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アヤ
2022-12-17 07:09:24
2266文字
Public
レントキ
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蝕
20221217
ロウのように白い肌
——
じんわりと汗の滲むさまがまぶたの裏にこびりついて離れない。声を漏らすまいと懸命に耐える彼は、けれどレンに身体を揺さぶられるうち、あんあんと甘い嬌声を零すことを厭わなくなる。
——
いつもだ。
一切の穢れを知らぬように見えて、彼は人並みの性欲を正しく持ち合わせている。美しいバランスで嵌め込まれた二粒のアメジストに欲の色をじんわりと滲ませて、もっと、とせがむ彼を何度目の当たりにしてきただろう。
——
そのたび、暴力的な欲が皮膚のしたを這いずりまわる感覚に襲われ、眼前の美しいおとこを食したくて堪らなくなった。
安いアパートの一室にふたりの荒い呼吸が乱雑に散らばっていく。そうして彼のなかをえぐるように掻き混ぜ、レンが腰をうちつけた瞬間、宙を舞う彼の足先はぎううと強く丸められる。
蝕
コーヒーの香りに誘われるように、レンは重たい瞼を持ち上げた。夢と現のあいだを揺蕩いながら、ほとんど無意識にシーツのうえを右手でぐるりと掻き混ぜる。しかし、レンの求めるぬくもりは存在せず、熱を持たぬリネン生地を無意味に撫でただけだった。
……
甘い余韻に浸ることなく、一緒に眠りについたはずの彼はさっさとベッドから抜け出してしまったらしい。すこしくらい恋人みたいな戯れを許してくれても良いのに。落胆の滲む嘆息を零して、しぶしぶというようにレンも身体を持ち上げる。
探しびとの姿はすぐに見つかった。一人暮らし用の狭いアパートはゆくえを眩ませるのに向いていないし、そもそも彼に『かくれんぼ』の趣味はないはずだから。レンの視線の先、必要最低限のものだけを備えたキッチンで、こちらに背を向けるトキヤは自身で入れたインスタントコーヒーを飲んでいた。シワの残るシャツを羽織り、腰まで覆う布地から白い素足がすらりと伸びる。
——
毒を孕むその光景に、レンはうっとりと目を細めた。
安くて狭い、お世辞にも快適とは言い難いアパートは、ふたりの逢瀬のためだけに用いられる。レンの人生のなかでほとんど縁のなかった環境だからこそ、美しい背徳感とのバランスが良い。普段は口にしないような安物のコーヒーを無感動に啜るトキヤを見るのも、他の誰をも知りえぬ彼を独り占めしているように思えて気分が良かった。
「
……
」
冷めたベッドからようやくの思いで抜け出し、口を閉じたままキッチンの方へ移動したレンは、こちらを一瞥もしない彼の背中にぴたりと身体をくっつける。
「
……
おはよう」
彼は、レンが起きていることに最初から気付いていたようだった。驚いたふうもなく、ちらりと視線だけ寄越して「おはようございます」といつもと変わらぬ挨拶を口にしたので。
「
……
ベッドが冷たくなるまで放っておかないで、ちゃんと起こしてよ」
「声をかけてもどうせ起きないでしょう」
「
……
そんなの、わからないだろ」
シャツを纏うだけの無防備な身体に腕をまわしながら、不貞腐れたようにくちびるを尖らせる。そうして計算し尽くされた美しい体躯をぎゅうと強く抱きすくめた。彼の努力のうえに成り立つ造形をレンは心から愛しているけれど、たとえ彼が怠惰に溺れ、ぶくぶくと醜く太ったとしても、今と変わらぬ愛を注ぐだろう。
……
そういうことを、ほどよい筋肉を携えた彼の薄い腹を撫でながらひそかに思う。
そのまま表面をなぞるように右手をしたへとおろしていく。シャツに隠れるかどうか、
――
内腿のある部分に触れた瞬間、ざらりとした感触が伝い、レンはそこで手を止めた。陶器のように美しく滑らかな彼の肌に青黒く変色した痕が浮かぶ。
……
この位置から見ることは出来ないけれど、それを彼に与えているのはほかでもない、レン自身だ。
セックスの最中、暴力的な欲が内側をのたうちまわり彼の美しい身体を食したくて堪らなくなった。たとえではなく、物理的な欲求としてレンのなかにたしかに存在する。
ゆるしを乞うた覚えはない。けれど、セックスのたび、大きすぎる衝動を抑えるようにトキヤの首元に顔をうずめ、くちびるをギリギリと噛み締めながら荒い息をくりかえすレンを哀れに思ったのか、彼の方から自身の一部を差し出してきたのだった。
――
ここなら、誰にも気付かれませんから。
アイドルの肌に傷を残すなんてゆるされるはずがなく、愛を注ぐべき相手を傷付けたいとも思わない。後悔するのは目に見えている。
――
そんなこと、誰に言われずとも痛いくらいにわかっていた。けれど、いちど『彼の味』を知ってしまったら、
……
もう、与えられたご馳走をお利口さんな顔で我慢するようなことはできなくなってしまう。
――
できなくなってしまった。
肌を重ねるたび、彼にゆるされたその部分に何度も何度も噛み付いた。歯型が消えてしまう前に新しい傷を付け、
――
そうしてすっかり青黒く変色した傷痕を、レンは指の腹でいつくしむように撫でる。
「痛む
……
?」
「いいえ」
彼の肩に顎を乗せ、機嫌をうかがうような声色で言葉を落とした。痛むかと訊ねるくせに、痕が消える未来を思うと心臓が潰れそうになるくらい怖くなる。
――
そういうことを願って良い関係ではないのに。
「
……
レン」
「
……
うん
……
? んむ、」
なに、と問おうとした声は彼のくちびるによって遮られた。やわく食むような甘さを孕む口付けは不要な思考を削ぎ落とすのにちょうど良い。
難しいことは考えるなと他の誰でもないトキヤが言うのなら。今はまだ、この微睡みに似た不安定な関係を続けていくのも悪くないとそう思える。
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