吼え猛る心

MHRウ教×マイハン♀(リラ)。両片想い。
ウ教視点。

誰よりもマイハンの幸せを願う、その心の狭間に。

思えば修行時代から、キミは華やかな頭角を表していた。

今ではすっかり手に馴染んだ得物の弓をたずさえ、獰猛な大型モンスターと対峙し、恐れることなく、宝石よりも輝く銀髪を陽射しの下でなびかせ、狩場で舞うように戦うキミの姿。

それは暁光ぎょうこうよりも明澄めいちょうに燃えてまばゆく、桜明かりのように可憐で柔らかく、月華げっかのように凛然と、美しい。

そんなキミを見て、キミの盟友たちは何を思うのだろう。
その場に俺も居ることができたならと、何度思ったことだろう。
次に、キミから声をかけてもらえる日は、いつなのだろう。

考えるだけで呼吸がしづらくなり、風光明媚な里の景色が、墨色となっていくようだ。

けれど、それでも良い。

俺はキミの教官だから。

キミの実りを優先したい、キミが誰よりも幸せになることを願い続けたい。

リラ、キミはあまりにも、うしなう悲しみを知りすぎた。
そんなキミが笑顔で幸せになれるなら、俺は五感も、この四肢も、命さえも惜しくはないのだから。

──それだけ強く願っているという意味だから、大丈夫。

キミが悲しむことの分別は、ちゃんとついているよ。

焦がれ、待ち続け、黄昏時たそがれどきにようやく里に帰った大切なキミを、俺は門の近くにある朱色しゅいろ太鼓橋たいこばしの上で、両手を広げて誰よりも早く出迎える。

今日は晴れているから、両手を広げやすくてとても嬉しい。

「ああ! おかえり、我が愛弟子よ! 無事で良かった!」

少々迷ったようだったけれど、夕陽に紛れてほんのり頬を赤くしたキミは、俺の腕の中にやって来てくれて。

そして幼い頃のように、無抵抗に、無邪気に、花咲くように微笑んで「戻りました」と俺を見上げてくれた。
キミの眼差しは、俺の身勝手な欲望という邪心を浄化させる。

……? 私の顔に、何かついてます?」

不思議そうに首を傾げるキミの頭を、俺は「何でもないよ」と、優しく撫でる。
今日も、キミが生きて帰って来てくれて本当に良かったと。
 
本当は口付けを落としてあげたいけれど、そんなことをしたら、キミはどんな顔をするのだろう。
そう考えると少し楽しくて、けれど倍以上に寂しくなる。


俺の手の感触にくすぐったそうに、もぞりと身をよじったキミは「もう」と紙風船のように頬を膨らませた。

やがてキミは悪戯っぽく、けれどどこか意を決したように「えいっ」と声を上げ、俺の腰に手を回して、しがみつくように俺に抱きついてきて。

……今日も、お互い無事ですね。安心、します……

寝声ねごえのようなキミの呟きと、キミの温もりは、俺の全身を甘く痺れさせながら、極上の至福で包み込んでくれる。

かつて、狩猟から帰った俺を迎えてくれた、在りし日の幼いキミも、こうしてくれたことを思い出す。

俺の腕の中でだけ、キミは一時ひととき『英雄』という称号から離れ、同じ場所に生まれ育った、可愛い里の子、リラになる。

俺だけが知ることを許された、あどけない可憐なキミの顔、桜のように馥郁ふくいくとしたキミの香り、出来たてのうさ団子よりも癖になるキミの柔らかさ。

盟友たちは決して知り得ない、俺だけの特別な愛弟子。

「──今日も、頑張ったね。偉いぞぉ、リラ!」

我が愛弟子、と高らかに告げた俺の腕の中のキミは顔を上げ、あの頃のように、くしゃっと心のままに微笑んでくれた。
焔のように赤赤とした夕陽の中でその笑顔を見た途端、俺の心が切なく疼く。

誰よりもキミの幸せを願い、キミの実りを、キミの笑顔を望み続けているのは、紛れもない本心。
けれどその狭間で、どうしようもなく。

──俺は、キミを愛してしまっているんだ。

キミの幸せが俺と共に居ることであったならと、心はおろか、四肢が千切ちぎれそうなほど願いたくてたまらない。

あまりにも悲しい別れをたくさん経験し、たくさん泣いてきたキミが、とびきりの笑顔で過ごせるのが、俺のかたわらであったなら。

俺のそんな想いと願いなど知るよしもなく、腕の中で嬉しげに微笑むキミの頭を、俺はまた、優しく撫でた。

愛しているよ、と吼え猛りそうな心を、必死になだすかしながら。



@acadine