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アヤ
2023-01-06 18:32:59
1158文字
Public
レントキ
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誓詞の弔い
20230106
水のなかでするりと腹のうえを撫でられる。なにか意図があってなされた行動というわけではないようだった。
――
一種の手慰みのような。
後ろからトキヤの身体に腕をまわすレンは、そうして主人に甘える飼い犬のように、首筋に自身の鼻先を擦り付ける。
「
……
」
相手に尽くす
――
ときに尽くしすぎるきらいのある彼が、こうして素直に甘えてくるのはめずらしいことだ。けれど、彼の性質が本来そちら側であることをトキヤはきちんと理解している。
……
彼がかたくなにそれを受け入れようとしないから、普段はされるがまま、トキヤの方がわかりやすく甘やかされているだけで。
「
……
ん、」
ちゅ、ちゅ、とわざとらしい音を立てて、首筋を辿るように彼は戯れのキスをくりかえす。皮膚越しに伝うやわい感覚は、数刻前の行為を色濃く思い起こさせた。
――
ステージのうえで数多の『レディたち』を虜にするおとこが、その美しい瞳に欲を滲ませ、トキヤの身体を懸命に求めていた瞬間を。
――
……
イッチー
……
ねえ、
――
……
もう、挿れて良い
……
?
優しくそう尋ねる彼は、言葉とは裏腹に、迷子になった幼い子どものような表情を浮かべていた。拒まれるはずがないとわかっているだろうに、
……
恋人に対して身勝手な行為を強いているのではないかと怯えるレンのさまが、トキヤの視界にはっきりとうつりこむ。
今日は、とくにその余韻を長く引き摺っているらしい。ぎゅううと縋るように強く身体を抱きすくめられて、
――
思わず、トキヤはくすくすと笑い声を漏らしたのだった。首をそっと動かし、すぐ傍にある彼の頬に触れるだけのキスをする。
「
……
もしかして、なぐさめられてる?」
「まさか。かわいい恋人をめいっぱい甘やかそうと思いまして」
……
なにそれ。ぽつりとひとりごつようにつぶやいて、レンはちいさく息を吐いた。
――
不安の入り交じる声色だったけれど、それでも幾分気は紛れたらしい。
……
沈んでいた顔が持ち上がる。そうして、すり、と頬を寄せた彼は、消え入りそうな声で「キスして」とおねだりをする。
「
――
ええ、喜んで」
磁石が引き合うようにふたつのくちびるが重なった。砂糖菓子を模した甘い口付けは、きっと、彼のなかに存在するちいさな憂いも溶かしてくれるだろう。
「
……
レン」
睫毛が触れそうなほどの至近距離で、彼のサファイアがきらきらとまたたいた。そのさまを眩しく眺めながら、トキヤはうっとりと瞳をゆるませる。
彼の撫でた皮膚のした、
――
トキヤの『腹』のなかで、今この瞬間も、数億もの彼の分身たちが役目を果たすことなく死んでいく。その事実が、なににも代えがたい幸福をトキヤにもたらすのだった。
――
これから先もずうっと、この美しくいとおしいおとこを独占できるという証明に値するので。
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