アヤ
2023-03-29 23:17:19
1318文字
Public **レン
 

無題

カミュレン|20230329

※ SSS メイキングコメンタリーCDの内容に触れています。



 案外あどけない表情で眠るのだなと、レッスン室のすみでちいさくなっている『相方』を見下ろしながらカミュは思う。
 長い手足を折りたたみ、立てた膝のうえに頬杖をついて、彼――神宮寺レンは柄にもなく無防備な寝顔を晒しているのだった。
 視線を合わせるように身を屈め(と言っても、肝心の彼は瞼を下ろしているので実際に視線が合うことはないのだけれど)、カミュはレンの顔を覗き込む。――深い意味はない。言うならば軽い出来心のような。
 SSSのレッスンが本格的に始まり、ST☆RISHのメンバーもQUARTET NIGHTのメンバーも、相当に過密なスケジュールをこなす日々が続いている。レッスンの合間の休憩時間にうたた寝をしてしまうことくらい大いに有りうることだった。それでも、シャッフルユニットという企画がなされた当時では考えられないような状況だと素直な感想を抱く。
 自身のグループ内で彼が年長者らしく振る舞うさまを多々見かけるが、彼は本来、『後輩』という立ち位置でいる方がしょうに合っているのではないだろうかと思うことがある。マスターコースを担当していた蘭丸との関係も良好なようであるし、――シャッフルユニット以来、カミュ自身ずいぶん懐かれている自覚があったから。
……ん」
 長い睫毛がかすかに震え、閉ざされていた彼の瞼がゆっくりとした仕草で持ち上がった。その下から、美しいバランスで埋め込まれる二粒のアクアマリンが顔を出し、寝惚けたさまを隠さぬ彼の瞳はゆらゆらと視線を彷徨わせる。
……っ、」
 それからばちりと音が聞こえるほどはっきりと、ふたりの視線はぶつかった。ひゅ、と喉の奥を鳴らし、わかりやすく動揺の色を示した彼は、……ぱちりぱちり、二度大きなまばたきを零してから「……オレ、眠ってた……?」とたどたどしく口にする。
「ほんの数分だと思うが」
「あー……ごめん。気が抜けてたのかな。……しっかりしないと」
……休憩時間くらい貴様の好きに過ごせば良いだろう」
……うん」
 ありがと、バロン。
 そう言って、レンははにかむような笑みを浮かべてみせた。――熟れたいちごを模す、ほんのりと赤く染まった頬はすこし前のレッスン中の彼を思い起こさせる。彼は、かつて自身を『愛の伝道師』と称していたはずだけれど、――目前に迫ったカミュの顔に対して、本気で照れたような素振りを見せたのだった。短くない時を経て、ST☆RISHという居場所を見つけて、彼は幾分も丸くなったに違いない。あるいは、彼の本来の性質が正しく表に出てきたと言うべきか。
 それだけの話なのだろうか。――本当に?
……バロン?」
……
 まっすぐレンを見つめたまま黙りこくっているカミュを心配したようで、今度は彼の方がこちらの顔を覗き込むような仕草をする。またたく宝石を視界の中心に据え、――カミュは胸のうちに宿る砂糖菓子に似た感情を自覚した。
 つまるところ、自身でも気付かぬ間に、目前の後輩を好ましい存在だと認識していたらしい。頬を熟れさせた彼のすがたを、かわいらしいと思うほどには。