ちあ
2024-05-25 21:23:51
3350文字
Public 快刀乱魔
 

落ちこぼれ刑事のよもやま話 #3

快刀乱魔現行未通過×
HO3佐保嵐のSSSです。
なんでも許せる人向け!

とある古びたビルの地下にて。
男はここで『最近台頭してきている凄腕の情報屋(ルーキー)』と面会をする手筈になっていた。
ドアを決められたリズムでノックする。扉が開くと、案内人が男を奥の部屋へと導いた。
明るい蛍光ライトに照らされた部屋には、若い女がひとり座っていた。

一瞬、男は部屋を間違えたのかと思った。
まず、目に飛び込んでくる艷やかな髪は明るい水色とピンクで綺麗に半分に分かれていた。髪色に似合ったふりふりの衣装。マジシャンを思わせるようなシルクハットとマントが非日常な印象を強めている。
意思の強そうな瞳が男を捉えて、ニコリと見事な笑顔を浮かべた。芸能人がカメラに向って笑うときのような、計算と無邪気が完璧なバランスで配合された笑顔。いかにもな質素な部屋に、全然似合っていない華やかな存在がそこにいた。
そんな歓迎の笑顔に出迎えられて、男の内心は酷い戸惑いを覚えた。
いけない。笑顔には笑顔を返さなくては。頭ではわかっているものの、混乱した男は思わず尋ねてしまう。

君が情報屋?」
「そう。魔璃亜よ♥よろしくね、依頼人君」

その愛くるしい挨拶を自分一人に向けられて。
(ああ、またか
ひとつ心の中で淀んだため息をつくと
「そーです、僕が依頼人君です。よろしくね~」
佐保嵐はにかりと口の端を持ち上げた。





警察に入って数年。
嵐は、所謂大きな事件を担当する1課に配属されたが、どんな複雑な事件に取り組んでも、双子の弟、天の誘拐事件の手がかりは欠片も掴めなかった。
年月が経てば経つほど、彼が無事である可能性が小さくなる。警察に入って幾何もしない間に失踪者の死亡認定が成立する7年も超えてしまった。嵐の焦りばかりが増していく。
そんな失望と焦燥ばかりの状況を打破するために、嵐は警察以外の方法も模索することにしたのだ。所謂、アングラな組織や情報屋裏社会と言われるもの。非合法な手段にまで手を伸ばすことにした。
勿論合法な手段警察にも保険をかけておくため、職を辞してはいない。折角得た花形職を疎かにしてこういうことに手を伸ばしているものだから、既に落ちこぼれという噂が立ち始めている。
もし、更にこの行為が見つかったら確実に何らかの処罰が下されるだろう。
だが、これで天が見つかるなら、構いはしない。
世間一般の正義なんて、天が見つからないならなんの価値もなかった。

だが、障害は次々と嵐の前に立ちはだかる。
裏社会に属するものは、当たりが少ない。
警察では得られなかったもの公的にもみ消された事件など、非合法で得られる情報も勿論あるが、そこに本来取引を守るべき法律は存在しない。
狡猾な噓で嵐を騙し、金を毟り取ろうとする悪質な情報屋がゴロゴロと存在する。不当な暴力は当たり前、下手をすれば裏組織の琴線を踏むことにすらなりかねない。

自分の身は自分で守るしかない。
真贋は自分の眼で見極めるしかない。

それが嵐が、この手段を取るようになって早々に得た学びだった。



「それにしても、よく魔璃亜のこと見つけたね!大変だったでしょ?」
「はは、ちょっとね~」

さて、今回の『情報屋』は如何なものか。
『人を不快にさせない無難な挨拶』を交えながら、嵐は目の前の女を観察した。

魔璃亜と名乗った少女はハキハキとした口調で嵐との会話に受け答えをしている。
きけば表の職業はアイドルらしい。そういうものに疎い嵐から見ても愛らしい顔立ちと声は、さぞかし人を惹きつけるだろう。
だが、なんといえばいいのか
良く言えばアイドルらしい。
悪く言えばとてもじゃないがまともな情報屋には見えなかった。
(いや、自分が取っている手段が既に「まとも」ではないけどね)
心のなかで、嵐は自嘲した。

兎に角、魔璃亜は情報屋として信頼を置くには若すぎる。
嵐を騙そうという輩とは思えないが、腕利きにはとてもじゃないが見えない。
面会にこぎつけるまでの過程は、ずいぶんと入り組んでいたぶん、期待したが
(ダメかもしれないな)
苦労して得た『協力者』を失望のカテゴリにいれるたび、なくならない箚さくれのようなザラザラとした気分がした。
こんな初対面の段階で失望と結論を出すには、早計過ぎると頭では分かっていた。
たとえハズレだとしても更なる人脈を見出すために、交流を持っておくことに越したことはない。頭では、分かっているのだ。
何から何まで上手く行かない捜査に、嵐の心は倦んでいた。

そんな思考が顔に出てしまったのだろうか。
不意に魔璃亜が口を開いた。

「佐保嵐24歳」

自分の本名に、瞳孔が開く。
顔をあげて魔璃亜を見れば、さっきまで浮かべていたはずの笑顔が消えて、不機嫌そうに頬杖をついている。
念には念をいれて、こっちで動くときは偽名を使っていたのに、どういうことだ。何故、知られている。
だが、嵐の驚きはそこで終わらなかった。

「捜査一課の刑事さんあ、三課に異動の噂が出てるんだっけ。まだ審議の段階みたいだけど」
「理由は度重なる職務放棄のため。遅刻153回、早退97回、無断欠勤17回わっ、よく首にならないね!」

もしかして、実は優秀なのかな?
つらつらと、自分でさえ把握していない情報を言い連ねた魔璃亜が愛らしい上目遣いで嵐を見据える。
かわいらしいアイドルの見た目とは裏腹に、すべてを見透かすような瞳に頭がぐらぐらした。
いいや、落ち着け。これならば、警察での情報を調べればわかることだ。依頼人の身元を確認するくらい、情報屋であれば当然のこと

「ねえ」
艶やかな唇が、また開いた。


「弟君探しは順調?」
「お前っ、どこでそれを

核心をつかれ、思わず嵐の全身に緊張が走った。椅子から立ち上がり、身を乗り出した。
大の男が激高した様子にも一向に動じず、魔璃亜はそんな嵐を見てにんまりと笑った。

「やっと魔璃亜の話聞く気になった?」
「何故知っている

嵐は初対面でこの本命である天の捜索を依頼したことはなかった。
まずは適当なもの、主に自分で受け持っている事件についての情報を依頼し、それを情報屋への試金石としていた。
だから、今日、この話をするつもりは一切なかったというのに。

天とこの女になんの関係がある?まさか
不穏な方向に思考が傾きかけたとき、魔璃亜があっけからんと言い放つ。

「調べたのよ。情報屋だから」
えっ?」

「魔璃亜の話聞く気ないのムカツクもん!」
ぷっくりとほほを膨らませ、全身で不満だと主張してくる魔璃亜。
まさか、今のはただの意趣返しだとでも言うつもりなのか。意趣返しのために、そこまで精度の高い情報を集め、洞察することができるのか。
バレていたのだ。自分が、魔璃亜への期待を捨てようとしていたことも、会話に身を入れてなかったことも。
羞恥が嵐の頬を染め上げる。自らの傲りに吐き気がした。
魔璃亜は、そんな嵐の動向を見極めるかのように、不敵な微笑をたたえてこちらを見据えている。
嵐は。


ごめん、君のことを見縊っていた」

立ち上がったまま、背筋を伸ばし、そのまま、深く深く頭を下げた。
率直な謝罪に、魔璃亜は意外そうにオッドアイの瞳を瞬いた。

「へえ、素直に謝るんだ」

意外。もっと煙に巻くかんじだと思ってたのに。
ある意味的を得ている感想を漏らす魔璃亜に、嵐は頭を下げたまま続けた。

「弟を天を探している。協力してほしい。」
「いいよ♪」

顔をあげた嵐に飛び込んできたのはとびっきりのアイドルの笑顔。

その笑顔をみても、もう彼女に対して不安だという気持ちは湧かなかった。
代わりに思った。女は、怒らせると、怖い。

「魔璃亜は天才で可愛いから、嵐君に協力してあげる」
「ああ、よろしく頼むよ。魔璃亜ちゃん」

こうして、今後長い付き合いになる落ちこぼれ刑事と情報屋は出会った。
心強い情報屋を得た嵐は、一課に自ら見切りをつけて三課を希望するようになるまで、転属を免れることとなる。
同時に、嵐が思っていた以上に気が強い魔璃亜に振り回される羽目にもなるのだが。