「無かったことにしねぇ?」
夜の帳が下りた頃、オレはキャスターに告げる。
「どちらかが止めたくなったら止める、最初に決めただろ」
耳鳴りがする。皮膚がひりつく。顔を上げられない。俯いた視線の先にはキャスターの爪先がこちらを向いている。
立っているだけなのに居心地が悪い。足は地に根が張ったように動かない。
「だからオレは
……」
空気が薄まってどんどん冷たくなっていくようだ。息苦しい。室内の気配はオレとキャスター。向かい合っている。二人しかいない、オレ達だけの秘め事。キャスターに何かを言われる前に、オレが全部話して終わらせなければならない。静寂が恐ろしく、乾いた舌を湿らせて急いで紡ぐ。
「同じオレ同士でヤるなんて一人でヤるのと同じだ、って言ったろ、そりゃそうだ。ひとくくりオレ達はクー・フーリン。オリジナルは同じで多少の違いは誤差だ。じゃあなんでオレ、じゃなくてオレは
…もう飽きたしオレじゃなくてもいいだろ他のオレを誘えば」
「飽きただぁ?」
びくりと身体が震える。逃げ出したいのに叶わない。足は突っ立ったまま、前にも後ろにも踏み出せず、キャスターの言葉を持っている。
「こっち向けプロト」
顎を掴まれて間近でキャスターの瞳とかち合った。
「飽きたってのが理由なら気に食わねぇ。けど遊びを終わらせてぇならそれでいい。オレとお前の遊びは終わりだプロト」
死刑宣告は意外と冷静に受け止められた。キャスターの顔は怖いが、一方的な話に怒っているだけだろう。
「じゃあこっからは本気の話といこうや」
キャスターは鋭い目つきをしている。何だそれ。終わりにしてくれ。僅かな望みも抱かせるな。オレは降りたい、キャスター。
けれどやはり足は動かず視線は逸らせず、オレはキャスターの次の言葉を待っている。
了
タイトルはお題配布サイト(
https://nanos.jp/iwantfly/ )より