アヤ
2023-07-22 12:05:32
1287文字
Public **レン
 

bite

⚠︎︎トキレンです。

ワードパレット
bite(愛情表現/髪を下ろす/勢い)

 太陽を溶かしたみたいに美しい橙色が、肩のあたりでふわりふわりと揺れている。高い位置でくくったポニーテール、そのせいで普段は隠れているうなじが露になっているのが新鮮だった。……この思考はすこし年寄りじみている気がする。そう思って、トキヤは自嘲気味にくつりとちいさい笑みを零す。
 今日はレンが食事を用意する番だった。ふたりで生活をするうえで設けられたルールに基づき、必要な家事は負担が分散するよう日替わりでそれぞれに割り振られている。
 ダイニングテーブルに腰掛け、キッチンで作業を続けるレンの背中を眺めながら、美しくととのった造形を良いなあと思う。長い手足、引き締まった身体、キラキラとまたたくサファイアの瞳。早くこちらを振り返って、イッチー、とそのはちみつを煮詰めたような甘い声で名前を呼んでほしい。
 ふたりのオフの日が重なったのは数週間ぶりのことで、「ドライブでも行くかい?」と微笑む彼に「今日は自宅でゆっくりと過ごしましょう」と返したのだった。――もちろん、多分の意味を込めて。
 トキヤには『アイドル・神宮寺レン』を正しく愛している自覚がある。それでもたまの休日くらい、美しく愛しい自分だけのおとことして、彼の存在をひとり占めさせてほしいという淡い願いを抱くことくらい許されても良いはずだ。まあ「普段は我慢しているのだから」という理屈を、この歳で押し通すことが許されるのかは甚だ疑問ではあるが。翔あたりには「子どもじゃねぇんだから」と呆れられるかもしれない。真斗にはきっと「らしくない」と驚かれる。那月とセシルは寛大な反応を見せるに違いなくて、音也もおそらくそちらのタイプだ。
 ――どちらにせよ、改めるつもりもないのだけれど。

……レン」
「うん……?」
 気だるそうな声色で応じ、レンは条件反射のようにもぞりと身体を動かした。同じベッドのうえ、こちらに背を向けて横たわっているにも関わらず――昼間、あれだけ露になっていたうなじは美しい髪のしたで鳴りを潜めている。そのことが無性につまらなく、同時に、とても愛おしく思えた。
 むくりと頭を擡げた悪戯心を抑えるつもりもない。
 彼の腰に腕を回し、ぐっと力を込めて引き寄せる。互いになにも身に纏っていないから、温度の残る皮膚どうしがひたりと触れ合った。近付いた距離をさらに埋めるように、下ろされた髪のしたで眠るうなじにトキヤはくちびるを寄せる。彼の甘い匂いがふわりと鼻腔をくすぐった。
……っ、」
 瞬間、皮膚のしたを駆け巡った衝動に、心臓がどくりと振動する。勢いのまま口を開き、触れたうなじにぐぐと歯を押し当てた。――ひゅ、とレンが息をのむ音がする。
……イッチー……?」
……
……良いよ、噛んでも」
……噛みませんよ」
「そう? 残念」
 顔は見えないけれど、レンのくちびるは楽しげに弧をえがいているに違いない。腕を後ろへ伸ばしたレンはトキヤの頭をやわく撫でる。そうして、よしよし、と子どもをあやすみたいなことを口にするので、毒気を抜かれたトキヤも思わず、ふふ、と笑いを零したのだった。