スサ
2024-06-03 13:24:15
2893文字
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【鬼水】ゴム用意してくる話

in初夜

 必要だと思ったので、とごく真面目な顔で見せられて、どういう顔をしていたか水木は自分でも思い出せない。
誰かに聞いたのか?」
 色々言いたいこと、聞きたいことはあったはずなのに、最初に飛び出したのはそれだった。たぶん、自分以外の誰かが目の前のこの、少年の身なりの男に色をつけたようで気に入らなかったのだと思う。つまり、悋気というか。
 鬼太郎は大きな目を瞬かせ、自動販売機があるでしょう、と淡々と返した。言われ、水木の脳裏にも浮かび上がる。曰く、明るい家族計画──、全部思い浮かべ、水木の頬は薄っすら赤くなった。
「こんな小さな箱と家族と、どうつながるのかわからなかった。だけど、烏というのは意外と見ているもので」
 そこで鬼太郎は小さく表情を崩した。面白いですね、そんな言葉が聞こえてきそうな。
「教えてくれました。どういう目的のものなのか」
そ、そうか」
 小さな、けれども、体の大きさからしたら少し大きめにも思える手が、そっと水木の頬に添えられた。目をそらせない。力はこめられていなかったけれど。
 みずき、とゆっくりその小さな唇が紡ぐのを見た。外から見たら小さな唇は、けれど案外腔内は広く、舌は水木の倍以上長いのだと水木はもう知っている。
 引き寄せられて、唇が触れる寸前、目を閉じて、と甘やかに命じられ、そっと目を閉じる。そのまま深く口づけられるのかと思ったがそうはならず、鬼太郎はあっさり口を離した。とはいえ、これで終わりになるとは水木も思っていない。
「水木は使ったことが?」
 ぐ、と詰まってしまった。是とも非とも答えられない養父にして伴侶たる男に何を思ったか、鬼太郎は質問を変えた。追い詰めたりしないあたりに度量が見える。
「使い方はわかりますか」
……………、か、かぶせる」
 単刀直入にすぎる言葉に、鬼太郎はふふっと笑った。
「良かった」
「良かった?」
「烏もさすがに使い方までは。薬局の人に聞いたら怒られてしまって」
「は?!き、聞いたのか」
 鬼太郎は肩をすくめた。聞いたらしい。水木の方がいたたまれなくなってきた。薬局の人の気持ちを考えると頭をかきむしりたくなる。
 真っ赤になって絶句している水木をまじまじ見つめながら、鬼太郎はごく真面目な顔をして言うのだ。水木の葛藤に気づいていないわけはないが、弁解する必要も覚えなかったのだろう。
「男の責任でしょう?」
「は
 二の句がつげない。というか、言葉自体が。鬼太郎の手が丁寧に水木の髪を撫でる。
「甲斐性の方がいいのかな」
 困惑と羞恥に固まっている水木に、鬼太郎は少しだけ微笑んだ。空気をやわらかくしたいのだとはわかった。
 水木に言うつもりはないが、夜中、人目を忍んで自動販売機に買いに来る女性を何人か見た。夜中の女の一人歩きは危ないのではないか、と何となく見守ってしまったこともある。積極的に助けようと思わないにしても(見た目からだと人間の規範なら鬼太郎も補導されかねないわけだし)何となく大丈夫だろうかと気に掛けるくらいはする。そして閃いたというか、目的を考えたら、男が買いに来ればいい、自分ならそうする、と思った。多分、買い求めにくる女性達が苦しげに見えたせいだ。勿論そうでない場合も世の中にはあるだろうし、対面ではなく、わざわざ人気のない時間を選んでやってくる時点でそういう人ばかり見かけたのは自然な帰結なのかもしれないけれども。
 自分は水木にあんな顔をさせたくない。
………
 しかし水木はそんなことは知らないので、この雰囲気──初めて繋がろうという手前のふわふわと甘い空気に、曖昧にして流されてしまおうとした空気にはっきりと理性的な現実的な話が入ってきたことをどう処理したらいいか、感情面で戸惑っていた。
 もっと酒でも飲んでおけばよかった。思うことといったらそれである。何もわからないくらい酩酊していれば。既にそれで2回失敗しているので控えたのだが。
俺達は男同士だし、そんな
 ようよう絞り出した声に、鬼太郎がため息をつく。そして、言い聞かせるように言う。少年の声なのに、雰囲気だけは老成していた。
「僕は人間じゃない」
………
 黙ってしまった水木の腹を、ちょん、と鬼太郎の指がつつく。困惑する水木に、一見朗らかな顔で彼は続けた。
「子どもができないとも限らない」
…………っ、」
 ぼっ、と火がついたように水木の顔が真っ赤になる。鬼太郎はそんな彼の手を恭しく取り、甲に口づけた。
「子どものナリで子どもを作るなんて、あなたはきっと許せない」
………
 水木は助けを求めるような顔で視線をさまよわせた。だが、そんな相手はこの場にいない。
「でも、僕はもう待てない」
……………そ、うか」
「だって中身はもういい大人ですよ。あなたを抱くこともできる」
 あけすけにすぎる台詞に、つい水木の手が出た。ごちん、と落とされた拳骨は、しかし残念ながら痛くも痒くもないのだった。鬼太郎にとっては。
「ね。だから、用意したんです」
 僕えらいでしょう、と言わんばかりの顔を見たら、水木は脱力してしまった。
 ぐったりと力を抜いてしまった水木を嬉々として抱きとめる鬼太郎の耳元、顔が隠れたのを幸い、水木は囁く。ちょっとした意趣返し。
「ひとつ訂正させてくれ」
「なんです」
「許さない、とは限らない」
…………………………?!」
 何事も理解の早い鬼太郎にしては水木の言葉を飲み込むのに時間がかかったが、まあ、つまりは。大きな目がいっぱいに見開かれている。水木は少しだけ溜飲を下げた。
「それは僕の、水木ちょっといいですか、あなた、僕の
「でもおまえの覚悟を尊重する」
「みず、ちょっと水木
 ぎゅう、と鬼太郎を抱きしめて、水木は笑った。頬が熱を持っているのは、見えなくても鬼太郎に伝わっているとわかっていた。強がったり、年上風、保護者風を吹かせたところで無駄なことは。それでも何でもない様子を装う。
「俺の鬼太郎は本当にかっこいいな」
 笑う水木に言葉にならない唸りを上げるが、結局どうしようもない。降参した鬼太郎は水木の体を離させ、そこから彼の肩に手を回し、器用にくるっとひっくり返して敷布に横にさせた。
……
 水木は目を瞠って自分を押し倒す相手を見上げる。しばしふたりの視線が絡み合う。分厚く、無骨な手が鬼太郎の細い首筋にまわり、そのまま引き寄せれば、少年の体は逆らわずに降りてくる。唇が触れ合う刹那、水木は目を細めて鬼太郎を見つめ、囁く。星を映す夜の湖面のような、そんな瞳だった。
「たくさん愛してくれ。俺の可愛い旦那さま」
 ふふん、といたずらっぽく笑う顔に勝てるはずもなく。そっちこそ覚悟してくれ、といささか喧嘩腰になってしまったのは、のちのち水木にからかわれることとなる。

※幼少鬼くんが「あれなに?」する話も捨てがたいですし、自販機なくなった場合どうするのか、成長If姿で買うのか気になります