よう、と手を上げた幼馴染みに、リゼットは眉を顰めた。
なにせここはリゼットの部屋だったので。
「何の用だ、ガスパル」
「
……あー、本当お疲れだな、リゼット」
不法侵入を咎める言葉がない、と指摘されてますます渋面になる。それに反論するのも億劫で、リゼットは確かに自分が疲れていると認めざるを得なかった。
白い上着が掛けられた椅子、その反対側の椅子に座ると、台所で作業をしているガスパルがちょうど視界に入る。シャツの袖を捲り上げ、コーヒーミルで豆を挽き、ドリッパーをセットして、ゆっくりと湯を掛ける。挽き立ての香ばしさが鼻をくすぐった。
コーヒーミルもドリッパーもフィルターも、いつの間にかガスパルが勝手に置いていった物だ。同じように持ち込まれた物がこの部屋には幾つかある。特に装飾の類は殆どがそうだった。
「ほい」
目の前に置かれたコーヒーに一瞬はっとした。コーヒーが滴る程の時間をぼんやりしていたらしい。ガスパルは薄切りのブレッドとジャム、取り皿を置いて上着を掛けた椅子に座る。
「ん、上出来」
コーヒーを一口飲んでガスパルは頷く。つられるように口を付けると苦味と酸味が広がり、喉を通る熱に身体が温められる気がした。ガスパルからスプーンを受け取り、赤いジャムを塗る。酸味の強いジャムはどこか懐かしい味わいで、コーヒーにもよく合った。
……コケモモだろうか。
「で?」
「美味いだろ。たまにはガスパルさんお手製コーヒーでも淹れてやろうかと思って」
「このラインナップはお前が食いたいだけだろうが」
「はは、当たり」
悪びれることもなく、ガスパルは笑う。
……昼も碌に食えないままだったのも、何の用務だったのかも、ガスパルはきっと知っているのだろう。リュンヌでの出来事そのものも。恐らく何某か関わっていたのだろう、ということしかリゼットには分からないけれど。
この幼馴染みは、見透かしたようなタイミングで来るのがにくらしく、そのくせ自分のことは何も言わないのが苛つく、どうしようもない男だった。
――どうしようもなく手を伸ばしたい時に、そこにいるのがほんとうに、ほんとうに、
――――。
手に残っていたブレッドを放り込み、コーヒーを流し込む。
「もったいねえ食い方すんなよ、おい」
「どうせお代わりも淹れるんだろう」
「そりゃ淹れるけどよ。へいへい、ちょっと待ってろよ。次はカフェオレにすっから」
同じようにブレッドを放り込み、行儀悪く咀嚼しながらガスパルは再び台所に立った。頬杖を突いて、その背中をひっそりと眺める。
次は酒に付き合わせよう、と考えながら。
恵多朗太さんにエアスケブで頂いたガスリゼから勝手に書きました(事後報告)
ありがとうございました
……!!
画像版
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