八上
2024-06-01 14:09:00
491文字
Public テキスト
 

誰かの小話 昔日の記憶

misskeyから転載

 女に投げつけられた硝子のコップが床に落ちて、大きな音を立てて割れた。
「よくもぬけぬけと顔を出せたわね泥棒猫! しかも夫との子供ですって!? 馬鹿なことは休み休み言って頂戴!」
 騒ぎを聞きつけ奥から駆けつけてきた大学生くらいの二人の若い男性――雰囲気が似ているから兄弟だろうか――の片方が、年嵩の喪服の女性の肩を引いて止めた。
「まあまあお母さん落ち着いて。親父が見てるから」
「一城! お前も、お前も若い女の肩ばかり持って」
「も~こんなとこでそういうの本当に良くないから。京二、ちょっと任すな」
 肩を掴んだ若い男は、そのまま女性を奥へ引っ張って行った。
 それを見ていた兄弟の片割れは、申し訳なさそうな顔をして女に頭を下げた。
「母が申し訳ありません。ですが、この葬式の喪主は母なんです。心苦しいのですが、お引き取り頂けますか」
……分かり……ました……お騒がせして申し訳ございません……
 記帳も、焼香もさせてもらえないまま、女は幼い子供の手を引いて立ち去った。
 ふと子供が振り返ると、先ほどの男性と目が合った。
 あの兄弟とこの子供はとてもよく似ている。