ひがあぎういな
2024-03-21 13:19:29
3775文字
Public アンデラ小説
 

意味も理由もそっちのけ

【不死不運03】不運ちゃんが指輪を欲しがる話。日本出る前にぶらぶら観光してる緊張感のない不死さんです。不運ちゃんにとっては組織から逃げ回る刺激的な状況だけど、不死さんは元からそうならマイペースに行くのかなと。でも、不運ちゃんが能力と関係なく手放せなくなってしまってからはもうちょい慎重になると思っています。

『意味も理由もそっちのけ』



「お願いがあるんだけど」


逃亡がてら引きこもりに外の世界を見せてやろうと、観光地巡りを挟みつつ追手を撒いては旅を続けていたある日の事。
相棒の女が珍しく欲しいものがあるとベッドの中、少しぼんやりした声で言った。


「指輪?お前そういうの欲しがんだな」
「あった方が便利じゃん」
「ほーんまぁいいぜ、そんくらい買ってやるよ」


便利がどういう意味なのかは気になったが、普段なにか欲しいもんはあるか聞いても食いもんの好みくらいしか言わないこいつが、はじめて欲しがったのだ。何であれ買わない理由はない。


「んで、どんなのがいいんだ」
「よく分かんないけど、お揃いのやつ」
「はおま欲しいのってペアリングかよ」


俺が勝手に着飾らせて楽しんでたおかげで、ようやく年相応の洒落っ気が出たのかと思ったらスレてるようで、そういうのに憧れる少女らしさも持ってんだなぁと沁みるものがあった。

お気に入りの女に揃いの指輪をねだられたとなれば、ますます乗り気になるってもんだ。いつの間にか隣ですうすう寝息を立てている黒髪をさらりと撫で、不幸をもらうついでにこの辺のジュエリーショップを調べるためにそっとベッドを抜け出した。


*************


「うわ指輪ってシンプルなのでも結構すんだね」


翌日さっそくとばかりに店に足を運んだが、100万ぽっちで取り乱す庶民的な金銭感覚だとこういう格調高いショップは入るだけで息が詰まるようだ。
入店拒否されてもつまらないから俺も一応スーツで来ているしそれが余計に心理的ハードルを上げちまったらしい。奢られる立場なんだから心配いらねぇってのに。


「こんなもんか。これとかどうよ」
「高ッ!!宝石とかついてないやつにして!」
「あ?俺がケチな男だと思われんだろが」


女に贈る指輪に石の一つもないなんて、買わない方がマシなレベルだろうと思ったが


「だってアンタ高確率で失くすじゃん腕ごと」
「まぁな」
「だからもしもの時に替えが利いて、お揃いって分かるようなのがいい」
………わーったよ」


そんなに俺と揃いがいいってのか?可愛すぎんだろなんだそりゃ、このおねだり上手め!ぎゅうと痛む心臓に、マジでこいつでなら死ねそうだなと奥歯を嚙み締めた。

一目でペアと分かる特徴があり、それでいてシンプルなデザインというオーダーで選んだのは金で縁取られたプラチナリング。ペアでも10万くらいにしかならない安物だってのに、指に通してやったら「普段は隠れちゃうけど大事にするから」と、詫びてから手袋をはめ直し、何度も指輪があることを確認するためか手袋の上から手を撫でていて。
そんなに喜ぶんならいくらでも買ってやるのにと、俺の機嫌はどこまでも上がっていく。


「思ってたよりお金かかっちゃったね、ごめん」
「なに謝ってんだ、俺としてはもっと甘えてもらいてえんだが?」
「あんま借り作ると後が怖いし」
貸したつもりねえよ、買ってやるっつったろ」


欲がないというより施しを受けたがらない意地のようだ。男の懐事情を気にしすぎるのは逆に失礼なんだがな、文化の違いってやつか?
そもそも俺のせいで組織に目を付けられ、俺の暇つぶしに連れ回されてるんだ。養われるのも当然の権利だと思えばいいものを。


「男なんざこういうトコで格好付けたがる生き物なんだよ。喜ばしとけって、な?」
「でも
「つかごめんより先に言う事あんだろ」
ん、ありがと」
「おぅ」


*************


あれから不幸をもらう時や荒事の予定がある時は、相棒に指輪を預けて失くさないよう心掛けた。見た目はシンプルで替えが利くとしても、こいつとペアで買った指輪はこれ一つだと思うと、どうにも粗末にできなかった。


「あのーすみません、ちょっとお時間よろしいですか」


良く晴れた昼間なのに何故か人っ子一人居ない公園のベンチに外人が一人で座っているのは異様な光景かもしれんが、またかよと思った。俺の前に警官が2人並んでいる明らかに職務質問だな。


「日本語はわかりますか?」
「ワカリマス」


少し言葉に不慣れなフリをして答えた。偽造した身分では日本在住歴が長くない事になっているからその演技と、相棒が合流するまでの時間稼ぎだ。
女連れで歩いてるときゃそこまで声は掛からないんだが、どうも一人だと職質を食らいやすい日本の警察は仕事熱心でありがてぇや。


「あら、お疲れ様です〜アンディごめんね待たせちゃって」
「お知り合いですか?」
「えぇ、夫です」
「奥さんずいぶんお若いですね〜その手袋、暑くないですか」


お、珍しく飛び火したな。しかし相棒は慌てることもなく手袋を脱いだ指輪をしている左手をあらわにし、困った顔で笑う。


「うわっやけどですか?」
「はい、目立っちゃうので隠してまして
「それはすみませんでした、ご協力感謝します!」


では!と言ってまだ若そうな警官たちは話しを切り上げた。
何度か振り返ってペコペコしているのをにこにこ見送ったあと、はぁ〜と大げさなため息とともに相棒の背筋が丸くなる。


「もー何回目よ職質おちおちトイレも行けないじゃん」
「そろそろ日本出るかぁめんどくせぇし」
「んーやっぱ買っといて良かったね、指輪」
「ア?」

「だって見せるだけで説明になるし。便利でしょ?」
便利って、そういう意味かよ……


相棒がペアリングを欲しがった理由が、あまりにも実用的でドライだったなんて今さら知りたくなかった浮かれていた自分に気付いて舌打ちする。


「そんなら日本出る前に売っちまえ、職質なんざ滅多にねぇしスられるだけだ」
「え……持ってちゃだめ、なの?」
「??」
「アタシ海外のこと知らなくてごめんねせっかく買ってくれたのに」


返すね、と指輪が抜き取られるのを見て、内臓が凍ったような気分になった。そんなつもりじゃなかった、大事にしてたのが自分だけだったと思って、夫婦を演じるための小道具だったならもういらないだろって。
なんだよ、お前もちゃんと大事にしてたんじゃねえか。

返された指輪を再び返す言い訳が咄嗟に出てこず、一旦ポケットに突っ込んだ。


*************


「海外にはすぐ行くの?私パスポート持ってないよ」
「いらねえよ、俺の船で行く」
「密入国ぅ


行きたい場所を訊いても海外の観光地を知らないと言うので、適当に旅行ガイドブックを買って渡した。目的地があるわけじゃねえからな、まずはこいつの行ってみたい所に行く。ただのアテのない旅よかそっちのが有意義だろう。

どうやら本の中の異国の風景はお気に召したようで、枕元にまで持ち込んでは寝落ちるまで読みふけっていた。


「他に必要なものもない?」
「要るもんは現地で調達するしな。荷物は少ない方がいい」
「そっか」
「だからお前が持つのはコレだけだな」
「へ?」


ちゃりとリングが胸元で音を立て、ベッドに寝転がって旅行ガイドを眺めていた相棒は、呆けた声を出してもそりと正座になった。


「首に掛けときゃ盗られねぇよ、たぶんな」
「これ売るんじゃ
「持っときたかったんだろ」


首に掛けられたネックレスチェーンと2つのリングホルダー。
そしてそれに通されているのは、手放したはずのペアリング。


「いいの?」
「その代わり俺から離れるな。男連れの方が狙われ難い」
「うん!あの、ありがと!」
「おう。礼ならキスでいいぞ?」


えらく素直なのが嬉しくて、ニヤついた顔を誤魔化すためにいつものからかいで答えた。
相棒はベッドの上に立ちながら手袋を脱ぎ捨てる今回はグーパンかビンタか、ついでに起こるであろう小規模な不幸の始末を考えながら、反撃を待ったが


キスだけなら、手は離すけど」
……握っててくれ」


相棒が初めて自分から素手を繋いできた。素肌で触れて不幸を呼ぶ不運の否定能力は、離れるまで発動しない。

つまり、それはキスの続きがあるという、二人だけのサイン。


「死んじゃわないでね」
「はっ、誰に言ってんだよ。俺はアンデッドのアンディだろ?」


いつもなら頭一つ小さい相棒が、ベッドの高さぶん俺を見下ろして、そっと口付けを降らせてくれる。やり方がわかってないだけか、それとも物足りないからか、離れてはまた触れるのをちょこちょこと繰り返されて、くすぐったいのにどうしようもなく満たされた。

まだ死ねねぇな、とふとよぎる。

いくら希死念慮が強くとも、本を読んでる途中で死ぬヤツはいないように、俺は今お楽しみの途中だ。こいつを置いて死ぬわけにはいかない否定者として存在が認識された今、引きこもり直してもすぐに捕まるだけだ。
こいつは俺んだ、誰かに良いようにされると分かってて手放すのは、想像するだけで胸糞悪い。

衝動的に二人でベッドに崩れていく。ただ、それを愛情と呼ぶのか、支配欲と呼ぶのかは、今の俺には区別できなかった。




おしまい