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onda(おんだ)
2024-05-25 07:46:36
8221文字
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ソンエリ
※pixivに再録済み
エリジウムがポテトチップスの最後の一枚に手を伸ばした時、隣から「あ」と、間の抜けた声が上がった。
「なに、食べたかった? 食べる?」
「いや
……
薬品棚の鍵を閉め忘れたな、と」
そう言って、ソーンズはソファからすっくと立ち上がった。
「え、え、今行くの?」
「ああ」
「もうこんな時間じゃん。明日も朝からラボに行くよね?」
「万が一にでもバレたら大変なことになるからな」
普段から、もっと大変なことをやらかしているような気がするけれど。やらかしている上に、そもそもの安全管理まで怠っていると知られたら、実験室への出入りまで止められかねないといったところか。それは彼にとって重大な事態だ。
ちょうどスピーカーから重たいストリングスの音楽が流れてくる。プロジェクターに流しっぱなしのサスペンス映画のBGMである。
「いいとこなのに
……
止めとこっか?」
「いい。お前も飽きてきてるだろ」
すぐ戻ってくると言い残して、ソーンズは部屋を出て行った。
(
……
暇になっちゃった)
ソーンズの言う通り、エリジウムはとっくに映画に飽きていた。ハラハラドキドキさせたいがための演出は妙に冗長に感じられて肌に合わず、なんとなくオチも読めてしまったので、後は予想が合っているかどうかの答え合わせだけできればいいやと思いながらダラダラ眺めていただけ。ソーンズの方も飽きているなら、観るのをやめたってよかった。
しかし手持ち無沙汰になってしまった今、わざわざ停止しようと思うまででもない。
映画から醸し出される深刻な雰囲気の中、鼻歌交じりに冷蔵庫を開ける。取り出したビールのボトルを片手に棚を漁ったものの、スナック菓子のストックは切れていた。
「ついでに何かつまめるもの買ってきてもらおうかな」
チャットを送ろうとして、ソーンズの携帯端末が机の上にあることに気づいた。忘れていったのか、すぐ戻ってくるからと置いていったのか。
「もう~」
手を伸ばして、つまみ上げる。
端末の液晶は点いたままだった。無遠慮に画面をスクロールすると、ひたすら文字、文字、たまに数字のまとめられた図表が現れる。実験論文か何かだろうか。
「本当に飽きてるじゃんね」
内容はさっぱり分からないが、ソーンズは映画そっちのけで論文を読みながら薬品のことを思い浮かべて、連想的に自らの不始末に気づいたのかもしれない。
「
……
なにか面白いものないかなぁ」
ソファの上にごろりと寝そべる。
開かれていたドキュメントはエリジウムにとっては映画以上に関心のないものだったので、端末の表示をホーム画面へと切り替えた。
覗き見ることに後ろめたさがない訳ではなかった。けれど、どうせこの男のことだから、大したものが出てくるとも思えない。何より油断して置いていった方が悪いのだ。
案の定、端末のホーム画面はこざっぱりとしていた。無駄なアプリケーションはインストールされておらず、持ち主が最低限の用途でしか扱っていないことが窺える。
(まあ見るとしたら、写真かな?)
とりあえず悪戯として一枚、セルフィーを撮っておく。それから保存されている画像の一覧を開いた。
……
まあ、ある程度予想はしていたけれど、メモ代わりに撮られたような写真ばかりで、たまに写真に指先が写り込んでしまっているのが微笑ましいくらいだ。
(あ、これ見せてもらったことあるやつ)
外勤先で撮影された変な看板やオブジェ。他には「土産はどれがいいか」と尋ねるために送られてきた写真なんかが、まだ消されずに残っている。
どの画像も撮りっぱなしなのだとすると、構図を凝るために何枚か撮ってみるだとか、そんなことも一切しないのだろう。ソーンズらしい。
では、「ごみ箱」には何か目ぼしいものはあるだろうか
――
いや、ないだろうな。これまで見てきたのと変わらない、第三者には「要る・要らない」の区別のつかないような、代わり映えのない写真が詰まっているに違いない。
(
……
お?)
期待はできないけれど、一応見ておくか。そんな軽い気持ちで画像フォルダの一覧を表示させると、気になるものを発見してしまった。少し、胸がどきりとした。気にならない方がおかしい。Elysium
――
自分のコードネームが命名されたフォルダが、ぽつんと表示されている。
「えぇ~
……
?」
相手が健気な恋人なら、『自分が写っている写真でもまとめてあるのかな』と思うのが自然だろうが、ソーンズにカメラを向けられた記憶など殆どない。エリジウムからしばしば写真を送りつけることはあるが、それを保存していてくれたりするのだろうか?
思わず頬が弛んでくるのを、目を細めて押さえつける。
いや、まだだ。このフォルダが、好奇心を抑えられず携帯端末を覗き見たエリジウムに対する「仕掛け」である可能性がある。なんたって、これ見よがしに端末を置き忘れていっているのだから。
薄目を開けながら、フォルダをタップする。
「
……
ん?」
が、エリジウムを驚かせるような画像は表示されず、代わりにパスコードの要求画面が表れた。
エリジウムは小首を傾げる。
(パスがかかっているということはつまり
……
他人に見られたくない画像ってこと?)
これはもしかして、本当に「可愛いこと」が行われていたりして? あるいは
――
いかがわしい写真とか、動画とか。
正直、わざわざパスコードまでかけて保存しているメディアなんて、公的良俗に反しているようなブツだとしか思えない。ソーンズってば、意外にむっつりさんだったりする?
(でもこれは、どう見ても僕の名前なんだよな
……
)
端末を紛失した時に備えた偽装だとしても、心を許した相棒が人の名前を付けたフォルダにポルノの類を保存する人間だとは考えたくない。
気になる。とても気になるので中身を検めたいが、パスコードが閲覧を制限している。
「うーん」
親指で「0000」と連打してみる。閲覧パスをかけるだけかけて、数字は適当に設定しているパターンに賭ける。
「だめか」
流石に弾かれた。でも、方針は悪くないはず。本当に重要なデータでもない限り、彼の頭の記憶領域を食うような凝った設定にはしていないだろう。
ゾロ目を一通り試してから、ソーンズがいつも使っている実験室の部屋番号、入職した年、ソーンズの誕生日、と彼にまつわる数字で思いつくものを片っ端から打ち込んでいく。
(誕生日
……
)
まさかね。そう思いつつも、微かな期待が胸に灯った。
0、5、0
……
一文字ずつ、ゆっくりと液晶に指を滑らせる。とくとくと自分の内側から鳴る音ばかりが耳に響く。
最後の「8」を打ち込んだ瞬間、画面が切り替わった。
「え、うそ」
本当に開いた。
「えっ」
驚き、慌てながらも「ソーンズが『僕の誕生日』をパスコードに使っている」という事実に胸をときめかせる時間は、エリジウムには与えられなかった。
思わず息を呑む。
画面いっぱいに並んだサムネイルの一覧が、薄白い人肌の色で埋め尽くされていた。
「うわうわうわ」
横から突然バン、と大きな音が鳴って、エリジウムは端末を取り落とした。いよいよクライマックスを迎えた映画の効果音だとは、すぐに気づかなかった。
いそいそとソファに座り直す。濃紺に染まった部屋の中で、凡俗なサスペンスムービーの投影されている壁と、ソファに転がされた端末の液晶画面だけが煌々と照っている。
(えっと
…………
本当にエッチなやつだった?)
おっかなびっくり真相を確かめるために、エリジウムはソファに落下している携帯端末に手を伸ばした。上を向いて、一旦心臓を落ち着ける。
パスを解除した画面を見たのは一瞬であったが、目に色が焼きついてしまっていた。ポルノグラフィーにしたって肌色が過ぎる。
変なフェチの画像とか、ハードな性癖の画像とかだったりしたらどうしよう。見てしまった後、素知らぬ振りをし続けられるかどうか不安だ。
(えーい! 僕の名前を勝手に使ってるんだから、僕が勝手に見たっていいよね)
限界まで目を細めて、拾い上げた端末に視線を落とす。
薄目で見る画面は、スクロールしてもスクロールしても色味が変わらない。
「
…………
」
意を決して、一枚の写真をタップした。
ぱっと表示された内容は、恐れていたようなものではなかった。
ベッドに裸で寝そべっている男性の身体が、首元から腰まで一枚にきっちり収まるように撮られている。被写体の顔は写っていないが
――
。
(
……
これ、『僕』だな?)
サムネイルでは分からなかったが、首の周り散っている髪の毛の色も、右半身の「デコレーション」も、とてもよく見慣れたものだ。
画面を左にスワイプして、写真を順繰りに見ていく。腰部のアップ。肩のアップ。手首を写した写真。そしてまた、胴体の全体写真が現れる。
「すごい数ある
……
」
サムネイル一覧の画面に戻って確認すると、どうやらかなりの枚数の画像が保存されている。異様な写真はどれも同じ画角で、しかしそれぞれ微妙な差異がある。わざわざ服を捲り上げて撮影しているものもあった。
「
…………
」
――
なるほど、これは「エリジウムの観察ファイル」という訳だ。
小さな機械の中に堆積したデータの意味に気づいて、喉元が詰まった。冷たいものが背筋を下りる。
努めて冷静に、最古の画像に遡って撮影された年月日を見る。初めて関係を持った頃から大して間を置かずに、この不定期な「記録」を始めたようだ。
「
…………
」
体の奥底をじわじわと浸食される感覚が湧き起こる。怒り? 悲しみ? どれも近いようで、少しずれている。
胸に広がる感情に戸惑っていると、入口のドアの開く音が響いた。
「ただいま」
ソーンズが帰ってきた。けれども、すぐに頭を上げることはできなかった。
「
……
ソーンズ」
相手のブーツのつま先が視界に入ったところで、エリジウムは端末の画面を相手に差し向けた。
「これ、どういうこと?」
「
……
は?」
照明を落とした室内で、液晶が白く光る。ソーンズはまず差し出された画面を見つめて、そこに映っているものを確認して、漸くその端末が自分の物であることに気づいたようだった。
彼の眉間の皺が弛んだ瞬間に腕を引くことで、端末を取り返そうとする動きの回避に成功する。
「返せ」
「説明してくれたらすぐに返すよ!」
立ち上がって腕を大きく逸らす。こうすればソーンズの手は届かない。すると、顔面を鷲掴みされた。
「ちょっと!」
「返せ」
相手の頭を掴み返して、距離を取り直す。
「じたばたしないで! 写真、消すよ?」
写真を消す。そう言った途端に、ソーンズの動きが止まった。
腕に掴み掛かってきていた手が解かれる。
(
……
あれ?)
それから、ソーンズはどかりとソファに座り込んでしまった。
「
……
消してもいい」
それは予想していなかった反応だった。膝の上に肘をついて、床の一点を見つめたまま黙り込んでいる様子に呆然としてしまう。
「なーに、開き直っちゃった?」
「
……
」
少し迷って、エリジウムはソーンズの右隣に腰掛け直した。視線が追いかけてくる。何も聞き入れないという構えではないようだ。
「怒ってる訳じゃないよ」
言葉に出してみて、本当に「自分が怒っているのではないのだな」と実感した。裸なんてソーンズ相手には散々見せているものだし、他人に見せびらかすようなこともしていないだろう。
(どうしよっかなぁ)
いやあ、僕ってばとっても愛されているんだね。そんな風に適当に茶化して、端末を返して、お終いということにしてみる? ごく自然に振る舞える自信はあるが、胸の裏にじっとりとこびり付いた感覚は、果たして一時間やそこらで消えてくれるのだろうか。
「
……
訊いてもいい?」
「答えられることなら」
返事をする声は、平坦だった。俯き加減の姿勢のせいで表情はよく見えない。
「
……
これ、全部僕の写真だよね?」
「ああ」
「
……
『石』を撮ってるんだよね?」
「
……
ああ」
なんのために、という問い掛けはできなかった。
「
……
僕って、信用されてない?」
「
…………
」
投影機の光がソーンズの丸い瞳に映って、青白く揺れている。
「
……
あの、君もご存知の通りだと思うけどさ。僕らの健康状態ってウェアラブルで毎日毎日とーっても丁寧に記録されてるし、おまけに僕は君より頻繁に精密検査を受けてるからね。医療部の検査技術を疑ってる訳じゃないんでしょう?」
ソーンズは浅く頷いた。
「君は、よくない兆候があった時に僕が隠し事をするんじゃないかって思ってるんだろうけど。しないよ? ちゃんと言うからね」
エリジウムは何故だか、自分の方が言い訳をしている気分に呑まれていた。思考より先に舌が回っている自覚はあるが、止まらない。
「それに、そもそも見た目に表れるくらい鉱石病が進行していたら、きっと症状の方にも影響が出てきているだろうから
――
」
「違う」
白熱しかかった弁明を、凛と響く声がぴしゃりと遮る。空間に亀裂が入ったかのようだった。
ソーンズは手のひらで顔を覆い、項垂れる。息を吸って、それから吐いて。再び顔を上げた。
「
……
悪かった」
詫びる言葉の語尾が少し震えている。そこでやっと気がついた
――
ソーンズの方も、この状況に動揺している。
当たり前のことだ。多少不用心だったとは言え、鍵をかけて仕舞い込んでいたものが突然暴かれたのだ。それも、被写体本人の手によって。
「
……
こっちこそ、勝手に見てごめん」
「お前は悪くない」
映画がついにエンドロールに差し掛かって、室内が一段暗くなった。結局、あの男の人は主人公の生き別れの父親で合っていたのかなって、そんなことはもうどうでもいい。
「僕も、謝ってほしい訳じゃないんだ。ただ
……
少しモヤモヤしてて。君に話を聞けたら気分が晴れるかなって思っただけ。もちろん話したくないなら、話さなくてもいいし」
手の甲で、ソーンズの太腿を軽く叩く。
「ねえ」
こっち向いてよと、声を掛けるよりも先にソーンズが振り向いてくれた。
光を集めるために拡がった瞳が、エリジウムを捉える。
薄い唇が開いた。
「お前に変わりがないか確かめているというよりも、変わりがないことを確かめていたんだと
……
思う」
「
……
んん?」
歯切れの悪い言い方も、持って回ったような言い回しも珍しい。
「
……
病変の進行の発見を期待していた訳じゃない。お前の言う通り、目視だけで鉱石病患者の異常を検知しようとするなんて非科学的だ」
エリジウムが相槌を打つと、ソーンズは視線を伏せた。
「だから、特に異常がないことを確かめて、写真に収めて、安堵
……
したかったんだと思う。それが、いつの間にか習慣のようになっていた。自分で意識したことはなかったが
……
」
ソーンズが唇を舐める。
(
……
ああ)
不安。画像フォルダを見た時に覚えた言い知れぬ感覚は、写真に表れたソーンズの不安を写し取っていたのだ。きっと。
胸の内側で澱んでいた気持ちが正体を得て、瘡蓋が剥がれるように腑に落ちる。
「そっかぁ
……
」
当のソーンズ本人は、不安の感情が漏れ伝わらないように、不器用にも言葉を選んでいる。なんということだろうか。
苛む程度は計り知れないけれど、感情を向ける対象のエリジウムこそが病の当事者であることを気遣って、押し隠そうとしているのかもしれない。そう考えると
――
不謹慎ながら、心が温まってしまった。
「なにをニヤニヤしているんだ?」
ソーンズは不審げに眉根を寄せる。顔に出てしまっていたらしい。
「
……
それってさあ、非合理的ってやつじゃないの?」
「そうかもな」
「そうだよ」
怪訝そうな視線を躱しながら、エリジウムは微笑む。
「
……
よし! 電気点けよ」
リモコンで調光をいじると、一気に部屋が明るさを取り戻した。視界がちかちか明滅する。
ついでにソーンズの前髪をわさわさと掻き乱す。
「なんだ」
「なんでもなーい」
エリジウムはソファに座り直して足を組む。隣から探るような視線を感じながら、脇に遣っていた端末を手に取り直した。延々と変わり映えのない画面に、最早もの恐ろしさは感じなかった。
「いやあ、改めて見ても不気味だよこれは」
「そうか?」
「後になって『あの頃のアイツは元気だったな』ってコレ見るの、キツくない?」
「そういう使い方はしない」
「えぇ、じゃあどういう使い方するの?」
わざとらしく表情を覗き込もうとするのを、鬱陶しそうに押し退けられる。ただ、いつも程には力は籠もっていない。
「見返したりはしていないし、お前が嫌ならバックアップ含めて削除して構わない」
「バックアップまであるのぉ!?」
「よく壊れるからな」
「壊すの間違いじゃない?」
けたけたと笑い声を上げると、ソーンズはばつが悪そうに頬を掻いた。
「もういいか」
「んー
……
」
端末の画面を漫然とスクロールする内に、明らかに他と色味の違うサムネイルが目に留まった。
「お?」
行き過ぎた画面を戻す。紛れ込んでいたそれは、エリジウムの寝顔を写したものだった。
(へぇ
……
?)
お世辞にも良い写りとは言えない。よく見ると口もうっすら開いているし。どうせ撮るなら、もっと素材の良さを活かして撮ってほしいものだ。
それでも深い愛情を感じずにはいられない。その写真が「思わず撮ってしまった一枚」であることは、その他数百枚の画像が証明している。
(いいもの見られちゃった)
思わず唇に笑みが浮かぶ。
「なんなんだ?」
「いやぁ、ふふ」
「貸せ」
「やだ」
ソーンズの指が伸びてきて、届くすんでのところで下ろされた。
「どうしたの?」
相手が黙り込んでしまったので、じっと見つめ合う格好になる。真っ直ぐな視線は、エリジウムの思考を読み取ろうとしているのだろうか。
問い詰めてきたかと思えば、一転して機嫌が良さそうに振る舞っているのだ。戸惑わせてしまっても無理はない。
代わりにエリジウムの方から、ソーンズの手を捕まえた。指を絡めてにぎにぎと握っても、されるがままになっているのが、ちょっと面白い。
「写真、別にこのままでいいよ。続ける続けないも、どうぞご自由に」
ソーンズはきょとんとした表情で、ぱちぱち瞬きを繰り返した。それから『そうか』と一言だけ、小さく零した。
恐らく自分が思っているよりも、そしてソーンズ自身が思っているよりも、これは彼にとって大事なものなのだと思う。
「健在な姿」の蓄積が、彼の憂いや焦りを慰めてくれるならそれでいい。「健在だった頃の姿」に変わってしまった時、苦しくなったりしないだろうかというのは心配だけれども、それはエリジウムが恐れるべきことではない。ソーンズが病苦を引き受けられないのと同じように。
真に相手の身になることなどできないのだから、「自分がどうしてあげたいか」に専念するべきなのだ。
「でもさあ、元気な僕を撮っておきたいなら普通に写真撮ろうよ、普通に」
「起きてたらうるさいだろ」
「あと、僕がカッコよく写る角度も勉強してもらわないとなぁ」
握っている手を引っ張り上げて、懐に引き寄せた。油断をしていた身体は呆気なく倒れ込んでくる。
「ぶ」
片腕をソーンズの肩に回して、もう片方の手で端末のインカメラを起動する。
「笑って~」
カシャリと小さな撮影音が鳴る。
「はい、無愛想」
「
………
」
画面には、仏頂面のソーンズと正反対の表情で親指を立てるエリジウムがぎゅうぎゅうに収まっている。照明の当たる角度が悪くて顔に影が差してしまっているが、まあいい。
「僕の方でも撮ろっかな」
ごそごそとポケットを漁る間も、ソーンズは腕の中で抵抗せずに大人しくしていた。すっかり委ね切られた身体が重くて温い。
呆れて物も言えないって感じなのかなと思っていたら、自分の方の端末で撮影した写真を見て、笑ってしまった。
「変な顔しないで! もう一枚撮らせてよ」
おわり
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