ひがあぎういな
2024-03-02 00:53:49
3229文字
Public アンデラ小説
 

誰が躾けたその獣

【アン風07】コミックスは5巻!アニメは21話!!もしまだ隊長を摂取してない人いたら、こんなとこ居る場合じゃないよ!!!隊→風のアン風で新入りコンビ加入後~不運の儀式より前という隙間時空です。隊長は私の情緒を確実に狂わせた罪深い男なので一丁書いておきたかったのでした。

【誰が躾けたその獣】



「隊長あの娘、手をつけないならなんで連れてんです?」


食い扶持稼ぎにいざこざを片付けて回っているうちに、小規模ながらも流れの傭兵部隊として人が集まるようになったアテのない旅路。軽口を叩くこいつは新入りのアッシュだ。


勝手に付いて来ただけだ」


その手の話はこれまで何度も持ち出されてきた。
隊長と呼ばれる俺が、傭兵には見えん女のガキを連れているのが物珍しいのだろう。実のところ今のあいつは並の兵よりよほど武功を立てていて、実力で俺の隣にいる女なのだがそれは否定能力という妙な異能を説明してからでないとおよそ信じる奴もいない話だった。


「またまた〜あんな大事にしてるじゃないすか」
「昔の仲間が身を呈して助けたからだ俺が死なせたらあいつらが無駄死にになる」


出会ってすぐの頃は治安の良い村に置いて行く予定だった。
だが言葉が解らないせいか明らかにマズい連中に囲まれても、まるで生きる術を知らない草食獣のように美味そうな肉を皿に乗せた振る舞いをする目眩がした。
そんな女が一人で歩いてみろ、多少の治安の良さなんか何にもならない。連れて行くほかなかった。


「ふ〜んてっきり隊長の女だと思ってたな〜」


そんな誤解を生むのもしようがない。
今では言葉も覚え、戦闘時の心得も叩き込んだ。一人にしても大丈夫だろうとは思っている。
ただ、俺が離し難くなっていた。

風子は俺じゃない俺を想って、こんな旅を10年も付き合ってくれた。日々の積み重なりは確実に馴染んで、真っ直ぐな笑みが時々俺を通り越して別の俺に向けられてると感じて面白くないと思う程度には、囚われていた。


少なくとも俺のではねぇな」
「じゃあ俺が口説いても良いんすね?」
………………ああ」
「顔こっっっっっっっわ!!!」


新入りを怖がらせてしまったよく顔が怖いと言われるが、何度言われても納得は出来ない。風子は俺を怖いなんて言ったことないしな自分では子供に懐かれるタイプだと思ってるんだが。

それでも隊の揉め事は困る、怖がられても注意はしておく。


「言わんでも分かってるだろうが、無理強いはするなよ。口説いても落ちなかったらちゃんと諦めろ」
「いや冗談っす体付きは好みだけどタイプとは違うんで」


アッシュの返事に一瞬安堵したが、風子がタイプじゃないと言われると何故か不愉快だった。



************



「風子さん、隊長さんとは長いんですか?」


馬を降り、宿を求めて村を歩いていた時、先を歩くアンディとアッシュさんは歩幅があるぶんさくさくと進んでいて、ありゃちょいと距離が開いたなぁと駆け寄ろうと思ったら、同じく少し遅れて歩いていたカミュさんに話しかけられた。

カミュさんはアッシュさんと一緒に新しく入隊した人で、なにやら難しい本が好きらしく、アッシュさんと比べたら格段に穏やかな性格の青年だ。年下だろう見た目の私も先輩扱いしてくれて、くだけつつも丁寧な言葉を選んでくれる優しい人。


「う〜ん一緒に旅を始めて、10年くらいになるかな」
「そんなになるほど、だから
「なにかあった?」
「あっいえ、興味本位でしたスミマセン」


両手のひらを振って慌てたように会話を切り上げて「また色々聞かせてくださいね」と残し、遅れている私達を振り返って待っているアッシュさんのもとへ走って行ってしまった。

知らない土地で一人になるのは良くない。合流しようと駆け足に入った私の足は、地面を踏むことはなく。


「離れるなといつも言っているだろ」
「た、隊長ごめんなさい!」


いつの間にやら後ろにいた隊長ことアンディに、両脇を掴まれて宙に浮いていた。

私の能力はうっかりすると周囲に被害が出る。アンディがそばにいないと何故か私に触れようとする人がいるから、事情を知っている隊員かアンディが必ずそばにいる事になっていた。

今回一緒に居たカミュさんは、まだ私の不運のことを知らない。怒られても仕方ない。


「あと易々と背後を取られるな。町中とはいえ油断しすぎだ」
「ふぐぅ返す言葉もございやせん……


隊長でもあり、あらゆる心得を叩き込んでくれた師匠でもあるためまったく頭が上がらない。大人しく反省していると、トンと地面に降ろされた。


「行くぞ」
あい」


ぽすん、とニット帽の上におっきな手が乗った。
なでられた訳じゃないけど、慰められたかのような気持ちになる過去のアンディは笑わない、だからこういう心の中が見えそうな仕草が嬉しく感じるんだよね。
私が出会ったアンディも、過去のアンディも、どっちもちゃんと仲間想いで優しい人。その根っこの部分が一緒だなって気付く事がある度に、彼の笑った顔が見たい気持ちは強まった。

どうしても笑わせたくて、おじいの影響で覚えた落語を一席披露してみたこともあったっけでも「良く出来た話だな」と感心されてしまって、笑いには繋がらなかった。
今の彼が私の知るアンディにどうやってなるんだかむやみに裸にならないしんや、それはその方が助かるんですけどね?


(笑ってくれるまで、安心して離れられないよ)


************


後方で何やらお説教タイムが始まっている隊長とその相棒の少女を少しの間眺めていた新入り2人組は、その距離の近さと、それでいて存在する微かな隔たりに肩をすくめた。


「普段からああなんだよな、聞いた話」
「一緒に旅をしてもう10年になるんだって」


今しがた本人に確認したばかりの情報を漏らすと、目つきの悪いアッシュの目が丸くなった。


「10年〜?風子18だろ、8歳からこんな旅してんのか」
「ね、驚いたよ」
隊長が手ぇ出さない理由わかっちまったな」


ようやく並んで歩き出した後方の2人に間違っても届かないように、少し声を潜めた。
聞いた話を合わせると、昔の仲間が命と引き換えに救った8才の少女を形見のように守り続けて10年という事になる。それなら確かに食う食わないの話にはなるまい、もはや娘と呼ぶ方が自然だ。

不純な関係を疑ってしまった己を恥じながら何事もない顔をして合流したアッシュだったが、その考えが的外れである事を知るのにそう時間はかからなかった。


(ウソだろおいなんで風子は気付いてねぇんだ!?)


客引きなのか近付いてくる男がいた。風子は人見知りの子どものように隊長にぴったり貼り付いて様子をうかがって、隊長もまた小さい肩に手を添え、誰にも触らせまいと言外にアピールしていた。

それだけならまだ親子のようで、微笑ましく見ていられた。
だが


「残念だけどアタシこの人のだから」
悪ィな、他当たってくれ」


馴れ馴れしい男はお世辞のつもりか、風子に今夜は空いているかと聞いた。その途端の隊長のピリつき方は、およそ父親のそれではなかった。
風子は身を隠すためにしがみついていた腕にそのまましれっと絡み付いて、堂々と嘘をつく。隊長の、視線で射殺しそうな表情には気付いていないようだ。


(めちゃくちゃ狙ってんじゃねーか)


例えるならばその眼は、仔羊を前に鎖で繋がれた餓狼である。届かないとわかっている牙を収めているだけの、我欲に塗れた雄。
あぁそれがどんなに残酷な振る舞いなのか知りもせず、風子は隊長に寄り添っている。

隊長は風子を「俺のではない」と言った。
なら彼女は誰の女なのだろうかあんなに四六時中べったりしてるクセに?あの隊長が諦念に沈むほどの相手が他にいると??


よく躾けられた犬かのように、飢えながらも上品ぶったその外面は、いつまで身に着けて居られるのか。

それは恐らく、本人すら解っていない。




おしまい