HAZURE_Mapo
2024-06-02 16:29:45
3521文字
Public SO2文章 何でもない特別な日
 

何でもない特別な日 ⑤

CPアシュプリ。④の続きです。

 テーブルの上に並んだ料理たち。
 品数は少ないけど、あたしにしては頑張った。
 先に座っていたアシュトンの正面に座って一息ついた後、
「アシュトン、誕生日おめでとう」
 目を合わせて今日一番言いたかった言葉を伝えた。
「ありがとう、プリシス」
 微笑んでくれたのを確認してから、食べる前に渡したくてこっそり事前に用意していた小さな箱を取り出した。
「え、プレゼント?」
「うん。ちょっと不恰好かもしれないけど」
「何だろう、開けてみてもいい?」
 あたしが小さくうなずくと、包装を丁寧にはがして箱の中身を確認した。
「これは……ピアス?」
「そう、あたしが作ったんだ。アシュトン、いつもしてるから」
「手作りかぁ。嬉しいな」
 顔をほころばせながらピアスを箱から取り出して眺めてる。
 少し小ぶりで乳白色が霞みがったように模様を施している緑色の宝石をあたしは選んだ。
「でもあたし一人じゃなくて、レオンにも錬金でちょっと手伝ってもらったんだけどね」
「え、レオンが?」
 意外だ、と言いたげな口調でアシュトンの目が丸くなった。
「うん。本当にちょっとだけど」
 ──そうなんだよね。
 ここだけの話、以前あたしが媚薬の実験台になったときの依頼主、実はレオンだったりする。
 最初は断ったんだけど、レオンにしては珍しくすがりついてきて。確かに媚薬を作る柄でもないし、親しい人以外にお願いできない理由もわかる。それにあたしにとってレオンは可愛い弟みたいなものでもあるから、根負けして引き受けた。
 そしたらあんな風になっちゃって。何とか家まで送ってくれたのはいいものの、待っていたアシュトンは溢れんばかりの怒りのオーラを出していたみたいで。あたしを実験台なんかにしたのは誰だとレオンに詰め寄ったらしいけど、あまりの恐怖に自分とは言えなかったらしい。
 その会話、あたしはアシュトンの腕の中で聞こえていた気がするけど、意識がはっきりしていなかったから何の話をしていたのか全くわからなくて。このことは後から聞いた。
 さすがにこの件でレオンも思うところがあったのか、あれ以来媚薬のことは言ってこない。それにプレゼントも自分から手伝いたいと言ってきた。これがレオンなりのお詫びのつもりかはわからない。あたしとしては願ってもいないことだったからいいんだけど。
 もちろん、これはアシュトンに話す予定はなくて、あたしとレオンだけに留めておく。確かに媚薬を使った瞬間は身体中が熱くなったし、意識も遠くなって怖い思いはしたけどさ。この通り無事で元気に過ごせてるし、もうそんなに怒ってないと思うんだけどな。
 だってアシュトン、レオンの技術は凄いってピアスに使った宝石を見て目を輝かせてる。あたしも爆弾とか作るのは得意だったけど、センスがないから細工は苦手。でも情報通でデザインセンスがあるクロードに聞いたりして、どんな形のがいいか考えて作ったつもり。頑張ったから喜んでくれたみたいで嬉しい。
 そう思っていたところ、ピアスを手に取って真剣な顔になり、まじまじと観察を始めた。何だろう、変なところがあったかな。
「でもこの宝石、見たことないな。何だろう」
 ……さすが宝石好き。エクスペルの鉱物ならほとんど知り尽くしてるアシュトンらしい着眼点。でもそれもそのはず、エクスペルでは多分採れない。
「それは地球で採れる翡翠っていう宝石なんだって。身につけてると色々といいことがあるみたいだよ」
「へぇ……そうなんだ」
「うん。あとアシュトンの目と同じような色してるのもあってさ。あたしなりに考えてみたんだけど、それが一番いいかなって」
 伝えるのは少し恥ずかしかったけど、アシュトンは尚のこと嬉しそうにしてくれた。
「ありがとう。大事にするよ」
 そっとピアスを箱の中にしまって傍に置いた。エクスペルで着けてくれてるといいんだけどな。
「さ、温かいうちに食べて食べて」
 この呼びかけに、そうだねとアシュトンも返してくれた。
 二人でいただきますと挨拶して食事を始める。初めはやっぱりハンバーグ。一口食べて、あたしは美味しいと思うけどアシュトンがどう思うか。
 最初に食べる様子を見たくて凝視したせいか、食べにくそうにしている。
「そんなに注目しなくても……
「いいから。気にしないで早く食べて」
 はいはい、と箸で適当な大きさに切り分けて口に運ぶ。よく噛んで味わった後、
「うん、美味しいよ。ソースもいいね、食べやすい味になってる」
「本当!?」
 嬉しくて飛び上がりそう。
 朝も思ったけど、苦手なことを褒められるのは特に嬉しい。レナには苦労かけたけど、美味しそうに食べてくれてるし頑張って良かった。後でお礼言わないと。
「でも久しぶりに食べたな、鶏肉以外の肉」
 箸を進めながらアシュトンは呟いた。
「え、何それ。じゃあずっと鶏肉しか食べてなかったの?」
「うん。最近手強い魔物が出没してるから、安全のためもあってディアスと一緒に行動する事が多いってここに来る前、通信機で話したよね」
 そう、これは聞いた。あと一般の人からの討伐依頼もあるけど、ボーマン先生からの依頼もあるって。結構危険な場所に生えてる薬草が特効薬として良く使われていて、そういう薬草は色んな種類の薬に使えるから在庫の減りも早いみたいで。だから頻繁にアシュトンとディアスが呼び出されるみたい。
「ディアスさ、討伐報酬としてもらった鶏肉で好物の串焼き作ったら気に入ったみたいで、そればっかり食べるんだ。
 僕は飽きたって言ってるんだけど、これを食べないと体がもたないって。だから僕もそれに付き合って一緒に食べてるんだ。別々のを用意するのも面倒だし」
「へぇー、そんな一面があったんだ」
 ディアス、あまり近寄ってほしくない雰囲気を醸し出してたけど中身は全然違うんだよね。あたしには中々心を開いてくれなかったけどさ。アシュトンは頼りにされているみたい。
「ね、あんなに凛々しい顔して案外偏食気味なんだなって。人ってわからないよね」
 これには同意。あたしだって双龍が憑いてる男の人が穏やかな性格で宝石好きの料理上手、まるで物語のヒロインみたいな人だとは思ってなかった。ましてやあたしの恋人になるとは。
……何か言いたそうな顔してるね」
「べっつにー。何もないよ」
 こうして楽しく喋りながら食べ進め、無事完食。アシュトンも喜んでくれたし、無事にお願いごとのノルマは達成!
 充実感でいっぱいだから、いつもは面倒くさい皿洗いも何なくこなす。
 ────だけど、自分の中でまだ足りないことに気づいた。皿を洗う手も一旦止めて考える。
 何だろう、モヤモヤする。
 あたしが誕生日のときはいつもより少し豪華な料理以外にも他に何かあったはず。エクスペルで毎年親父がお祝いしてくれたときのことを思い出そうと、必死で記憶を遡る。
 手に持つスポンジを握って離して、そのうち泡だらけになってあたしの手も見えなくなったとき、やっとわかった。
 ケーキだ。そういえば用意してない!
 やっぱり誕生日だからあったほうがいいと思う。何より自分も今日頑張ったご褒美として食べたいし。この時間ならまだお店開いているはず。
 急いで皿洗いを終わらせて、外に出る準備をしようとした。
「プリシス、何かあった?」
 急に慌ただしくなったあたしを不思議に思ったのか、声をかけてきた。
「うん。ケーキ、用意してなかったから。今から買いに行ってくる──」
 言葉を言い切る前に、突然後ろから手首を掴まれた。
 近づいていたことに全く気がつかず驚いてアシュトンの方を見たら、どこか様子が変。
 少しの胸騒ぎを覚えた瞬間、掴まれた手首を引っ張られて抱きしめられた。

「えっ…………?」
 突然すぎて何が起こっているかわからない。
 これまで何度も感じた安心感を覚える胸板の感触だけはわかる。でも抱かれる要素なんて一つも思い当たらなくて。何も言わずに引っ張られたから余計に混乱している状態。
 頭の中を整理するのにしばらくそのまま身を任せたけど、時間が経ってもまだそのまま。
 同じくあたしのケーキを食べたいという欲望も収まらない。
「アシュトン、そろそろ買いに行きたいんだけど……
 小声で訴えたら少し腕を緩めてくれた。けど完全には離してくれない。
 見上げてやっと見たその顔は、昨日とさっきも見た表情。
 いじわるな顔。それに尽きる。
 そしてあたしと目が合った。

「ケーキもいいけどさ。僕は今、プリシスを食べたいかな」