sew_tatibana
2024-03-27 22:33:49
2939文字
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さくらのパン祭りinベーカリー南城

薫ちゃんお誕生日おめでとう!&さくらのパンまつり、ありがとうございました!記念です。

『再来週の水曜、夕方からメンテに入るから、ランチ後にメシ食いに来てくれない?』
 虎次郎からそんなメッセージが届いたのは、年度末と納期が重なって目も回るような忙しさの最中だった。すっかり返事をするのを忘れていたが、ちょうど日付を跨いだ今こそが、その水曜である。
 これはつまり『冷蔵庫の整理を手伝え』という意味なのだが、この俺に残り物の処理をさせようとはいい度胸をしている……と言いたいところだが、悔しいかな、虎次郎の作る料理は基本何でも美味い。もろもろの期日が重なったここ一週間は、ほぼ自宅に缶詰だったから、余計にその味を恋しく感じている節は否めないが。
 ということで俺は今、絶賛虎次郎の店へ向かっている途中なのだが、どうにも何か大切なことを忘れているような気がしてならない。
 しかし結局、虎次郎の店の扉の前まで来てもなお思い出せないのだから、実はたいした内容ではないのかもしれない。
 喉に引っかかった魚の骨みたいな居心地の悪さを感じつつ、クローズの看板を確認して扉を開いた。
「チェリー! お誕生日おめでとう!」
……は」
 扉を開けるやいなや、パンッと甲高いクラッカーの音と共に、思ってもみなかった歓声に迎えられ、正直面食らった。――ああ、そういえば誕生日だったか。
……チェリー? おめでとう?」
 ランガが目の前で手を振っている。
「なんだよ~、もっと喜べよチェリー! って、大丈夫か? チェリー……?」
 満面の笑みだった暦は開いたクラッカーを手にしたまま、急速に表情を曇らせていく。
「ハ~イハイハイ、お誕生日サマはこっちな~」
 ぼんやりと暦とランガの顔を交互に見ていたら、奥からゴリラがのしのし近付いてきて、あれよあれよという間に椅子に座らされた。いつものカウンターではない。テーブルを中央に集めた特別席で、ご丁寧に誕生日席である。テーブルの上には既に数々の料理が所狭しと並んでいる。
「なんか、いつもより青白い顔してねぇか?」
 先に席についていた広海にまでそんなことを言われる始末。
「チェリー、ぽわぽわしててかわいいね」
……ぽ、わ?」
 実也にそんなことを言われたが、いまいちピンとこない。
「いろいろ終わったばっかりでネジ二本くらいすっ飛んでんだろ。いつもこのくらいだと可愛げもあるってのに……痛ってぇ!」
 何故か周囲から心配されていることを不思議に思いながら聞いていたが、虎次郎の余計な一言だけはよく理解できたので、真横に立った瞬間に脇腹目掛けて正拳を突き入れておいた。
「今のはパパが悪い」
「クソ~、なんで俺だけ……ほらよ! ご所望のパン祭りだ!」
 虎次郎はそう叫びながら、テーブルの真ん中に大きなバスケットを置いた。中身は山盛りのパンだ。
 グリッシーニにチャバッタ、フォカッチャはフレーバーの違うものが数種類あるようだ。周囲からわあっと歓声が上がる。
 ――ちょっと待て。『ご所望の』って何だ?
 その言葉が妙に引っかかった。せっかく忘れたことを忘れかけていた、足りないピースのことが再び気になり始めてしまって、なんだか少し落ち着かない。
 そんな俺のことなど我関せずとでも言うように、皆思い思いに虎次郎の料理とパンに舌鼓を打っている。いや、曲りなりにも俺の誕生日祝いじゃあないのか。
「ほい、マルゲリータも一丁あがり~! どんどん食えよ~!」
 近所のラーメン屋かと思うような掛け声と共に、大判のピッツァも運ばれてきた。デカイ。中高生たちが目を輝かせているが、俺にはわかる。これは、あれだ。今年の夏、ついに県内初オープン予定の外資系スーパーマーケットの巨大ピザ。一度は食べておきたいよなと夢を語った俺へのあてつけだ。
 経験値の話であって、誰もリピートするなんてことは言っていないのだが。まったく、類人猿は早とちりで嫉妬深くて困る。
 しかし、食べ盛りの中でもとんでもない健啖家が一人いるからか、料理は運ばれるそばから平らげられていく。これは虎次郎もさぞかし気持ちがいいだろう。
「虎次郎」
「ん?」
「カルツォーネ食いたい」
 俺のひとことに、虎次郎は空気だけで笑う。
「そう言うと思ってオーブンに仕込んであるぜ。焼き上がるまでこっち食ってな」
「ん」
 手渡された皿からブルスケッタをひとつ摘まみあげて頬張る。うん、美味い。
 白ワインをあおりながら、テーブルを見渡す。こんな風に大人数で食事するのはいつぶりだろう。誕生日なんて祝われるような歳でもないが、互いに気負わず過ごせる奴らと囲む食事は、なんだかいつもより美味い気もする。
……ありがとな」
 口にするタイミングを誤った気もするが、まぁいい。ニヤけた面のいつもの面々も、今日くらいはそう悪いものでもない。 






 夕方前に会はお開きになったが、虎次郎がもう少し飲んでいくだろ?というので、カウンターで二人だけの小さな二次会を始めた。
「これ」
 言いながら差し出されたのは白ワインのボトルだった。受け取ってラベルを読んでいると、
「愛之介から」
「は!?」
 思ってもいなかった名前が飛び出して、思わず大きな声を出してしまった。
……何か、裏があるんじゃなかろうな」
「さぁ? ああだこうだ言ってた気もするけど、そりゃ本人に聞いてくれ」
 味見はしてみたいが、口を開ける前に裏を取っておいたほうがよさそうだな。
「ところで、お前からは何もないのか」
「はぁ!? さんざん食ってたじゃねぇか! まだ足りないってのか!?」
「フォカッチャならまだ食える」
「食えるんだ……
 そこでふと思い出した。
「おい、『ご所望のパン祭り』ってどういう意味だ」
「えー? お前が言い出したんじゃん。最後に来たとき」
「そんな記憶はない。適当を抜かすな」
「は~出た出た! この席で言ってました~! なんか珍しく酔っ払ってたみてぇだけど!」
 その言い方にカチンときて、つい考えるより先に口走っていた。
「カーラ、先々週のシア・ラ・ルーチェの動画再生!」
『OK、マスター。まもなく録画を再生します』
「えっ、録画してんの!? いや、悪いこと言わねぇから、やめとけって……
「うるさいぞ類人猿、カーラは真実しか言わん!」
 その後、店の壁に表示された録画映像を見て、俺は灰になったことは言うまでもない。

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【三月六日 二十三時五十六分 シア・ラ・ルーチェ カウンター前】

『こじろぉのぉ、つくる、パン、はぁ~……ぅまぃ!』
『おー、サンキュサンキュ。なんかもうあとが怖いからそれくらいにしとけって……
『なんらとぉ!? あ……こじろ! アレ! あれ、やるぞ!』
『ハイハイ、なんですか~桜屋敷センセ』
『はるのぉ、パンまつぃ! ヒック』
……アッハッハ! やってやろうじゃん! 誕生日、楽しみにしとけよ』
『あぃ!』

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……カーラ、この動画、俺のスマホに転そ」
「させるかドアホウ!!」