煤かぶり
2022-03-18 21:22:26
1917文字
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星の灯の消えた後に

ツイッターにあげた「金環日蝕、銀環月蝕」の続きのような話。ウチのぐだちゃんがどうあっても、もう無理!やだ!諦める!と言わないので、指輪を嵌めさせるには人類敗北エンドにするしかありませんでした!😱
そのあたりのアレコレは捏造妄想バリバリです。
当然のようにバッドエンド。もしかしてこれがメリバってやつなの???
さらっとバレンタイン台詞バレあり。

ストーム・ボーダーは今やただのオブジェと化していた。外装、内装ともに大破し、機能は完全に停止している。最も、機能が生きていたところでこの船を動かせるものはもういないのだが。
人類最後のマスター、藤丸立香は比較的破損の少ない区画の通路の床にぺたりと座り込んでいた。
人類最後、そんな肩書きに責任感や使命感は背負えども、全く実感なんて湧かなかったのに。
今、本当の意味で立香は最後の人間になってしまった。
……終わっちゃったんだな」
ぽつりと落とした声は、痛いくらいの静けさに吸い込まれて消えた。
人類は敗北した。
地球は異星からの侵略を退けられなかった。
最早人理が取り戻されることはない。
異星の神の手で創り変えられる世界の姿を見届けることこそ、最後の人間の責務に相応しいなどとのたまった見知った顔の神は、立香をその手にかけることなく捨て置いた。
もちろん立香本人にそんな気が微塵も起きるはずもなく。結果こうして壊れたボーダー内部に引きこもり、残された僅かな時間を無為に過ごしていた。
激戦なんて言葉では片付けられない戦いの中、誰もが傷つき倒れていった。殆どの英霊は退去し、残っていたとしても最早現界を維持することは難しいだろう。
だからもう、ここには誰もいない。
ここには何もない、もう。

――

ふと、耳の奥に潮騒を聞いた気がした。
……海」
それは船が見せた最後の夢だったのかもしれない。
変わる世界になど興味はないが、最後に海が見たいなと立香は思った。しかし立ち上がろうとした立香の体は、再びぺたんと床にへたり込んでしまう。
足に力が入らない。
何処へも行けない。
ひとりでは。
「誰か」
顔を上げる。
「私を」
声を絞る。
「連れて――
瞬間、いつかの夜の匂いが立香の肺を満たした。

『どこでも連れて逃げてやるから』

ぎゅっ、と強く、立香は掌を握りしめた。
今更だ。今更そんなこと言えやしない。
言えないのならどうすればいいのか。その方法すらあの人は用意してくれていた。
立香はハッとしたように周囲を見回す。
崩れた内壁、瓦礫に埋もれた通路。自室へなど到底たどり着けないだろう。
小箱の中に仕舞った約束呪いのリング。
それすらも、もう。
ぐしゃりと立香の顔が歪む。
悔しくて、悲しくて、もう尽きたと思っていた涙が溢れてきて止まらない。震える体をくの字に折って、床に伏せったその時だった。
礼装のポケットから何かが落ちた。
それは、立香がカルデアに来る時に持ってきた御守りであった。随分くたびれてしまっているが、ずっと肌見離さず持ち歩いてきたものだ。
それが今、立香の目の前に落ちている。擦り切れた紐が泣き別れになっていた。
立香は徐にその赤い紐を左手の小指に巻きつけた。歪にはなったが、どうにか結ぶ。
……
紐が輪になって、自分でもよく分からない安堵が胸に咲いて、笑顔が零れた。
その瞬間、
「遅ぇよ」
と。
怒ったような声が上から聞こえたかと思うと、立香の体はふわりと宙に浮いていた。
力強い腕で抱き上げられているのだと自覚したのと、立香がその腕の主の名を呼んだのは同時だった。
「はじめちゃん!?」
驚きを隠せない立香を一瞥して、斎藤は不服そうに鼻を鳴らす。
「何? そういう約束だっただろうが」
……
「今更抵抗されても困るっていうか、正直ここまで待たされるとは思ってなかっ――
はじめちゃん、と立香が遮った。
何も言わずに・・・・・・攫うって言わなかった?」
「言ったな。そいつは僕が悪いわ」
肩を竦めて謝罪のポーズを見せる斎藤の胸に立香の顔が埋まる。
どうして、という小さな問いかけが耳に届いた。
「ま、単独行動持ちですし? 僕ってば燃費いいのよ。だから、」
今の立香ちゃんと同じくらいには『長生き』できるよ、と。
最期までともにいてくれることを示唆されて、立香はすんと鼻をすすり上げた。
「来て、くれないかと思った」
「それこそ契約違反でしょ」
「だって、指輪……
言って差し出された左手に赤い輪を認めて、斎藤は満足げに笑う。
「色も形も関係ねぇよ。お前がお前の意思で指に輪をかけた。それだけで充分だ」
立香を抱え、瓦礫を避けながら進んだ斎藤の足が、壊れて半開きになっていたハッチを蹴り飛ばした。
強く吹きつける外気が立香の髪と斎藤の外套をはためかせる。
「さて、どこへ行く?」
「海を見たいな。それから、それからね」
「ああ、いいさ。行きたいとこどこでも……どこでも連れてってやるから」

そして二人は船を去った。
だからもう、ここには誰もいない。
ここには何もない、もう。