Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
けーだい
2023-07-19 18:56:41
2566文字
Public
Clear cache
姫様のことしか頭にない勇者の続き
なんでこんなスケコマシ感溢れることになってしまったのか。早く付き合え
ゼルダ、と呼ぶ声が好きだ。
百年経ってようやく敬称の取れたその響きは、かつての自分が望んでも得られるものではなかったから。
退魔の剣を抜いた時の話を、デクの木さまに聞きに行く。ゼルダの些細な興味から、予定を変更してコログの森を目指す道中、リンクはゼルダのことを「姫様」と呼ばなくなった。
特段二人の間で何か変化があった訳では無い、とゼルダは思う。とすれば、何かが変わったのはリンクの中での話なのだろう。
そもそもリンクの行きたいところにゼルダが同行する、ということからして今までとは違ったのだ。表面的には今までと変わりない距離感だったが、ゼルダは内心動揺しきりだった。
(おれのこと、もっと知って欲しいなって思ったんです)
「ぁぁぁ
……
」
思い出してまたも耳まで赤くなったゼルダは、馬宿のベッドに転がりか細く情けない声を上げながら顔を枕に埋めた。
何度思い出してもあの顔はずるい。
(あんなに柔らかく笑うあなたなんて、しらない)
百年前の彼はもちろんだが、ゼルダが遠くから見守ってきた百年後の彼でさえ、あんな風には笑っていなかったのに。
あれから彼は、ゼルダの名を呼び、あの柔らかな笑顔をよく見せるのだ。
目覚めたばかりの彼は全ての記憶を失って、かつてとは全く違う無邪気さで、ゼルダ、と名を口にした。
記憶を取り戻してなお名前を呼んでくれていた彼とやっと再会を果たした時、口調こそ砕けてはいたものの、彼はゼルダを「姫様」と呼んだ。
その時は覚えていてくれたことが嬉しくて気にはならなかったが、しばらく共に過ごして少し悲しくなった。
それが今は、再びゼルダと呼び、見た事のない笑みを見せてくれる。
何がきっかけだったのかは分からないし、その変化にゼルダの心臓は正直着いてこれていない。だが、嬉しかった。
百年想った相手なのだ。嬉しくないわけがなかった。
「ゼルダ? どうかした?」
ビクン、と肩が跳ねる。
ベッドの横、天幕越しに小さな声が降ってきた。隣のベッドにいたはずのリンクだ。
どうやら先程の情けない呻きが聞こえていたらしい。
「いえ、あの
……
なんでもありません
……
」
あなたの事を考えて悶えていました、などと言える訳もなくはぐらかす。しかし彼はかつてのように引き下がることは無かった。
「
……
入っても、いい?」
息を飲んでしまった。ひゅ、という音はもしかしたらリンクにも聞こえていたかもしれない。
だが、それでも彼は自分のベッドに戻らなかった。
「どうぞ」
務めて普段通りの声を出した、はず。ゼルダは手櫛で寝乱れた髪を直し、心の準備をした。
天幕が少し上がる。リンクが音もなく入ると再び閉じた。
振り返った彼は、なんだか妙な顔をしている。
「あなたこそどうしたのです、その顔は」
「いや
……
なんか悪いことしてる気分になって」
悪いこと、というのが具体的にどういう意味なのかを一瞬考えそうになって、顔に熱を感じてやめた。
「な、にを言ってるんですか
……
!」
「ごめん。さすがにこんな所じゃなにもしないから安心して?」
こんな所じゃなかったら何かするのだろうか。自分達はそういった関係ではないと思うのだが。というか本当に何を言っているのか。
色んな言葉が頭の中を駆け抜けていく。結局ゼルダは何も言えなかった。
本当に彼はどうしたのだろうか。
「ふふ」
また彼が柔く笑う。
「ゼルダ、顔真っ赤」
それはそうだろう、と思った。
「誰のせいだと思ってるんですか
……
」
「ごめん。からかった訳じゃないんだけど
……
おれもちょっと緊張してるみたいだ」
変なこと言ってごめん、と彼は再三謝った。
もういいです、と言うと、また笑う。
そろそろ心臓が持ちそうにない。
「座ってもいい? 少し話したくて」
リンクがベッドの端を指して言った。どうぞと返すとベッドの縁が沈む。彼の見た目より重い身体が思ったより近くにあって、また心臓が跳ねた。
「ゼルダ」
呼ばれて彼の顔を見る。思ったより真剣な顔をしていて背筋が伸びた。何を言われるのかと身構える。
「最近、何か無理してない? 」
違う意味で思ってもみない言葉だった。
「無理? いいえ、していませんが
……
なぜ?」
「なんだか様子がいつもと違う気がしたから」
それはむしろこっちのセリフだった。ゼルダの知っているリンクは、姫のベッドに腰掛けるなんて距離の詰め方をしてこなかった。
話がしたい、なんて言われたのもはじめてだった。
(もっと知って欲しいって
……
そういうこと?)
今になって知らない彼を沢山見せられている。それこそが彼の「知って欲しい」という言葉の真意だったのだろうか?
戸惑うままゼルダは口にした。
「様子が違うのはあなたの方です、リンク。
……
今まで、あなたは私のことを姫様、と呼んでいましたし、こんなふうに
……
私のベッドに並んで座って話をするなんて事も
……
」
「嫌だった?」
言葉を探すゼルダの間に、リンクは言葉を挟んだ。それすら初めてのことだ。近衛としての彼は、主君であるゼルダの言葉を遮ることなどなかった。
だとしたら。
(今のあなたは、近衛としてのあなたではないのですね)
少なくとも、それだけはわかった。
「嫌なわけがありません」
きっぱりと言い切る。思ったより不安げに揺れていた青色の瞳が、見開かれる。
「国もない今の私は姫でもなんでもありません。それでもあなたにとっては
……
今もなお姫なのだと、だからそう呼ばれるのだと思っていました。ですが
……
私は、あなたと対等な個人として話したかった。
……
ですから、こうしてあなたの隣に並べるのはむしろ
……
嬉しいのです」
見開かれた瞳が、蕩けるような深い蒼に変わる。安心したように、嬉しそうに、微笑む。
ああ、またその顔。
「良かった。
……
おれも、貴女の隣に並びたかったんだ」
嬉しい、というのが声から伝わってくる。こんなに素直に感情を出す彼を、今になって知るとは思ってもみなかった。
―――
嬉しい。
リンクの変化に戸惑うばかりだったゼルダの心が、やっとその喜びを受け止める。
しかし。
「ね、ゼルダ。おれはさ、百年前からずっと貴女の名前を呼びたかったんだよ」
耳元で囁かれたリンクの一言で、ゼルダの心臓はまた跳ね回るのだった。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内