【クローバーの朝】

『JOKER≒JOKER』現行未通過×

ラメングの朝
※嘔吐描写含む

目を覚ます。雨粒と強風が窓ガラスを激しく叩いて、時折雷が光と音を発する。天気の悪い朝、と言うには少し早い時間。カーテンを開き、まだ暗い空を見上げる。鬱蒼とした分厚い雲が、月も星も隠して奪う。

触腕が暴れ狂い、血肉が飛び交い、骨の砕ける音が響いたあの日。一人を残して欠けた仲間たちは、何を最期に望んだのだろう。生き残った自分たち二人へ、きっと仲間たちは祝福を贈ってくれる。優しく強い人たちだったから。あの邪神は今、なにをしているだろうか。生きているだろうか、この世界に存在しているだろうか、また誰かを殺しているだろうか。

ああ、あの日の天気は、どうだったっけ。


「ぅ、おえ゛ぇ゛!」


不快さを堪えきれず、近くのゴミ箱へ吐瀉する。胃液で喉が焼ける、手足が震えて視界がブレる、身体に四つ葉が生えるを復讐心が満たす感覚で、肌を掻き回す。爪先が血で染まるほど強く、心臓に詰まった復讐心胸に咲いた四つ葉を毟って抉る。

許さない。仲間を奪った邪神を、それを喚んだ教団を、無かったことにした警察を、そんなことを許した自分を。自分を動かしているのは、愛への貪欲な望み。この渇きで仲間の無念と存在を証明して、いつか必ず復讐するのだ。


「はっ……はぁっ……


荒い息を整えながら、部屋の隅に飾られたバケツを見る。怪盗のボク様スラメングが、そこに立っている。何も言わず、人間のワシミツバナレを見つめている。

分かりきっている。アレが幻であることも、アレは復讐鬼ではないことも。嘆きラメントの名は伊達ではない。彼は復讐に蝕まれる人間を想って、心から嘆いているのだ。そういう存在として生まれたのだから、当然なのだが。


「スマンのぉ、嘆きのキミ


謝罪を口にしても、作られたボク様嘆きのキミは口を動かさない。極めて静かに、虚ろな姿を揺らめかせている。逃げたワシ復讐鬼の男が、再び派手に嘔吐する。これはいけない。明日は獲物の歌姫ディーヴァを狙う日だから、昨晩はタバコと酒を控えたと言うのに。このままでは怪盗団に迷惑をかけてしまう。

一通り胃液を吐き出してから、ヨロヨロと仮面バケツに向かう。まだ震える手で抱え、頭に被る。視界と意識が、ラメング柳の怪盗に染まっていく。


「大丈夫だよ、渇きのアナタ」


溢した言葉で、徐々に復讐心が収まっていく。苦痛はドロドロと溶け、四つ葉が三つ葉に呑み込まれる。目の前で自傷するワシミツバナレを、優しくボク様ラメングは抱きしめる。

知っている。コレが幻だってことも、コレが無意味なことだってことも。渇きミツバナレは、決して許さない。彼はあの日からずっと、何もかもを憎んでしまうのだ。あまりにも酷い事件だったから、仕方ないけれど。


……さて、と! そろそろ準備しよっと!」


バケツ頭のまま立ち上がり、怪盗服に手を伸ばす。しかし吐瀉物の溜まったゴミ箱に気が付き、苦笑いを浮かべる。先に処理することにして、ゴミ箱を抱えて彼は風呂場へ向かう。




雨は、まだ止まない。