カシャッとシャッターが切れ、パチッとフラッシュがたかれる。ピカッと光るフォトブースに立つのは、空間を煌びやかに彩る龍の衣を身に纏う、幼き能楽師がふたり。クライアントが写真を何度か撮影して、その間もふたりはビシッと姿勢を整えて動かない。
そんなスタジオの出入り口で、ひょっこり覗く男がふたり。能楽師セアミンと共に活動する芸術家にして仲間である、浮世絵師娑楽斎と、雅楽師ワゴンである。能楽師が単独で仕事に呼ばれることは少なくなかったが、今回は事前に予算を提示した上でメンバー全員が呼ばれ、スタジオ内で案を出し、試行錯誤を重ね、そして今に至っている。
クライアント曰く、夏祭りの広告を打ちたいのだと。打ち合わせは順調に進み、衣装も絵師がその場で描いて、あとは写真を撮るだけ。けれど、雅楽師は問う。わしらは置いとくにしても、娑楽斎。お前は写らなくてよかったのか? そんな言葉に絵師は振り向き、肩をすくめた。はは、写りたい気持ちは山々だが、俺はこんな格好だしな。写ると圧が強くなっちまう。かといって、サングラス外したり衣装変えたりしたら誰かわからねぇし。要望は広告用の写真だ、ふたりに任せた方が良い。
そうかぁ。お前がそう言うんなら、そうなんじゃろうなぁ。雅楽師はそう呟いて、またシャッターの音に視線を送る。ぼんやり顔の能楽師は、リラックスしているようにも見えるが、しっかりカメラを向いている。しゃっきり顔の能楽師のほうが肩筋に力が入っていて、少し緊張しているだろうか。なかなか思った通りの写真が撮れないようで、ふと、絵師がスタジオに入り、雅楽師もその後ろをついていく。ふたりでクライアントの後ろに立つと、絵師は腕を組んで、頷く。すると、能楽師たちはふっと体の力を緩め、頷き返す。再びポーズをびしっと決めては、緊張した面持ちもすっかり消え去って、ピカッとカシャリ。
今度こそ、思った通りの写真が撮れたようで、クライアントがOKのサインを出す。ふたりの能楽師はパチッと手を叩き合わせて、絵師が手を差し出せば、それぞれが片方ずつパシッと叩いた。続いて、雅楽師の手にもパチッと叩けば、きゅっと握る。よう頑張ったなぁ、お疲れさん。雅楽師が掴んだ手をゆるゆる振れば、まだ小さなふたりは、ふふふとはにかんだ。
クライアントたちが集まって写真の出来栄えに納得すると、スタジオに黒衣が箱を抱えてやってくる。浄瑠璃人形師のスパイダーである。紙面の話は娑楽斎が適任と言って、早々に注文された仕出し弁当を受け取りに出掛け、丁度帰ってきた所である。箱を開封し、弁当とパックのお茶をセットにしては、クライアントたちにも配って歩く。いやぁ、何から何までありがとうございます。おかげで良い広告が作れます、と。絵師が応える。あとは、昼休憩が終わったら素材を、でしたね。広告が仕上がったら1枚欲しいのですが……如何でしょう。そう絵師が伝えれば、クライアントたちは快諾した。
人形師が会場をぐるっと回って渡した最後に、4つの弁当とお茶を、仲間にそれぞれ分ける。会議室に向かう途中、スパイダーもお疲れさん、と絵師が労えば、人形師は何を言うでもなく頷いては、空いている席に座った。
弁当を置いてぱかっと開けば、ふかふかの白ご飯には真っ赤な梅干し、鮮やかな焼き鮭にだし巻き卵と、ほうれんそうのお浸し。頑張ったご褒美だね、とぼんやり顔の能楽師が投げかければ、もう片割れが嬉しそうに頷いた。
さ、喰おうぜ。いただきます。その声に合わせてまた、いただきます、と。
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