さな炎が宿る。
「そんなことを言って、僕に食べさせるのをやめさせるための打算じゃないの?」
「あはは、バレてる」
笑い声の明るさに、オーエンが片眉をあげる。あっさりと認められたのが、意外だったらしい。
「でも、打算は半分くらいだよ
……
わかるだろ?」
そう言うと、甘さ抜きのキスがしたくなって、唇と唇を触れ合わせた。ちゅっ、とかわいらしい音だけを残して、すぐに離れる。眼前の、きょとんと丸められた瞳が、ゆっくりと弧を描いた。
「赤ちゃんの誘惑には乗らないよ。おまえが泣いてねだるまでは、やめない」
「たぶん、おまえがこのムースを食べ切るより早いと思うぞ
……
」
それぐらいには甘さにうんざりし始めていて、それぐらいには交わす体温に浮かされ始めている。そうかもね、と上機嫌に言ったオーエンには、前者の意味しか伝わらなかったのかもしれない。それでも、甘味を口に含んでキスする直前、指を鳴らして、部屋に呼び出した樽を消してくれた。
息継ぎの合間に、デザートグラスの中身を横目で見て、残りあと何口で触れ合えるのかを考える。まだあるよ、とオーエンがカインの顎を取った。目と目が合うけれど、それも束の間のことだ。その一瞬のあいだに、本来は自分のものである黄の瞳を見つめて、心の奥底に秘めたざらついた感情の輪郭を確かめようとした
――
したけれど、口の中の生クリームみたいにドロドロに溶けてしまった頭では無理だった。
甘くて、生ぬるい。口の中も、頭の中も。腑抜けてしまいそうだ、と思った。今晩ぐらいは、それもいいかもしれない。とはいえ、そんな夜を、もう何度も繰り返している。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内