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柄
2024-03-31 15:02:12
2005文字
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いつかの夜から朝へ
漆黒5.0後クリスタリウム戻パーティ後の双子の話、絶対秘話にあると信じてたのになかったから20分で書いた小話
声をあげて笑うと言うことは、とてつもなく体力を使うものだ。何度目かわからないグラスをぶつけ合う音に、誰かが語るいつかの冒険譚に、楽しげに鳴り響く音楽に、くるくると跳ねるように回って踊って、笑って、笑って、涙が出るほど笑って、目が合うとあの人も嬉しそうに笑って。きらきらと輝く星々を指差して、一際明るい星を繋げてアリゼーが知る話をいくつか話して、ねだって、笑って、笑って。
多分、アリゼーは笑い疲れて眠ったのだろう。微かに隣に座るアルフィノの肩に頭を乗せた記憶だけはある。満たされる疲労感は心地よくて、少しだけ、少しだけど。
「おや、目が覚めてしまいましたか」
吐息混じりのゆったりした微かな声と、ふわふわゆらゆらと波のない湖に浮かぶような感覚。薄ら開いた瞼の隙間からは宴の眩い灯りは見えず、代わりにこちらを覗き込む良く知る男の顔が見えた。
「
…………
んん」
「眠いのでしょう。大丈夫です。夜の帳は必ずや貴女の夢を守ることでしょう」
ここはどこだろう。覗き込む彼の向こう側には、ようやく取り戻した美しい夜空見える。遠くさんざめく宴はまるで小さなオーケストリオンから溢れてるようで、ときどきやわらかな風が微かな花の香りを届けてくれる。
ああ、星だ。あの人と私たちが取り戻した、この世界の空。
美しいビロードのような艶やかな夜に散らばる宝石のような輝き。願いを込めて、祈りを込めて、時には信仰を映して物語を紡ぐ、美しい星。あちらも、こちらも、変わらずに歌う星の煌めき。
胸に広がる誇りにもっと空を見つめていたいのに。ふあ、と漏れたあくびで涙が滲んで、けれどより一層きらきらと囁くように輝く。
ああ、よかった。空は確かにそこにある。もう一度だけ。もう一度だけ広がる星空を見つめて、うっとりとアリゼーはまた瞼を落とす。
「寝たか?」
ウリエンジェの後ろから顔を出したのは、アルフィノを抱えたサンクレッドだ。ウリエンジェは静かに頷き、横抱きにしたアリゼーを起こさないようにそうっとまた歩き出した。
きっと宴はまだ続くだろう。けれども、今参加する必要はない。これからまたいつだって、誰かをお茶に誘えばきっと、美しい空の下でのティータイムが叶うのだから。
何か楽しい夢を見た気がする。けれどもアルフィノがふと目が覚めたらその瞬間、楽しい気持ちだけが残って夢は遠く消えてしまった。いったいどんな夢を見たのだろうか、とアルフィノはまだ鈍い思考で考えて、そして不意に目の前で眠る片割れに気付いた。
どこかあどけない顔で眠る彼女は、よくある眉間の皺はひとつも見当たらない。口元は珍しいほどに微かに綻んでいて、ずいぶんと幼い表情に思える。
アリゼーのこんなにも穏やかな顔を見たのはいつぶりだろう、とまだ寝ぼけてるアルフィノの思考はあっちらこっちらへと飛んでいく。なぜ彼女が隣で眠っているのかも、ここがどこなのかも。そんなものは今とアルフィノにとっては優先度の低いことだ。微睡みの中で充分に寝ぼけているアルフィノは毛布から片手を取り出すと、とん、とん、とアリゼーの上で優しく拍子を取った。
それは本当に、本当に幼い頃。怖い挿絵の本を読んで、半泣きでアリゼーが眠れない、なんて言うのだから。アルフィノは自分が怖いのを必死に隠して、優しい両親の真似をしてアリゼーを寝かしつけたのだ。何故かそんなことを思い出して、とん、とん、と。そうしなければならない、と寝ぼけた使命感で優しく、柔らかく。
遠くから聞こえるのは微かな動物の鳴き声ぐらいだ。本来ならば朝早い職人達の賑やかな声が聞こえそうなものだが、きっと今日は世界中が寝坊しているのかもしれない。そんなふうに思えるほど静かで、広くて狭い空間にはアルフィノのアリゼーだけしかいないようで。
彼女の眠りを守らなきゃ、なんて兄の使命感と、そろそろ起きなきゃ二人揃って朝ごはんに遅れてしまう、なんて兄の危機感と。
ぼうっとアリゼーの顔を見つめながら、とん、とん、とん。柔らかく、優しく、鼓動より少しだけゆっくりと。
不意に。白い睫毛が縁取られた瞼がそっと動いて。ぼんやりと彷徨う視線が、アルフィノを捉える。
ああ。朝だ。
クリスタリウムに、夜のカーテンが開け、夜明けを越えて。青空が眩い朝が来たのだ。
ようやく思考がそこへ辿り着いて、アルフィノは口元に笑みを浮かべる。
「おはよう、アリゼー」
「
……
おはよう、アルフィノ」
まだ寝惚けてるアリゼーよりもほんの少しだけ早く、ようやくアルフィノとアリゼーが同じベッドに放り込まれてることにアルフィノは思い至る。
んん、と目を擦るアリゼーが気付いて恥ずかしさでアルフィノに盛大に八つ当たりするまで、あと少し。彼女より少しだけ早く生まれた兄として甘んじて受けとめようと、アルフィノは覚悟を決めた。
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