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柄
2024-05-12 12:23:11
5728文字
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crazy for you! 1
エメのエーテルジャンキーアゼ、エメ禁止令が出るの巻
「最近さ、キミかと思ったらアゼムだったことが多くて」
ヒュトロダエウスの言葉にエメトセルクは頭を抱えた。肘がテーブルにぶつかり、湯気立つ紅茶のカップががたりと揺れる。最近よく言われる言葉であって、ソウルシーアの中でも特に目の良いヒュトロダエウスが言うのならば、いよいよと言うことだろう。
「珍しくキミが街の外から来てる、と思ったらアゼムだったんだけど、あの人、キミと外で浮気してる?」
揶揄うような言葉は絶対にそうじゃないと互いに思えているからこそだ。ヒュトロダエウスを睨み、エメトセルクは溜息を吐いた。
「一因はお前だ」
「えっ、ワタシ?」
流石にそこで自分の名前が出ると思わず、ヒュトロダエウスが目を丸くする。エメトセルクは手を組んで顔を伏せた。どこか疲労すら滲んでいる。
「例の飴のイデアだ」
「ああ、アレ? 創造者に込めるエーテル量の上限を下げさせて認可したけど、認可前のものは勿体無いしねってあの人にほとんど持ってかれちゃったんだよね」
つい先日、ヒュトロダエウスが面白いものがあると治験用に恋人向けのイデアを手渡して来た。所謂媚薬のようなもので、相手のエーテルを込めたその飴を食べることにより、対象のエーテルに媚薬効果を発揮するものだ。
「それをあいつが旅の最中のエーテル補給用として常用してる」
「もう笑ってしまいたい」
「で、無くなると直接私を呼び出してエーテルを吸うだけ吸ってくる」
「んぐっ」
「その結果、君のエーテルが私の中にないとなんかやだ、などと言い出し常に私の個が強いエーテルを求めてくるようになった
……
」
「ひひぃ
……
」
「お前に分かるか? 君で満たされたいやら、君を中で感じたいやら、もっとたくさんちょうだいやら
…………
」
「ひっ」
奇声を上げた後笑い過ぎてヒュトロダエウスが座ってた椅子から落ちて崩れ落ちた。それを眺めながら発作が治るのを待ち、エメトセルクは尋ねる。
「どうすればいい?」
「なんだかんだキミが甘やかし過ぎたのが原因だよ」
「どうすればいいんだ私は
……
」
嘆くエメトセルクを遠慮なく指さして笑い、ヒュトロダエウスは涙を拭いながら過呼吸になりかけた息を必死に整えた。
「もうエメロロアルスに相談しなよ。中毒症状出てるって」
「
……
本当にそうした方がいいのかもしれないな
…………
」
真剣に悩むエメトセルクに、ヒュトロダエウスはまた笑いの発作が込み上げて崩れ落ちた。いつもと変わらない、アゼムが不在のアーモロートで、エメトセルクの愚痴のような相談のような惚気を聞けるこの立ち位置を、ヒュトロダエウスは大変気に入っている。面白いことになってきたなあ、と思いながらも実のところ心のどこかでは満更でもないのだろうなと気付いてさらに笑いが込み上げてくる。
エメトセルクが本日何度目か分からない溜息を吐いた時、不意にエメトセルクが顔をあげる。おや、とヒュトロダエウスが瞬きをした刹那、エメトセルクの足元に見慣れた魔紋が現れ、光出す。
「委員会に報告だけしてくれ」
「まかせて」
気をつけて、と手を振るヒュトロダエウスの目の前でエメトセルクの姿が光の柱の中へ消える。
帰ってきた時に、どんな楽しい話を聞かせてくれるのか。きちんと楽しく聞かせてよね、と願いながら、ヒュトロダエウスは冷めた紅茶を飲み干した。
さて、呼び出されて来てみれば、戦闘の痕跡はあるが敵の姿はない。クレーターの真ん中で仰向けに倒れてるアゼムが片手をあげてひらひらと手を振っている。
「何をしている」
「やりすぎたぁ
……
まだ君のキャンディ残ってると思って遠慮なくどかんどかんしてたら、無くなっててさぁ〜」
「いい加減にしろ」
怒りを込めながらエメトセルクがアゼムの手を握る。エーテルを受け渡せば冷えていたアゼムの手に熱が巡る。頬が桃色に染まり、目がとろりと溶けて口元に幸福そうな笑みが浮かんだ。しかし完全に回復する前にエーテルの配給を止め、エメトセルクはアゼムの腕を引いて身体を起こさせる。
「うわっ、なに?」
「お前は、ろくでもない理由で冥界に降る気か?」
ぱちん、と瞬きをしてアゼムが少し首を傾げる。
「人の補給に頼り戦闘の最中にエーテル不足で倒れたらどうする。お前のその召喚術も必ず出来るとも限らない」
思ったより心配をかけてるようだ、とアゼムは手を伸ばしてエメトセルクの頭を抱きかかえる。その髪を撫でながらごめんね、と囁くがエメトセルクは溜息を吐くだけだ。
「お前に喚ばれなきゃ、私はどうにもできない」
「そんなことない。君は来てくれるよ」
「不確かな信頼だけで対処できることじゃない」
「そうかなあ。私はただ、いつでも君を感じていたいだけなんだ」
それだけなんだけどね、とアゼムが少しエメトセルクを離して、苦笑してみせる。エーテルなんて、その辺の植物や創造生物から貰ってもいい。ただアゼムの我儘でエメトセルクを呼んでるだけであって、もっと危険な目にはいくらでも合っている。けれどもきっとそれはこの人に言ったら怒られるだけで、通じはしないんだろうな、とアゼムはエメトセルクの両頬を挟むように触れ、強張る頬をゆるゆると撫でる。
「本当は君と共に旅をできればいいけどそうもいかないから。ちょっとした我儘だけど、やり過ぎちゃったみたいだね。許してくれる?」
彼は優しいから。きっと謝れば許してくれる。そろそろエーテルをわざと消費する戦い方はやめようか、とアゼムは考えて。
「許さない。
……
一度エメロロアルスのところに行くぞ」
「えっ?」
許さないパターンもたまにはある。あるが、そこでエメロロアルスの名前が出るとは思わずぽかん、としてしまう。アゼムが目を丸くしてる間にエメトセルクはアゼムを掴むとアーモロートへテレポをする。怪我はヒールで治ってるよ、なんて言葉は地脈へ溶けて音にならなかった。
「それは一種の中毒だろう。最近エーテルが一方的に混じりすぎだとは思っていたが。そこまで影響はないと思うが、一度エメトセルク断ちしろ」
思ったよりおおごとにされている。アゼムはなんとも言えない顔をした。
「そもそもなんだその治験体という抜け道の脱法イデアは。登録された物と明らかにエーテル含有可能量が違うだろう。没収」
「えーーーーーっ!! 一日三粒までにするからぁ!!」
「一日一粒でも多いんだ。そもそも本来の用途ではないだろう」
アゼムが持っていた夜のイデアである媚薬キャンディを取り上げ、そのままアゼムの口を封印して喋れなくすると、エメロロアルスはエメトセルクを見た。
「しばらくこれにエーテルを与えるな。これが阿呆なのか実際に中毒があるのかみたい」
「わかった」
「甘やかすなよ。体液の交換も禁止だ」
体液の交換、と聞いてアゼムが大きな口を開けて何かを叫んだ。顔が赤くなっているあたり黙らせていて正解だったな、とエメトセルクが少し遠い目をする。
「まぐわいはおろか、唾液にも気をつけろ。いいかアゼム。他人のエーテルを勝手に吸うなよ。返事は」
ぷつん、と魔法を解かれ、アゼムはえーーーーっと叫ぶ。
「エメトセルクは他人じゃないし
……
」
「エメトセルクと半径三キロ接近禁止にしてもいいんだが?」
「それはやだ
……
」
思ったよりおおごとになっている、とエメトセルクは思い始めるが、もうどうにもならない。
なんでこうなっちゃったの
……
とエメトセルクを振り返るアゼムからそっと視線を外し、彼女を甘やかさないようにしなくては、とエメトセルクは決意した。
「わひゃ
……
ッ」
ことの顛末を聞いて、ヒュトロダエウスは笑い崩れた。アゼムが不貞腐れながらピザを口に運ぶ。膨らんだ頬は不機嫌なのか、食べ物なのか判断が付きづらい。旅終わりの最初の夜、いつもならばエメトセルクとアゼムは二人の時間を過ごすことが多いが、今日はヒュトロダエウスが食事に誘われた。珍しい、と思いつつも親友と共に過ごす時間が大好きなヒュトロダエウスは何か楽しいことがあるとワクワクしながらエメトセルクの家に遊びに行き、そして話を聞くなり酒を持ったまま崩れた。咄嗟にエメトセルクが彼の持っていたグラスを浮かせたことにより溢さずには済んだが、アゼムの機嫌は下がって下がってさらに角度が大きくなっていく。
「今日だって! みてご飯全部買って来たやつ! 作ってくれなかった!!」
「いひ
……
はぁ
……
はぁ
……
」
「椅子に座れ」
エメトセルクがヒュトロダエウスのグラスをテーブルに置くと、アゼムが勝手にそのグラスを取って口をつける。そして眉間に皺を寄せた。
「普通ちょっと魔法使ったらエーテル移らない!?」
「そんな子供のようなミスはしない」
「飢えてるねぇ
……
」
滲んだ涙を拭いながら、ぱんっとヒュトロダエウスが手を合わせる。
「ごめんねアゼム! この人にエメロロアルスに相談すれば?って言ったのワタシ!」
「お前かぁあああ!!」
アゼムが手を伸ばしてヒュトロダエウスの頬をぐにぐにと左右に伸ばす。いひゃいいひゃい、ごひぇんねぇ、と謝りながらも笑う彼の頬はよく伸びた。
「でも、実際最近のキミ、すごい混じり具合だよ。自分でも自覚してるよね」
「してるけどぉ
……
いいじゃんかぁ」
「いいわけあるか」
パッとヒュトロダエウスから手を離し、アゼムはグラスを抱えると定位置に戻る。二人がけのソファーの端で、いつもなら隣にエメトセルクが座ってるのに、今日はクッションが置いてあるだけでエメトセルクはテーブルの前の椅子に座ってアゼムに触れようともしない。
「お前今日泊まって行くか」
「えー、久しぶりだからお誘いは嬉しいけどいいの?」
「二人きりにされるとアレに襲われかねん」
「襲わないよ!!」
むむむ、と唸りながら空になったグラスをぱちん、と弾いてクリスタルの形にして棚にひょい、と投げるとアゼムはソファーにごろりと寝そべった。ぎゅう、とクッションを抱きしめて、じぃーっとエメトセルクを睨む。
「視線がうるさい。泊まるなら私の部屋に敷物を引くか。いいかアゼム、お前はそこだ」
ぱちんっとエメトセルクの指がなってソファーが簡易ベッドに変わる。浮気だぁ、とアゼムが泣き真似をすると、ヒュトロダエウスがニヤニヤしながらエメトセルクを突いた。
「昔はよく雑魚寝してたのに、恋人になった途端親友ですら一緒の部屋で寝ることを許せない心狭いキミの恋人だよ」
「いや、勝手に私の部屋に忍び込む可能性があるからヒュトロダエウスをこちらに置いとけば馬鹿な真似はしないだろう」
「自己防衛しか考えてないじゃん〜っ!」
ワッと両手で顔を覆うアゼムの隣にヒュトロダエウスが座り、肩を抱き寄せながらおーよしよしよし、と頭を叩く。ぺちぺちぺちと間抜けな音が響いた。
「いいからお前は先に風呂に入れ。アゼム、食い散らかしたものは片付けろ」
エメトセルクがヒュトロダエウスの腕を引いてアゼムから引き剥がし、風呂場の方へ押す。仕方ないなあ、と脱衣所に入り、そしてちらりと顔を出した。
「ゆっくり浸かって出る前に出るよ!って大きな声出すし、リビングにアゼムがいなかったら大人しくワタシがリビングで寝るからね」
「いいから早く入れ、余計な気を使うな、そうはならん」
ワハハ、と愉快に笑いながら脱衣所に消えたヒュトロダエウスを見送り、エメトセルクが溜息を吐く。そしてふとアゼムがこちらを見てることに気付き彼女を見下ろせば、ふくれつらでエメトセルクに手を伸ばしていた。
「ん!」
「なんだ」
「ぎゅっぐらいはいいでしょ」
「お前吸うだろう」
「吸わない!」
「信じられるか。ヒュトロダエウスが出てくる前に片付けるぞ」
皿をまとめて棚にしまうイデアごとに分ける様子を眺めながら、アゼムは触れてもらえなかった腕をパタリと下げ、またクッションを抱きしめる。本当に、抱きしめて欲しかっただけなんだよなあ、と目を閉じて、こてん、とソファーに倒れ込む。最近ずっとエメトセルクの寝室で寝ているけれども、もともとこの場所がアゼムの定位置だったのだ。寝心地の良さはずっと知っている。
不貞寝しちゃおう、と呼吸を穏やかにして行く。寝付きは良い方だし、こうして信頼できる人達がいる場所ならば、アゼムはあっという間に眠れるのだ。明日エメロロアルスを説得しよう、なんてとろとろ考えながら、アゼムは夢の中へ旅立った。
「
……
おい、アゼム」
あまりにもアゼムが静かなのでエメトセルクが振り返ってみれば、すよすよと穏やかな寝息を立てて彼女はすっかり眠っている。エメトセルクははあ、と息を吐いてぱちん、と指を鳴らして彼女のローブを寝巻きに変えて、ブランケットを掛ける。ふと、まだアゼムの恋を知る前に片想いだと思っていた頃、何度もここで無防備に眠る彼女を見ては触れたいという欲求を押し殺していたことを思い出す。今は触れられる関係のはずなのに、エメトセルクは手を伸ばすのを躊躇った。
触れたらきっと、エメトセルクが我慢できなくなる。その先の熱を知っているからこそ、堪えることを忘れてしまう。睫毛に絡まる細い髪一つ、肌に触れないように爪の先で払って、エメトセルクはアゼムの側から離れる。早くヒュトロダエウスが風呂から上がってくれれば良い。エメトセルクが愚かな行動を取る前に、さっさとこの時間を終わりにしたい。
ん、と喉を鳴らしアゼムが少しだけ身動いだ。ぽやんと開いた口からは穏やかな吐息が溢れ、白い頸が細い髪の隙間から見えている。
エメトセルクはもう一度指を鳴らし、アゼムのブランケットを一回り大きく分厚くして、彼女の輪郭をまろやかにぼやかす。親友にすら妬いて、見せたくないと思うのだから、どうしようもない。
風呂場の方から、ワタシ今から上がるからな!なんて大声が聞こえる。うるさい、と怒鳴り返して寝こけたアゼムが起きないのを確認すると、エメトセルクはヒュトロダエウスを静かにさせるために風呂場は向かった。
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