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ちあ
2024-05-25 21:13:08
3333文字
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快刀乱魔
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落ちこぼれ刑事のよもやま話 #1
快刀乱魔現行未通過×
HO3佐保嵐のSSSです。
嵐にはいつも後悔がついて回る。
※
「これも15年ぶりか
…
」
嵐は眼の前に置かれた2つのDSを見つめた。
傷だらけの白い機体と、あまり傷がついていない黒い機体。見た目が全然違う2つのゲーム機にはおそろいのシールが貼られていた。
「親が捨ててるかと思ったけど、見つかってよかった」
黒い機体は嵐のものだ。
先日、実家に弟の報告に戻った際に、本当に久しぶりに物置から掘り出したものだ。
元々ゲームが好きだった嵐は、親に買ってもらった最新のゲーム機をとても大切にしていたのだ。
そして、白い機体は
…
天のものだった。
嵐が遊ぶなら一緒に遊ぶと、お揃いで買ってもらったもの。外遊びが好きな天が、嵐が誘ったときくらいしか遊ばないから、結果的に綺麗だったゲーム機。
かつては真っ白で同じくらい綺麗だったはずの機体は、傷だらけで汚れていて、まだ動いたのが奇跡と思えるくらいだ。
「
……
」
嵐はすっかり大きくなった指で、そっとゲーム機を撫でた。
無数についた傷が、天がどんな生活を強いられていたのか、薄っすらと嵐に嫌なものを想像させる。
いや、想像ではない。知っていた。だって、自分はその目で醜悪な実験施設と天の資料を目にしたのだから。
こんなゲーム機がよく取り上げられなかったものだと不思議にも思うが、恐らく、『実験体B』の精神安定のために手元に残されたのではないだろうか。
何度目かも分からない、やり切れない想いが込み上げる。
「天
…
」
嵐は、DSのことなんてすっかり忘れていた。
弟が消えて以来、遊ぶ友達もいなかったし、そんな玩具で遊んでいる余裕なんて、嵐にはなかった。
だから、忘れていたのだ。
「皮肉だよなぁ。俺が遊ばなくなったら、今度は天が遊んでるんだもんな。」
ポケモンレベル100になるまでやるなんて、相当だよ。
そっとゲーム機を撫でながら、嵐は小さく呟く。
「
…
まだ動くかな?」
あのときは一瞬しか画面を見ることはできなかったけど、家にあった充電器を使ってみれば、その傷だらけの機械は光を取り戻した。
「折角だし、少し触るかな
…
」
もう持ち主のいない白いゲーム機を立ち上げながら嵐は何度目かも分からない過去に思いを馳せた。
※
天は、外見はそっくりな癖に、自分とは真逆の性格の弟。
嵐と違って、いつでも人に囲まれていて、明るくて、愛くるしい弟は嵐の憧れだった。
嵐の苦手だった外遊びに、めげずに誘い続けるくらいには仲良しだった。なんだかんだで弟の誘いを断れずに、遊んでしまうくらいは、嵐も天に甘かった。
天も家でじっとしているのが苦手なくせに、嵐がゲームに誘うとなんだかんだで乗ってきていた。
ちぐはぐだからこそ噛み合っていたような双子だった。
「俺はさ、お前が羨ましかったんだよ、天」
『お兄ちゃんなのに、嵐くんは恥ずかしがり屋さんね』
『弟を見習わなきゃね』
友達に、親戚に、親に、何度も言われた言葉。
どうして弟は大人に物怖じせずに話せるのだろう。どうして弟はすぐに友達ができるのだろう。嵐にはとてつもなく難しかったことが、何故か天には容易くできた。
―
…
逆だったら良かったのに。
―
…
天が兄だったらこんな事言われないのに。
あの頃、そんなことを何度も思ったか分からない。
何故か、双子の兄は嵐で、弟は天だった。
そして、あの日。
あの、嵐が密かに気にしていた些細な言葉を天に言われて、怒ってしまって、弟の手を摑めなかったあの日。
拐われたのも、天だった。
―
…
なんで、喧嘩なんかしてしまったんだろう。
―
…
なんで、皆に愛された天がいなくなってしまったんだろう。
―
…
なんで、俺じゃないんだ?
天がいなくなったあの日、恐怖と後悔と自己嫌悪に押しつぶされて、真っ白に変色した髪色。
弟を取り戻すために、かつての臆病な自分をかなぐり捨てて、必要な何もかもを身に着けた。
人から情報を得るための社交性、嘘をつくこと、絶やさない笑顔、そして表裏を問わない情報屋
…
。
警察で3課落ちと馬鹿にされようとどうでもよかった。巷で殺人事件が横行しようと、他人事だった。
嵐にとっては、天を取り戻すことだけが自分の正義だったのだ。
結果として。
天は嵐の腕に戻ってきた。
大量殺人犯、四肢漁りの主犯の一人として。変わり果てた容姿で。
身体を弄られ、他人の命を奪わなければ死んでしまう天はたくさんの命を奪い、己を見失っていた。
なんの運命の悪戯なのか、嵐と相対した天は、己の正気を取り戻し、嵐の刃の前に自ら飛び込んできた。
天は、自分の命を終わらせることを選んだのだ。
嵐に、弟の決意を止めることはできなかった。
なにも、できなかった。
嵐は、苦しんで死を選んだ天に生きててくれてたことを喜ぶことも、死なないでほしいと願うことも、何も言うことはできなかった
ただかつて、自分を苛む言葉の裏側で願っていた、
「天のお兄ちゃんらしくありたい」
そんな自分の些細な見栄を張って、精一杯弟の言葉に応えて、灰となって崩れ行く弟を抱きしめていた。
風が灰をすべてさらったあとに残ったのは、この、ゲーム機だけだった。
四肢漁りだった弟の死を人前で悲しむこともできなかった。
四肢漁り対策班の1人として同行した青年は、四肢漁りの被害者で、遺族だった。嵐が知らないだけで四肢漁りの被害者も、遺族も、もっともっと沢山いるのだろう。
嵐にできたのは、警察の端くれとして、加害者の身内としての精一杯の誠意と矜持を尽くすことだけだった。
四肢漁りが悪だということくらいとっくの昔にわかっていた。かつては弟には関係ないからと目をそらし、弟が疑われれば激昂し、散々身勝手に振る舞った結果が、これだ。
嵐は思う。
今更悲しいと叫ぶには、余りにもすべてが遅すぎたのだ。
ー
…
もっと早く四肢漁りを捕まえていれば、命を失わずに救えたのだろうか。
―
…
拐われたのが天じゃなくて
……
俺だったら
……
―
……
。
―
…
。
あの日から何度後悔を繰り返したのだろう。
そのすべてが益体のない堂々巡りということは痛いほどに身に沁みているのに。
嵐はいつも後悔ばかりだ。
※
「
…
あれ?」
ふと嵐は首を傾げた。
弟がゲーム内で組んでいた手持ちの編成になんとなく既視感があったのだ。だけど思い出せなくて、嵐は自分の黒い機体に手を伸ばした。
「
…
っ」
嵐は目を見開く。
並べてみると、既視感の理由は明確だった。
嵐が昔組んでいた編成と天がこの15年で組んでいたものがそっくりなのだ。
嵐が交換したポケモンだけが違っていた。
長い間触ってなかった嵐のデータの編成には、代わりにと天からもらったポケモンが組まれていた。もっとも、すぐに触らなくなった嵐のポケモンは進化さえしてなかったけれど。
「は
…
ははっ」
笑いがこみ上げてきた。
とり繕ってない、貼り付けてない笑みはどんな形をしているのか分からなくて、誰もみてないというのに思わず口元を覆ってしまった。
※
嵐は思い出す。
忘れようもない、真っ白の髪でひとつ結びの謎の男。
元のパーツは目しか残らなかったと弟は悲しんでいたがそんなことはないと嵐は思う。
自分の髪だってあの日からずっと真っ白だ。
ざんばらに伸ばした髪を適当に括っているのだって同じだ。
背丈も立場も何もかも変わってしまったというのに、どうしてこうも似ているのかと、今でも皮肉に思う。
目的のために玩具を忘れた兄と
玩具に縋るしかなかった弟。
過去を費やした嵐と
未来を託した天。
嵐と天はどうしようもなく真逆の双子だ。
歪にそっくりで、真逆でちぐはぐで、お互いがかけがえのない存在。
片割れが消えてしまった喪失は大きくて。
悲しみは深くて、後悔を繰り返すのは苦しい。
これが弟を忘れさせずにいてくれるのなら。
この痛みは消えないままでいいけれど。
でも。
「俺は、天の兄ちゃんだから
…
」
せめてそこだけは。
天の自慢の兄でいれるように。
ここだけはもう後悔したくないから。
「がんばるよ、天」
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