アヤ
2023-02-16 19:00:10
576文字
Public レントキ
 

受胎

20230216

ぱちり。常よりも幾分はっきりと目が覚めた。二度、三度とまばたきをするうち、膜が張るようにぼやけていた視界も、次第に明瞭になっていく。――ふと、ベッドの脇で誰かが膝を抱えて座っていることに気が付いたレンは、ゆったりと身体を起こし、そちらの方へ視線を向ける。誰であるかなど確かめるまでもなく、愛しい恋人が、普段からは想像も付かぬようなあどけない表情ですうすうと寝息を立てているのだった。アイドルらしくすらりとした身体をちいさく丸めるさまは、腹のなかにおさまる胎児のようだと思う。……あるいは、蛹のなかで羽化の瞬間を待ち望む蝶や蛾のたぐいか。――イッチー、早く起きて。ラブソングを紡ぐ声色で、愛しいおとこの名前を思うがままくちびるに乗せる。彼が狭い空間で息をひそめるように眠っているのは、おそらく、レンの眠りを妨げない健気な恋人であろうとしたがゆえなのだろうけれど、――煩わしいことなどなにも考えず、仄暗い欲も含め、……胸のうちに仕舞いこんだつもりになっているすべてをさっさと吐き出してしまえば良いとレンは常々思っている。「お前が口にすることは、オレはなんでも叶えてあげるのに」……けれど、彼がそうであることを望むのなら、なにも気付かぬ鈍感な恋人の振りをし続けるのも悪くない。それもまた、かわいらしく美しい、ふたりの間に横たわるべき愛の形だと思うから。