kaede
2024-05-28 13:11:16
2636文字
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燐音くんとニキが帰ってくるのを待ってた一彩くんが帰ってきた二人とイチャイチャしてるだけのはなし

一彩くん愛され燐一・ニキひい

燐音くんとニキにサンドイッチされてる一彩くんが欲しかっただけでタイトル以上の意味は特にない


 時間の速さは絶対的に決められているものだから、これは僕の錯覚にすぎない。と理解はしていても、待ち遠しさで構築された時間は、どれだけ理屈立てて考えようとどうしたって、遅く感じてしまう。
 つまるところ、早く帰ってこないかな、と。時計の針の進み具合を調べる、というもう何度目かになるのかも覚えていない確認作業をして、もうあと五分もすれば……と希望的観測で待ち時間を算出したそのときだった。
「たァだいまァ!」
「お帰りなさい、兄さん!」
 姿を確認しなくたって、声を聞けばわかる。
 振り向いて駆け寄って、兄さんの顔をちゃんと見る間もなく兄さんにぎゅっと抱きしめられて、びっくりして少しテンポが乱れてしまったけれど。でも、全身で兄さんの熱やら匂いやらを感じていたら、すぐに元に戻った……嬉しいからか、いつもよりちょっとだけ、早いかな?
「椎名さんは?」
「ニキはいいだろ」
「でも椎名さんからのメールには、お土産を持って兄さんと一緒に帰る、とあったよ? ほら……
 とスマホの画面を見せようと思ったけれど、あいにくスマホはベッドの上だ。取りに行くなら、兄さんから離れないといけなくなる。
 それは嫌だな……
 なんて、自分勝手なことを考えたしまったことを反省していると、兄さんの後ろから、僕の大好きな声がもうひとつ、響いた。
「燐音くん、さっさと入ってくれません? 後ろがつかえてるんすけど」
「お帰りなさい、椎名さん!」
「ただいまっす〜。はい弟さん、あーん♪」
 言われるままに口を開くと、白くて甘くてもっちりとしたものが口の中にむにゅっと入ってくる。
……! おいひい!!」
「でしょでしょ? スタジオの近くに美味しいクリーム大福を売ってるお店があるって聞いてたんで、楽しみにしてたんすよね〜!」
「んっ……あふ……
「なはは〜。僕の指、そんなに美味しいっすかね」
「あんことクリームがもったいないって思って……でも、はしたなかったよね。ごめんなさい」
「いえいえ。ここまでちゃんと食べてもらえて、大福もきっと喜んでるっすよ」
 非礼を詫びた僕に、椎名さんは嫌な顔ひとつしないで、にこりと笑う。
 椎名さんはいつも、僕の失敗について核心を突いたり追い討ちをかけるようなことはしないで、僕の気持ちを軽くする言葉を選んでくれる。
 この人のそういう柔らかな優しさが、僕は。
「大好きだよ、椎名さん」
「え? ……なはは〜、よくわかんないですけど、ありがとうございます♪」
「一彩、お兄ちゃんは?」
「もちろん兄さんも大好きだよ」
「だってよ、ニキきゅん」
「何すかそのドヤ顔」
 ドヤ顔、とやらをしている兄さんに、椎名さんが呆れた顔をする。相手に対して遠慮も忌憚もない会話をできる二人が、少し羨ましい。
「でもよォ、弟くん。俺っちのことをついでみたいに言うのはいただけねェなァ。っつーことで、お兄ちゃんの指も舐めていいンだぞ♪」
「ついでのつもりは全然ないのだけど……それ以前に話の脈絡がよくわからないし、何もついてないのに舐めるのもどうかと思うよ?」
 僕の唇をとんとんとノックして、今は少し舌を伸ばしただけで届いてしまいそうな距離で待機している兄さんの人差し指を、意味もなく舐めるのはそれこそ本当にはしたないと思う。
 意味があるなら、舐めることもやぶさかではないのだけれど。
 そんなことを考えていたら、人差し指がくっついている手のひらが僕の頬を撫でた。
「弟くんよォ、ちーっとお兄ちゃんに冷たくねェ? さっきもお兄ちゃんとの感動の再会もそこそこに、ニキのことばっか気にしてたしよォ」
 兄さんの勘違いとはいえ、僕の態度が気に入らないのなら頬をつねるくらいのことをしたっていいのに、頬をすべる手のひらはうっとりしてしまうくらいに心地良い。兄さんはやっぱり、優しい人だ。
 荷物を置いて戻ってきた椎名さんが、兄さんを見て目を細める。
「感動の再会って、大袈裟っすよ」
「いーや、弟くんだって、お兄ちゃんと離れ離れで寂しかったよなァ?」
「昼に行ってらっしゃいの挨拶をしてから兄さんたちが帰ってくるまで五、六時間程度だから、待ち遠しくはあったけど、さほど寂しくはなかったよ」
「そこは嘘でも『寂しかったよ兄さん♡』って言えよ」
「嘘は良くないよ?」
「いいか、一彩。都会にはなァ、『嘘も方便』っつーイカしたことわざがあンだよ」
「知ってるよ。嘘は良くないけど、時には嘘をついた方が相手のためになったり上手くことが運ぶ、とかそういう意味だよね。でも嘘は嘘だよ」
「嘘なんてつかなくても、燐音くんが仕事で帰ってこない時なんかは弟さん、よく僕に抱きついて『兄さんがいなくて寂しい』って言ってますよ」
「ンだとォ……!?」
「ちゃんと寂しがってもらえてていいじゃないすか」
 僕なんて寂しがってもらえてるのかどうかもわかんないんすから。と椎名さんが寂しそうに笑う。だから。
「椎名さんがいない時も、寂しいって思ってるし、言ってるよ」
 椎名さんの顔をしっかり見つめて言うと、椎名さんは一瞬で、花が咲いたみたいな笑顔になった。
「そっすか」
「ウム」
「何でお兄ちゃんがいる時に言わねェんだ、一彩ォ!」
「兄さんがいる時は寂しくないから」
「ていうか燐音くん、いつまで弟さんを独り占めしてるつもりっすか」
「そうじゃなくてよ、『お兄ちゃんがいないと寂しいよぉ♡ ずっと一緒にいてほしいよ♡』とかよォ、言えばいいだろォ!」
「僕、兄さんのことを『お兄ちゃん』とは呼ばないよ?」
「呼んでいいんだぞ!?」
「僕の話聞いてます? いい加減、弟さんを解放してあげてくださいよ」
 口では兄さんに要求しながらも。実際は兄さんから僕を引き剥がすように、椎名さんの腕が僕の腰に巻きつく。後ろから。
「何してンだ、ニキきゅんよォ」
「燐音くんがいつまで経っても弟さんを独り占めしてるんで、実力行使に出たまでっす。気に入らないなら燐音くんがどっか行ってくださいよ」
「あァ?」
「凄んだって僕は怯まないっすからね」

 相変わらず遠慮なく言い合っている二人の間に挟まれて、僕は少し羨ましくて、でもそれ以上にとても幸せだった。
 だって、兄さんと椎名さんが帰ってきたら二人いっぺんに、ぎゅーってしてもらえたらいいな、なんて。
 密かに思い描いていた夢が、あっさり叶ってしまったのだから。