月がぽっかり空に浮かんで、ビルの合間から街を覗き込めば、そこはもはや月明かりすら必要とせぬ不夜の街。連なる店の軒並みにはネオンカラーがギラリ載せられ、なおもまた提灯がぼうっと照らす。道行く人々もその身に機械を埋め込んでは、服の隙間からチラチラ光る。
さて、そんな奇怪な人波に、逸れぬ様にと手を繋いで歩く5人の集団が居た。彼らは大きな荷物をキャリーバッグやリュックサックでえっさほいさと運んでは、遠くの街からようやく拠点であるこの街に帰ってきたのである。あとは家に帰るだけ、ではあるのだが、腹が減ってはなんとやら。列車を下りてバスに乗る前に、まずは腹ごしらえをと、この歓楽街へと足を向けたのであった。とはいえ、行先はすでに決まっている。
歓楽街の裏道に入り、表通りの喧騒と照明から離れた薄暗さの先。先頭を往く男がとある暖簾をくぐれば、そこは彼ら行きつけのラーメン屋である。厨房から立ち上る湯気と熱気、そして様々混じったスープの匂いに、2人の子供はついつい浮足立っては、ささっと開いている席に座り、先頭を歩いていた男が通路側を陣取る。続いて、最も大荷物を抱えた長身の男が子供たちの正面に座り、その隣には顔を隠した黒衣が座っては、子供たちが品書きを開いた。
サインひとつ飾られていない無骨な店には、店主とロボットがひとりとひとつ。ご注文はお決まりですか、とロボットが客のもとにやってくると、それぞれ次々に答える。代表して、男が応える。豚骨1つ、塩1つ、味噌1つ、醤油1つ大盛り、期間限定は……坦々か。それを1つ。あと焼き餃子2皿とチャーハン1皿。以上で。男が伝えれば、ロボットが伝える間もなく、店主はすでに作り始めていた。
お腹が空いたねぇ、なんて髪を括った子供が呟けば、空いたね、と髪を降ろした子供が応える。それを示すかのように、くぅと2人のお腹が鳴った。ははは、そうだな。長旅だったしな、と男が笑えば、その正面では、荷物に抜けが無いかどうか、大人2人が確認をする。ぱっと荷物を開いては、すぐにぱっと元に戻す。
へい、お待ち。そう待たぬうちに、男の前には豚骨の、髪を降ろした子供の前には塩の、髪を括った子の前には味噌の、長身の男の前には醤油の、黒衣の前には坦々の。そして皆でつまんで食べる餃子。最後に卵たっぷり、ぱらっぱらのチャーハンをロボットが食卓に並れば、長身の男が皆に箸を配っては、さあ食べようかと手を合わせる。
いただきます。
声を合わせて、誰ともなくずずっと麺をすすれば、はぁ、と息が漏れる。ひとくち、またひとくち進んで、長身の男が醤油を小皿に出す。餃子をひとつちぎって、また反対側からひとつちぎれて、ぱくりと食べてみれば、じゅわっと広がる肉と刻み込まれた野菜の味。次に醤油をつけてみれば、また舌をググっと刺激する。
のしかかる疲労とものざみしい空腹に、満たされていく幸福と。客は皆、何かを喋ることなく、自分が注文したものを胃袋に収めていく。2人の子供が丼の半分ぐらい食べた頃、その隣で男はチャーハンに手を出す。チャーシューと香味野菜と、ふわふわの卵と。店主こだわり特製ソースががっちり噛み合ったこってり味は、何かと気を張っていた男にとって、これ以上ない褒美であった。唯一大盛りを頼んだ長身の男もすっかり食べ終えて、なあひと口くれないか、と。男が、ん、とレンゲ一杯掬って渡せば、ぱくっと食べて、うん、美味いなぁ。次来た時は、そっちも頼もう。ありがとうなぁ、と。
子供たちがふう、と息を吐けば、へとへとの体にも随分力が戻ってきて。最後の餃子を黒衣がペロッと平らげれば、皆で手を合わせた。
ごちそうさまでした。
さあ、帰るまでがなんとやらだ。
うん、もうちょっと。
帰ったらお風呂やらなくっちゃ。
わしらは片付けからだのぉ。
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