アヤ
2023-05-11 19:06:31
1310文字
Public レントキ
 

そうやってあなたはいつも

真ん中バースデーワンライ|20230511

 どうぞ。気に入ると良いんだけど。
 何度も耳にしたお決まりの台詞とともに、レンは紙袋を差し出した。印字された店名に見覚えはなかったけれど、彼のセレクトに『ハズレ』など存在しないことをトキヤは誰よりも理解している。
「これは?」
「フレーバーティーだよ。最近見つけたお店なんだけど、美味しいからイッチーにもお裾分け」
……ありがとうございます」
 視線を落とし、手渡された紙袋の中を見る。白いキャニスターと個包装されたパウンドケーキがふたつ。それから、シルバー製のティーキャンディースプーンまで添えられている。「気に入ると良い」なんて健気なことを口にするが、彼はトキヤの好みをすみずみまで熟知しているのだった。――食も、それ以外も。

 今回に限って連絡もなく部屋を訪れた彼は「そろそろお暇しようかな」と明るく言う。
……レン」
「うん?」
 人好きのする美しい笑みを浮かべ、名前を呼ばれた彼は嬉しそうにトキヤの方へ視線を向けた。

 初めの頃は『一人旅のお土産』というそれらしい名目だったように思う。「渡したいものがあるんだけど、すこしだけ会える?」――トキヤのオフ日をきちんと把握したうえでの控えめなお願いたちは、トキヤが断らないことも想定のうちだったのだろう。毎度、会うたびに続いた『ランチのお誘い』も含めて。
 それがどうして、……気付かぬうちに。『一人旅のお土産』は『イッチーのための贈り物』へと姿を変えていったのだった。そこに多分の意味を含ませておきながら、――今日はこのまま帰るなどと言い出すのだ。
……そうやって、」
 ――そうやってあなたはいつも、大切なことを口にしないから。外堀を埋められながら、鈍感なふうを装い、今の今まで気付かない振りをしてきたけれど。
……イッチー?」
 どうしたの、と顔を覗き込まれる。トキヤの表情から胸中を掬い上げようとする彼は、この状況について言うまでもなく計算尽くなのだろう。きらきらとまたたくサファイアを眺めながら頭の片隅でそういうことを考える。

 トキヤの体内も、部屋の中も、彼からの『贈り物』で溢れている。文字通りすみずみまで。『気付かぬ間に』などではなく、気付いたうえで好きにそうさせていたのだ。すこしずつ蓄積され、トキヤの身も心も奪ったそれは、恋の形をした毒のようなものだ。そんなことわざわざ言葉にしなくとも初めからわかっている。……だから『贈り物』なんて遠回しなことをせずに。
――大人しく、あなたを私にください」
……っ、」
 ヒュ、と彼が息をのむ音がする。――自ら仕掛けておきながら、彼はトキヤが痺れを切らすと欠片も想像していなかったようだった。百戦錬磨のような顔をしているからふたりの恋についてすみずみまで『計算尽く』なのだと勝手に思っていたけれど、『愛の伝道師』は案外詰めが甘いらしい。
 眩しいなにかを見つめるようにレンの両目が細められる。
……ふふ、うん」
 口元をゆるめ、彼は幸福そうに微笑んだ。
 静かに落とされる甘い口付けを受け入れながら、――恋をした彼は想像していたよりずうっとかわいい顔をするのだなとトキヤは思う。