ざあざあと降りしきる雨。じっとりと纏わり付くような湿気。道を往く男にとって、それはどうにも好きになれないものであったが、その男にとっては珍しく、仕事があるが故に外に出なくてはならない。それに、相棒である少年は今日もまた学校に行った。どのみち迎えに行かなくてはならないのだし。そうして自分を説得しながら、男は水の跳ね飛ぶ道を、ジーンズの裾を濡らしながら、ずんずん歩いていく。
男は名をファイアと云う。元々はFire Starterなる書籍に登場する人物であったが、ひょんな出来事によって本から飛び出し、体を得て、今この現実世界に立っている。だんだんぐしょぐしょになっていく裾から、靴の中に水が入ってくる感覚はどれだけ時間が経っても好きにはなれそうに無かったが、男は今の生活をおおよそ気に入っている。しかし、もちろんただぼうっとしているばかりでは暮らせない。
男はふと顔をあげて、曲がり角を進む。男の目的地は商店街だ。ある男から依頼された情報収集、そのために、男はこんな雨の中を歩いている。商店街に辿り着けば、店は営業しているが、今日はあいにくの雨で客足はほとんどなく、閑散としている。だが、男にとってはそのほうが都合がいい。ここらでひときわ大きな書店の裏手に入ると、ポスターがいくつか張ってある。ここにあるのは、1年ほど前に発売された本の宣伝だ。コミックやノベルの登場人物が描かれている。
誰も居ないよな。男は人目があるか否か周囲を見渡し、問題が無いと判断する。そのうちのひとつを、男はこんこんと叩き、ノックすると、ポスターに描かれた主人公の目が、すっと尋ね人の方を向いた。
なあ、1つ聞きたいことがあるんだ。男はポケットから、一枚の写真を取り出してポスターに見せる。ポスターは紙の中からぐいと姿勢を変えて、写真をのぞき込む。いや、見たことが無いな。返事を聞いて、そうか、ありがとう。男が立ち去ると、ポスターはそれを見送っては、また元の姿勢に戻った。
次にやってきたのは、古書店の裏。捨てられたポスターが雨に濡れて打ち捨てられている。すっかり色あせたそれを、男は拾い上げて開き、またこんこんと叩く。なあ、こいつを知らないか。真っ白な人影は応える。あぁ、それなら昨日、この店に入っていくのを見たよ。この店で一番古い本を買っていった。あの本は古い古い、魔術の複写本のようなものだったはずだ。……そうか、君が噂の。もし、その人物が君のように、私のようなものに話を聞くことが出来るのならば、碌な事は起こらないだろう。白い人影は肩をすくめた。さあ、私のことはもういいんだ。もう十分、仕事させてもらった。気にせず元の場所に戻してくれ。最期に君と話せてよかった。……あぁ、その人物なら、あちらの店の方に向かったよ。男は頷き、古びたポスターを丸め、元々あった場所に戻し、じゃあな、と。
それからも、男は雨の中、あちこちを歩き、写真の人物がどこに行ったかの情報を集めて回った。こんなところだろうと思う頃には、靴も靴下もぐっしょり濡れて、歩くたびに靴から水が染み出てくる。それでも足を動かせば、丁度学校のチャイムが鳴って、我先にと帰路につく子供達が、傘をさして飛び出てきた。校門でしばらく待っていると、相棒の少年が少女を連れて出てきた。おーい。手を振ると、少年もまた手を振った。
帰ったらシャワー浴びさせてくれ。あと、あいつにも伝えないといけねぇから電話もな。
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