7flowerS
2024-06-05 15:37:11
2696文字
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むかしの話② 精神摩耗

FGOの織田姉弟の織田信勝サイドの生前の話。姉の為の謀反とはいえ、何も告げず死んでいくということはきっと姉に憎まれるのだ。そう思うと計画を止めてしまいたい衝動に駆られる。うるさい、いいのだ、自分は憎まれてもいい。自分だけ好きならいいのだ…見返りなんていらない。連載の夫婦ごっこから過去の話のみ抜粋。

 その日、信勝は久しぶりに深く眠った。けれどそれはいい意味ではない。長い悪夢を見ていた。

 それは孤独だった過去の夢だった。



 最近僕は毎晩悪夢をみる。内容はいつも同じ。子供の頃が泣いてすがってくる。

……「いやだ、いやだ。姉上に謀反なんて、絶対にいやだ!」……

 泣きわめく子供の横をいつも通り過ぎようとして余りに強い力に立ち止まってしまう。しつこいしうるさい。昔は姉も僕をこんな風に見ていたのだろうか。

……「どうして姉上の敵にならなきゃいけないの!? 僕は姉上が大好きなのに!」……

 子供に何が分かるんだ。好きだって気持ちだけじゃなんにもならない。行動することが必要なんだ。姉上は敵が多くて、僕が本当に味方なら今は敵にならなきゃならない。

……「だってこの計画じゃ僕は死んじゃうんだよ!? 死んだら姉上にもう会えないよ!」……

 死ぬことくらいなんだ。僕なんて死んだっていいだろう。僕だって僕が死ぬ事なんてどうでもいい!

……「今なら間に合うよ。全部止めて姉上に計画を告白するんだ。それで終わる、あいつらは姉上に懲らしめられてそれで全部元通りになる」……

 駄目だ! あいつらは多いんだ。束になれば姉上だってただじゃすまないかもしれない。信じられないけどまだいるかもしれない。それにあんなやつらが生きてること自体許せない。

 全員殺してやる。惨たらしく死ねばいいんだ。時間をかけて炙り出して後腐れなくみんな殺さないと……あんなやつらを集める僕自身だって殺してしまわないと。姉上の為なら僕は平気だ! 死ぬことだってものの数じゃない!

……「平気なんてうそ」……

 息ができない。気がつくと僕は地面に倒れていた。子供の僕は少し成長した姿になって僕をじっと見ていた。その細い指先が喉に触れただけなのに呼吸が出来なくなっていく。

……「だって「ぼく」泣いてるじゃない」……

 否定しようとしたが頬に温かい水が伝う。子供はさっきまでの幼さはなく、冷たい瞳で僕を見ていた。

……「馬鹿な「ぼく」。お前に耐えられるわけがない。……なにも言わないで敵として死ぬなんて臆病者の僕にできるもんか。毎晩本当は味方ですって言うの堪えてるくせに」……

 うるさい。うるさい。

……「死ぬのは耐えられる。馬鹿な連中に愛想笑いして殺すのを我慢する事だって耐えられる。人も殺すし馬鹿げた戦だってする。
 姉上のためなら大抵のことは僕は耐えられる……でも憎まれることだけは耐られないだろ? もうやめよう、姉上に泣いて謝ろう」……

 僕は「ぼく」を突き飛ばした。いつのまにか短刀を持っていて、子供の自分を刺した。夢の中のことなのに僕は何度も「ぼく」を殺した。

 何度だって自分を殺し続けた。姉のためなら平気だ。平気だ。僕は大丈夫。平気、平気平気、へいきへいきへいきへいきへいき。大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫。ダイジョウブダイジョウブダイジョウブダイジョウブダイジョウブ。

……「たすけてって言いたいくせに、うそつき」……

 だまれ!!!!!




 目が覚めると一人だった。頬に手を当てるとべっとりと涙がついていた。手ぬぐいを探して立つと月光が頬をかすめた。

 深夜だった。昔、夜に悪夢を見て姉の寝所に潜り込んだことを思い出す。姉は情けないと言ったが笑って一緒に寝てくれた。六つの時だっけ、七つの時だっけ……

……

 一人で涙を拭うと僕は机に向かった。どうせ眠れない。眠っても悪夢を見るだけだ。紙を出して、今後の計画を書き出していく。朝には燃やすから真夜中に目が覚めてよかった。

……「もうやめよう、姉上に泣いて謝ろう」……

 悪夢の声を振り払うために筆に集中した。
 今日酒宴にきた連中の名前を書こう。また人が増えた。よく見知った顔をもあったけど、あまり知らない顔も多かったからちゃんと記憶を整理しする必要がある。

 そうだ、この名前は知っている。

 姉への謀反を企む輩は昔からの織田家の家臣が多く昔からの顔見知りが多い。確かこいつはこの前祝言をあげて楽しく暮らしているとか。そしてこいつはこの前子供が産まれたとか。

 一瞬、なんて恐ろしいことをしているんだろうと筆が止まってしまった。

……くそ」

 涙がこぼれて墨が滲む。どうして僕は弱いんだろう。こんな風だから大人になってから姉上は遠くでもっと気の合う仲間とつるむことが多くなった。父上と僕だけが姉上を理解していた時代はとっくに終わっていた。

(これが一番いいのかもしれない、だって無能な僕が姉上にしてあげられることなんてこれが最後かもしれない)

 袖で涙を拭って机に向き直る。姉を殺そうとしている時点で僕を殺しているも同然だと名前から感情をはぎ取っていく。

(計画は必ず成功させる……僕が姉上の味方だってことは僕だけが知っていればいい。姉上は知らなくていいんだ。恩知らずの弟だって、いやなやつだったって僕のことなんかすぐ忘れればいい)

 無意識に拳を握り込んで紙にしわができる。また涙が出たので何度も目をこすった。指か目か、わずかに血がにじむ。

(僕は姉上に忘れられたっていい。僕だけが自分の気持ちを知っていればいいんだ。見返りなんていらない、愛なんていらない。そんなものを望む弱い僕なんか死ねばいいんだ)

 涙が止まらないので短刀を取り出して手の甲を刺した。一度では止まらなかったので数度刺すとようやく涙が止まったので計画書の続きを書く。

 今度は落ち着いて文字を書けた。咄嗟に刺したのが利き腕でなくてよかった。

(これでいいんだ。あいつらを殺せて、僕は姉上が大好きで子供の頃の思い出がある。それで十分)

……「うそばっかり」……

 遠くで小さな子供が「うそつき」と言った気がした。でももう僕は耳を貸さなかった。そう続けるうちに声自体聞こえなくなっていった。

 明け方、ようやく計画書は完成した。もう左手はろくに動かなくなっていた。殺す人々の名前を三度見直す。

 名前を記憶した時点で庭に出た。人気のないところで紙を燃やすとようやく頬は乾いた。

 計画書が炎の中で燃え尽きると胸の中でも何かが消えていく。なんだろうこれ。でもなくなると代わりに随分身体が軽くなった。

 もう二度と泣かない。僕は弱いけどきっとやり遂げられる。姉上にどう思われても子供の頃の思い出があれば僕は大丈夫。

……がんばろう」

 最後まで全て胸の内にしまっていけるように。