ぶんどき
2024-06-03 18:09:58
1324文字
Public TRPG
 

今日もどうか、笑っていて。

鰯と柊 現行未通過❌
エンド1その後の自陣の話。


【 あらすじ 】
本編後、お尋ね者になり北海道に逃亡し教祖と信者と寿々の3人で細々と暮らしている。信者は殺し屋になった。教祖には人を殺している事実を伝えていないため、「コンビニの夜勤」と言っている。

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 今日も人を殺した。これまで何人の人を殺してきたかなんて覚えていない。食べた食パンの枚数を覚えていないのと同じだ。
 清澄長明はナイフについた血液を拭うと懐にしまった。



 人を殺すことに今さら抵抗なんてない。特に感情も伴わない。的確な殺し方も、後処理の仕方も知っている。だから、この仕事は自分に適していると思った。そして何よりも報酬金がいい。表立って言える仕事ではないのだから当然かもしれないが。
 自分と未知と寿々。三人分の生活費を稼がなくてはいけないのだ。未知の内職は正直生活費としてはあてにしていない。造花作りという人生で初の労働を、未知がやりがいを持っているならそれで得た報酬は未知が小遣いとして好きに使ったらいい。

 未知は何よりも『家族』を喪うことを恐れている。あれだけ大量の『家族』を一度に喪った時、未知は子どものようにわんわんと泣き縋ってきた。彼を抱き締めながら思い知った、ああ、この子は自分がいないと何もできないのだ、と。だから自分は必ず明け方には帰ることにしている。定時は守る主義だ。

 幸か不幸か、こういったことをしているうちに、裏社会でのコネクションが築かれつつある。仕事を斡旋してもらったり、武器の調達であったり。自分の冷徹な仕事ぶりはそれなりに裏社会でも評価され始めているらしい。

 今夜も仕事に出かけるため玄関で靴を履いていると、寝室から未知が眠気まなこを擦りながらやって来た。いつもなら寝ている時間なのに珍しい。
「ちょーめー、今日もお仕事……?」
「はい。夜勤です」
「そっか。がんばってね」
 ふわりと、未知はこれから清澄長明がコンビニの夜勤に行くのだと信じて疑わない無垢な笑みを浮かべた。その笑みに罪悪感を覚えないのかと問われると難しい話だ。だってあまりに今さらすぎる。──信者時代からそうだったのだから。
「はい」
「ああそうだ、未知」
「なぁに?」
「おやすみなさい」
 黒い手袋を外し、未知の頭をゆっくりと優しく撫でる。こうすると未知は喜ぶのだ。
「うん、おやすみちょーめー」
 にまにまとご機嫌な様子の未知は軽く手を振ってくれた。見送られるまま玄関の扉を閉める。

 自分の手のひらを見つめた。この汚れきった手でも、彼の頭を撫でるときだけは触れることが許されるような気がするのだ。やわらかい髪の感触を思い出しながら再び手袋をはめた。
 
 綺麗な造花に囲まれて、未知は家の中で平和に穏やかに過ごしていればいい。教団にいた頃のように。何も知らない、能天気で甘えん坊で無垢なあなたでいてほしい。ただ呑気に笑っていればそれでいい。その一片の穢れもない笑顔に救われる人がいるのだ。

 その他のことは全部、私がやりますから。
 
 己のしていることが善だと疑わないあなたを、必ず天国へと導こう。
 私が地獄に堕ちるその時までに。

 だから今日もどうか、笑っていて。