月から戻って来たら、
後輩が離してくれない。
――私を膝に乗せた状態で。
「あの、マーク」
「んだよ。どうせ向こうじゃあちこち忙しなく動き回ってんだろ。こっちに居る時くらいゆっくり休んどけよ」
「ゆっくりって、ひゃっ」
マークが私の肩に顔を寄せる。途中で耳を掠めるものだから変な声が出てしまった。
「休みますけど、別にこの体勢でなくたって」
「カワイイ後輩の労いがご不満?」
「不満だとか嫌だとか言ってないでしょう!」
「
……そういう所なんだよなぁ、ネヴァンパイセンは」
当然の抗議を伝えてもマークはため息を吐くだけ。首筋をその吐息が撫でて、思わず肩が跳ね
――鈍い音を立ててマークの顎に直撃した。
「いっ」
「あっ、ご、ごめんなさいマーク、わざとじゃ
……ほら、こうやって近すぎるとぶつかりますから、ね?」
「やだ」
「マーク」
ますますマークは私の腹に回した腕に力を込める。
「しがみついたってどっか行くからな、あんたは」
「
……抱き着いてる、のではなくて?」
「
…………そういう認識あったのかよ?」
「この前、自分でそう言ったでしょう」
マークが幼体の頃、私にしがみついて駄々を捏ねたことがあった。
幼体のマークは秘密の存在で、フィル様の心か部屋にいるしかなかった。だから、ミリーナ様もフィル様も忙しくて一人にしてしまっていた時に。或いは、私が戦場に行く時に。
行くな、と。
小さな、本当にささやかな我儘で、願いだった。それも幼体の頃だけの、数えられる程の回数しか言わなかった。
過日、月に行くのだと一番にマークに伝えた時の出来事はそれを思い出させたが、当の本人が抱き着いていると訂正していたではないか。
だから今日のこれも抱き着いている、つまりはハグだと認識していたというのに、意外だと言わんばかりである。
ふ、と吐息が再び首筋をくすぐった。
「そうさ。抱き着いてんだよ、カーリャ」
そうして耳元で聞こえた声は柔らかく、どこか満足気で。
一瞬、肩ではなく胸が大きく跳ねて。急に上手く喋れなくなる気がして。
黙ったまま、マークの温度にそっと背を預けた。
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