冬灯夜
2024-05-15 21:01:18
949文字
Public ザレイズ
 

小さくて大きな我儘

ザレイズ マクネヴァ
月から帰省後の二人
付き合ってない

 月から戻って来たら、後輩マークが離してくれない。――私を膝に乗せた状態で。
「あの、マーク」
「んだよ。どうせ向こうじゃあちこち忙しなく動き回ってんだろ。こっちに居る時くらいゆっくり休んどけよ」
「ゆっくりって、ひゃっ」
 マークが私の肩に顔を寄せる。途中で耳を掠めるものだから変な声が出てしまった。
「休みますけど、別にこの体勢でなくたって」
「カワイイ後輩の労いがご不満?」
「不満だとか嫌だとか言ってないでしょう!」
……そういう所なんだよなぁ、ネヴァンパイセンは」
 当然の抗議を伝えてもマークはため息を吐くだけ。首筋をその吐息が撫でて、思わず肩が跳ね――鈍い音を立ててマークの顎に直撃した。
「いっ」
「あっ、ご、ごめんなさいマーク、わざとじゃ……ほら、こうやって近すぎるとぶつかりますから、ね?」
「やだ」
「マーク」
 ますますマークは私の腹に回した腕に力を込める。
「しがみついたってどっか行くからな、あんたは」
……抱き着いてる、のではなくて?」
…………そういう認識あったのかよ?」
「この前、自分でそう言ったでしょう」
 マークが幼体の頃、私にしがみついて駄々を捏ねたことがあった。
 幼体のマークは秘密の存在で、フィル様の心か部屋にいるしかなかった。だから、ミリーナ様もフィル様も忙しくて一人にしてしまっていた時に。或いは、私が戦場に行く時に。
 行くな、と。
 小さな、本当にささやかな我儘で、願いだった。それも幼体の頃だけの、数えられる程の回数しか言わなかった。
 過日、月に行くのだと一番にマークに伝えた時の出来事はそれを思い出させたが、当の本人が抱き着いていると訂正していたではないか。
 だから今日のこれも抱き着いている、つまりはハグだと認識していたというのに、意外だと言わんばかりである。
 ふ、と吐息が再び首筋をくすぐった。
「そうさ。抱き着いてんだよ、カーリャ」
 そうして耳元で聞こえた声は柔らかく、どこか満足気で。
 一瞬、肩ではなく胸が大きく跳ねて。急に上手く喋れなくなる気がして。
 黙ったまま、マークの温度にそっと背を預けた。


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