けーだい
2023-07-19 15:02:22
1875文字
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この近衛、姫様のことしか頭にないな

リンゼルちゃんへの狂いを書き出してみたらなんかすごい無自覚で口説くリンクになった。ブレワイ後ティアキン前イメージ。書いた人はブレワイ未クリア。
リンクがマスターソード抜いた理由ってどっかに書いてあったりするんですかね……?

思い出した記憶は英傑達や彼女と歩んだ日々のものばかりで、もちろん少しはそれ以前の記憶も思い出しはしたけれど、それで人生全ての記憶が揃ったかというとそんなこともなく。
つまるところ、おれの人生のほとんどは、姫様といる時の記憶で埋まっているのだった。



「あなたはなぜ、その剣を抜いたのですか?」
狩ったばかりの肉とキノコ、それから持ち合わせていた少しの岩塩を炒める鍋から視線を上げる。好奇心旺盛な翠の瞳が真っ直ぐにこちらを(正確にはおれの背中にあるマスターソードを)見ていた。
彼女はたまにこういう目をする。気になったものを見つめるその眼差しはどこか幼げですらあって、無垢、という言葉が頭に浮かんだ。
「えーっと……?」
思わず見惚れかけて、いけね、と訊かれた内容を慌てて思い返す。なぜその剣を抜いたのか、だったか。問われたことと全く関係のない事を考えてしまったから、反応が遅れた。
頭の中で記憶の箱をひっくり返す。たしかこの剣を抜いたのは十二か十三の頃だった、というのは思い出した。が、その動機とか、どうやって剣の在処を知ったのかとかの「剣を抜いた時」に関する記憶はいくら探しても見つからない。
―――姫様の傍に行く前の出来事だったから。
「ごめん、覚えてないや」
でも、何か大切な理由だったような気がする、とまでは言わない。そこまで言えば、きっと彼女は辛そうに眉を寄せるだろうと思ったからだ。
彼女の悲しむ顔は嫌という程散々見てきた。もう二度とそんな顔はさせたくない。
だから、本当なら覚えてないなんて言うべきではなかったとも思う。けれど、彼女に対して嘘だけは言えなかった。言いたくなかった。
「そうですか……
言葉を半分飲み込んだところで、彼女はやっぱり思った通りの顔になってしまった。さっきまで純粋な好奇心で輝いていた瞳が陰り、視線が落ちた。やらかした。
どうも彼女は、おれが記憶を失くしたことに責任を感じている節がある。それがわかっていたのに悲しませる言葉しか選べなくて、昔より饒舌になったと言われるけれどなんにも変わっていない口下手な自分を痛感する。
(それは違うのに)
確かに、おれが記憶を失う事を承知で回生の祠に運ぶよう指示したのは姫様だ。
でも、そうしなければあの時おれは死んでいた。
姫様を―――ゼルダを、守ることができない。死ぬ直前のその後悔が、あの時から今に至るまで、ずっと胸の奥にある。
彼女の決断がなければ今はなかった。それだけは絶対の事実だ。だから記憶を失くしてしまったことを寂しいとは感じても、惜しむことはない。むしろ、彼女を救う機会をもう一度与えられたことへの感謝の方が大きかった。
それに。
「ゼルダ」
いつもは呼ばない名前で呼ぶ。「恐れ多いぞ」とかつての自分が言っている気がしたけれど、無視した。とっくに敬語も抜けてるのに何を今更、だ。
彼女は少し驚いた顔をしておれを見る。
きらきらした瞳が綺麗で、悲しみの消えたその瞳をずっと見ていたいと思った。
「おれがはじめてこの剣を抜いた時のこと、デクの木さまに聞いてみようと思うんだけど、一緒に行ってくれる?」
デクの木さまは全部見ていたはずだ。だからおれがこの剣を抜いた理由もなにか知っているかもしれない。あるいは、その時の話を聞いておれがなにかを思い出すことだってあるだろう。

全部、おれがゼルダに生かされたからできることだ。
その事を彼女にもわかって欲しい。

「いいの……ですか?」
なぜだか戸惑うように揺れる目で、彼女がおれを伺う。
上目遣いはずるいと思う。
「もちろん。なんで?」
なんだかこっちが落ち着かなくなって、忘れかけていた鍋の中身に視線を戻した。焼ける具材を返せばいい焼き色になっている。
「だって……私の言ったことがきっかけとはいえ、あなたが自分の行きたいところを言ってくれることなんて今までありませんでしたし、まして一緒に行こうなんて……初めてじゃないですか」
「そりゃあまぁ……
護衛の行きたい所に行くのは本末転倒でしょうとか、貴女の行きたいところにおれも行きたいとか、でも本当は貴女が百年守ったこのハイラルを二人でもっと沢山見たいとか、色々思い浮かんでは言葉にしきれなくて消えていってしまった。
今はもっと違うことが言いたい。残った最後の言葉だけが伝えたいことだった。
「おれのこと、もっと知って欲しいなって思ったんです」
口に出して気づいたのは、おれはもしかしたら百年前からそう思っていたのかもしれない、ということだった。