akmtakr
2023-08-09 22:27:05
2851文字
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あまくてあまい

耳にした言葉が可愛かったのでフクチャンに言ってもらいたくなっちゃったんですよね…というはなしです。はぐの日に上げたかったんですが、はぐの日の範疇ということにしました(しました)
※設定とかいろいろ、Pixivに上げた『あかつきの夢』の続きのような感じになっていますが、未読でも付き合い始めたばかりの号福として読める...と思います...ネタバレというわけでもない…と思います…気楽に書こ!と思ったらこうなっていた。フクチャン視点(ロリ度が高い)かっこいいゴーチャンは居ません(理性の耐久テストしがち)全体的に甘いです。
楽しめそうでしたら、ゆるい気持ちでどうぞよろしくお願い致します!

 甘え方がわからない、ってほどじゃない。たぶん俺はむしろ甘え上手な方なんじゃないかな。誰かにわからないことを尋ねたり、してほしいことをお願いすることに何も抵抗は無いし、お礼に何をあげたら喜ぶかな、とか、考えるのもとても楽しい。
 身内は更に甘え易い子揃いだしね。弟の光忠は本当に頼り甲斐のある子だし、遠い昔に離れ離れになって漸く再会を果たせた日ノ本一の槍、号ちゃんなんて、危なっかしくて見てらんねえ、なんて言って顕現したばかりの俺の傍でずっと世話を焼いてくれた。
 甘えたり、甘えられたり。そうしてるうちに、俺は号ちゃんと恋仲ってやつに落ち着いたわけだけど。
 ……甘えるのって、どうすればいいんだったかな。
 そんなことを思いながら、俺は目の前にある広い背中をぼんやり眺めていた。
 一週間の長期任務に出ていた号ちゃんが帰って来たのは、数刻前のこと。軽い傷を手入れ部屋で治してからゆっくりお風呂に浸かって、これから主に任務の成果を報告に行くらしい。
 この本丸の習わしで、主の部屋に向かう為に軽装に袖を通した後ろ姿。帯を直すごつごつした指。羽織を持ったままで俺は、ああ、号ちゃんが居るなあと思う。
 二振りで暮らすことに慣れ始めた部屋で、一振で過ごす一週間は思っていたよりも長く感じた。内番も任務も遠征も、日中は俺にもやることがたくさん有るからあまり気にはならないけれど、夜は、やっぱり少しさみしい。
 眠くなるまで弟の光忠に話し相手になって貰ったり、姫鶴くんとお茶したり、乱くんや秋田くんと遊んだり、博多くんが俺が来る前の号ちゃんのことを教えてくれたり、長谷部くんとすこしだけ昔話をしたり。……結局みんなに気を遣わせちゃった、かな。
 甘えてるって言うよりも、俺は皆に甘やかされてるのかも。だから今こうして、どうやって甘えたらいいのか分からなくて立ち尽くしているのかもしれない。
「光忠」
「はい」
 軽く視線だけ俺に向けた号ちゃんの肩に、羽織の襟を広げて掛けた。家紋の近くの襟をぴっと引っ張って、身体ごと振り返った号ちゃんは、にんまり得意げに笑ってみせる。
 俺はその姿に一瞬見蕩れて、
「ああ号ちゃん……! とっても似合ってるよ! なんて凛々しいんだろう……!!」
 心のままに褒めたら、号ちゃんは苦笑しながら俺の頭をするりと撫でた。
「ったく、相変わらず大袈裟だなお前は。軽装姿なんてもう何度見せたか分かんねえくらいだってのによ」
「何度見ても良いものは良いでしょうが。かっこいいなあ号ちゃん。本当に、色男だねぇ」
「ッハハ! そりゃどうも」
 頭の後ろに纏めたお団子の髪をくしゃくしゃ軽く握ってから、大きな手が離れていった。無意識に視線はその手を追って、……藤色の瞳と、目が合う。
……なあ、光忠よ」
 号ちゃんの声は、さっきよりもずっと穏やかに低かった。
 ───ああいけない。ばれちゃったか。
「物言いたげに見てたって、言葉にしないことには何も伝わらねえのが人の身ってもんだ。……お前、オレに何か言いたいことが有んだろう?」
……うん」
 でも、なんて言って伝えたらいいんだろう。
 きみに甘やかしてほしいんだ。俺の背中に腕を回して、ちからいっぱい包んでほしい。
 多分、安心したいんだと思う。号ちゃんが今ここに居ることを、俺の居る場所に帰って来てくれたんだってことを身体で感じたい。だから。
「あのさ、号ちゃん」
「おう」
 幼い頃の号ちゃんの姿を思い出す。
 きっと正則の家で見た幼子の真似をしたんだろう。とびきり甘えたいとき、俺に向かってちいさな両手を目一杯のばして、
……だっこして?」
……………………………………っ、」
 そう云った途端、号ちゃんは長いまつげで縁取られた垂れ目を大きく大きく見開いた。
…………お、っおまえ……なあ、……!!」
「だ、大丈夫?」
 息を詰まらせたはずみで噎せてしまったらしい、咳き込む号ちゃんの広い背中を摩ってあげながら、……なんだかすごく恥ずかしくなってきた。
「ごめん。何か違ったかな……?」
 激しく咳き込んだせいか少し涙目で真っ赤な顔をした号ちゃんは、何度か咳払いで息を整えてから、はあ、と深くため息を吐いた。
「いや、まあ。よく分かった。……ああクソ、もうちょい辛抱するつもりだったが、仕方ねえな」
 背中に回していた腕が、大きな掌に掴まれた。はっとして見上げると、号ちゃんはにやりと笑ってその腕を自分の方へと強く引っ張る。
 ───次の瞬間には、望んだ通りに俺は、号ちゃんの腕の中に居た。
 軽装と呼ぶに憚られるくらい上等な生地の羽織の裾を皺にならないように軽く握って襟元に頬を寄せると、腰と背中に回った腕が、俺の身体を強く、しっかりと抱いてくれた。
 ああ、号ちゃんだ。強い実感が嬉しくて、不意に目頭がじんわりと痛む。
 しばらくの間、そうしていた。二振とも黙ったまま、呼吸の音だけが部屋の中にある。遠くで誰かが笑っている。どたどたと廊下を駆ける音。耳元で号ちゃんが、喉を震わせてちいさく笑った。
「寂しかったかよ……?」
 耳朶の産毛を擽る低くて甘い声に、ぞくぞくと背筋から腰へと走る痺れるような感覚。それが何なのか、俺はもう、よく知っている。
……さみしかったよ」
 喉仏の目立つ首元に額を擦り付けると、号ちゃんは豪快に笑いながら俺の襟足をやさしく撫でてくれた。
「ま、しかし主の命を果たすのがオレ達の務めだ。……分かってるよな? 光忠」
 深く頷く。ちゃんと解ってる。歴史を守り、戦うことが俺たちの務めであり本能。これはその為に主が与えてくれた人の身だ。
 主が顕現してくれたおかげで、俺はこの本丸で号ちゃんと再び逢えた。こんな風に抱き合って、日常を共に過ごして、きみが傍に居ないたった七日と少しの時間を寂しいだなんて心から思うことが出来ている。
 ───それがどれほど、うれしいことか。
「さて、オレは残りの仕事を片付けて来るぜ。任務報告は部隊長の務めだからな。……それが済んだら、お前にはこれのもうちょいマシな強請り方を教えてやる」
 ぎゅうと強まる腕の力。苦しいけどそれ以上に嬉しくて、胸が一杯に満たされる。
 でも、やっぱり言い方が間違ってたんだな。そうだよなぁ、なんだか妙に恥ずかしかったし……
「ついでに他のおねだりの仕方ってやつも教えてやるよ、……実践付きでな」
「ああ。……うん?」
「んじゃ、行ってくるぜ。風呂入って待ってろよな、光忠───一週間分、たっぷり可愛がってやる。覚悟しろよ」
 俺にもはっきりわかるくらい色を含んだ声が、耳元で告げる。
 思わずその場にへたり込んだ俺を号ちゃんは満足げに見下ろすと、上機嫌に部屋を後にした。
 ……困ったな、俺、今夜どれだけ甘やかされちゃうんだ?
 確かな期待と漠然とした不安が混ざって、勝手に熱くなる身体を俺は、自分の両手でだきしめた。