アヤ
2023-09-02 05:24:48
1327文字
Public レントキ
 

背中に感じる

20230902

※ワードパレット『背中に感じる』振り返る/温度/まなざし



 かすかな気だるさとともに目が覚めた。カーテンがぴたりと閉じられているせいで、もうすっかり朝の時分だというのに、寝室はぼんやりと薄暗い状態が保たれている。
 余韻の残るベッドから抜け出そうとしたトキヤは、――そこでようやく、自身の身体に背中から絡みつく恋人の存在に気付いたのだった。「……レン、起きて」そうやわく言葉を落としたのだけれど、彼からの返答はない。代わりに、ベッドから逃すまいとでもいうように、彼の腕はよりいっそう強い力でトキヤの身体を抱きすくめる。……つまり、レンはとっくに目を覚ましているということだ。
 首の後ろ、剥き出しの皮膚に口付けが落とされる感触がある。
……レン」
「んー?」
 咎める声色でふたたび恋人の名前を呼ぶけれど、高い温度を保つくちびるは尚も可愛らしい悪戯ばかりをくりかえす。頚椎を食み、首から肩のラインを辿って、先端に口付けた。こそばゆさに身を捩るトキヤを、レンは喉の奥でくつくつと笑っている。
 めずらしく部屋着を纏う(と言ってもスウェットを履いているだけで、上半身は美しい体躯が剥き出しである)レンは、トキヤの身体を捕らえる腕にさらにぎゅうと力を込めた。――不意をつくみたいに脚の付け根にかたいものが擦り付けられる。
……あたっているのですが」
「わざとだよ」
 甘えた声でレンが言う。……付き合いたての学生どうしでもあるまいに。思わずというふうにトキヤは嘆息を零したが、多忙なアイドルであるふたりのオフが重なる機会はめずらしく、心なしか気持ちが浮ついていることも事実だった。
 首を捻り、後ろにあるレンの顔を見る。サファイアを模した彼の瞳は高い温度を保ち、欲の色をはっきりと滲ませている。「……待って」――あとすこしだけ、可愛い微睡みを堪能させてほしい。そう思うのだけれど、トキヤのうなじにふたたび顔を埋めたレンは、くうんと飼い犬がご褒美をねだるみたいな声を出してこちらのご機嫌をうかがうのだった。「……
 誰よりも他人に甘えることを苦手としていたはずのおとこが、知らぬ間に、……否、その要因の多くがトキヤのうちに存在していることは疑いようもない事実であり、だからこそ、絡まる両腕を無造作に振り払うことなんてできやしないのだ。昨晩、散々愛し合った身体は特有の気だるさを残しているが、そもそもこの状況下においてお利口さんにおネンネできるほど、トキヤだって大人であるつもりはない。
 顔を上げたレンは、片方の手でトキヤの顎を捕まえる。薄くひらいたくちびるが合わさり、啄むみたいなキスが落とされた。どろどろと煮詰められた幸福が全身を纏い、穴から入り込んだそれが肺をすみずみまで満たすので、意図せず窒息死しそうになる。
 ――久々のオフだし、ドライブにでも行こうか。
 昨晩の彼はたしかにそう言っていたはずだけれど。次第に濃くなる口付けを享受しながら、口約束のドライブデートはお預けになりそうだと他人事のように思う。それならそれでトキヤは構いやしないのだった。何度もデートの機会が訪れるように、この先もずうっとレンの隣に在り続けるつもりなので。