夜明 奈央
2024-05-24 19:35:41
3463文字
Public 中太SS
 

中太 (没ネタ供養)セフレ中太の初夜とキスの話

2回目のキスの没ネタをキスの日仕様にリメイクしようとしたけど気に入らなくてぶん投げたタイトル通りの話

 中也は太宰と2人、大量に溜め込んでしまった書類仕事を片付けていた。夕方から始めたはずがなかなか終わらず、深夜といえる時間帯に差し掛かっていた。
 いくら夜が本分のマフィアとはいえ、何もなければ昼の方が人通りは多い。可能なら朝起きて夜寝る生活をしたいのが生物としての性だ。本部ビル内が無人になることはないから完全な2人きりというわけではないはずだが、太宰の執務室の周りには人の気配は感じられなかった。
「君ってさ、僕とセックスできる?」
「は?」
 またアホなことを言い出したと思った。今日は書類仕事に缶詰になっているから、「今までで一番良かった毒は?」とか「君の理想の死に方は?」といった莫迦莫迦しい雑談が時折繰り広げられていた。どうせ中也の返事に興味などないのだろうただの現実逃避だ。
「最近忙しくてさ、女の子誘うのめんどくさくって、溜まってるんだよね」
 太宰は握っていた万年筆を投げ出し、背凭れに深く寄りかかっていた。もういい加減集中力が限界なのは中也も同じであったので、休憩がてらしばしその雑談に付き合うことにする。
「風俗でも行けば?」
「あんま好きじゃないんだよね」
「あっそ」
 雑談なのだから、会話が成立しさえすれば中也の返事はなんでもいいはずだった。けれど今回に限ってはそうではなかったらしい。
「それで、僕相手に勃ちそう? 男の身体が気になるなら目隠ししてくれてもいいけど」
「なんでそんな乗り気なんだよ。手前は俺のこと嫌いなんじゃねぇのかよ」
「それとセックスの相手は別でしょ。悔しいけど君とは相性良さそうな気がするし、そうじゃなくても身近にいる方が誘いやすいし」
「手前が声掛けりゃ喜んで抱かれる部下がいくらでもいるだろうが」
 言いながら、太宰と身体の関係があると噂されたことのある顔が何人か脳裏に浮かんだ。太宰の倫理観はぶっ壊れている。と、少なくとも中也は思っている。姐さんに声を掛けるなんて命知らずな真似はしていないようなので相手は選んでいるのだろうが、部下だとか上司だとかは一切気にしていないようだった。
 なら、相棒に手を出すのだって太宰にとっては大したことではないのだろう。中也を誘ってもいい相手だと認識しているのは複雑な気分になるが、実際それで太宰を軽蔑するような潔癖な人間でないのは確かだった。
 太宰の言い分を想像してみる。太宰は俺に、所謂セフレとやらになれと要求しているのだろう。それが身近な人物であれば、都合はいいのかもしれない。
 太宰のように遊び歩いてはいないが、中也だって健全な思春期の男だ。定期的に自慰ぐらいするし、人並みに風俗を利用した経験だってある。裏社会に身を置いているぐらいだ。太宰程ではないが、「セックスは好きな人とだけ」なんていう前時代的な価値観も持ち合わせていない。
 ムカつくことに、太宰は顔がいい。だから勃つか勃たないかという話なら、たぶん勃つだろうと思う。けれど、それと掘られるのはやっぱり別問題だろう。男同士でヤるような趣味はないから、当然中也に後ろの経験なんてものはない。噂程度にしか知らないが、ハジメテは大層痛いらしい。首領の命令だとか生きるか死ぬかの瀬戸際だとかなら話は別だが、太宰のためにそれを我慢しろというのは、いくら金を積まれたって御免被りたい。
「めちゃくちゃに抱かれたい時だってあるんだよ」
 太宰がため息のように吐き出した。狙っているのかいないのか、中也を誘うような流し目を向けられる。女と遊び歩いている印象しかなかったから、意外でしかない。
「手前、そんな趣味あったのかよ」
「だから聞いてるじゃん。『勃ちそう?』って」
 太宰に掘られるのは絶対に嫌だった。けれど掘る方ならどうだろうか。太宰が自分に組み敷かれて身も世もなく喘ぐ様は絶景だろう。いつも澄ましたその顔を乱してやるのは絶対に気分が良い。めちゃくちゃに抱かれたいということは、女相手の時のように遠慮する必要もないのだろう。
 もしかして、最高の申し出なのでは?
「よし、乗った!」
「ふふ、そう来なくっちゃ!」

◇ ◇ ◇

 そうして太宰とセックスをすることになった。ほとんど終わりかけていた書類仕事を超特急で終わらせ、中也の部屋に移動する。
 シャワーを終えた太宰は、中也の用意したバスローブを素肌に纏っているだけだった。頬がほんのりと上気して、目尻を緩めるような細やかな微笑みが艶やかだった。無意識にごくりと生唾を飲み込む。可愛い顔をしているとは思っていたが、はっきりと性を意識したのは初めてだった。
 ベッドに座った太宰が、見慣れた相棒とは全くの別人のように感じる。ドキドキと妙にうるさい心臓の音には気づかない振りをして、太宰の唇に自分の唇を重ねた。思ったより随分と柔らかな感触と、甘い味がした。もっと深く味わいたくて薄く開いた唇に舌を這わせると、ぐいと肩を押された。いいところだったのに、と思いながら仕方なく唇を離すと、太宰にじろりと睨まれた。如何にも面倒だとでも言いたげな顔をしている。
「キスはいらないでしょ」
「なんで?」
「なんでって、恋人同士じゃないんだからさ」
「そんなもんか?」
「普通そうでしょ」
 普通、と言われても、中也にはさっぱりわからなかった。むしろ普通はキスをするものだと思っていた。中也の今までのセックスの相手は、恋人か風俗嬢だ。その誰からもキスに文句を言われたことなどなかったし、当たり前のようにキスから始まってキスで終わっていた。
 かといって、何がなんでもキスがしたいという程のこだわりがあるわけでもない。なんとなくそういうもんだろう、程度の認識だ。相手の意向を無視してまでするものでもない。セフレという存在がいた経験もないし、大人しく太宰の言うことに従っていた方が無難だろう。しかし、そうなると次に何をすればいいのだろうか。
 中也の疑問を見透かしたように、太宰は緩く引っ掛けただけだったバスローブを肌蹴させた。
「準備してきたから、すぐ挿入れるよ」

 そこから先は無我夢中で、よく覚えていない。

 衝動の赴くままに発散しまくった所為で、このまま寝てしまいたい気分だった。けれどそうすると翌朝悲惨な目に遭うことは容易に想像がつく。風呂に入るまではいかなくとも、せめて身体を拭いてシーツを替える程度のことはしておきたい。わかっているけれどやっぱりどうにも動く気にはなれなくて、ぼんやりと太宰の様子を眺める。
 太宰の言う通り、相性は良かったのだろうと思う。気遣う余裕もなく腰を振りたくった気がするのだが、太宰に辛そうな様子は見受けられない。どこかすっきりとした様子で、事後特有の心地良い倦怠感に浸っているようだった。
 けれど、キスのないセックスはなんだか物足りなかった。最中に何度その唇に貪りつきたいと思ったかわからない。太宰とのセックスは悪くなかったが、これからこういうことが続くのだろうかと思うと、気が重い。
 乱れた髪を直してやると、気持ちがいいのか満足そうに口元を緩めた。それがどうにも可愛らしくて、キスがしたくて堪らない衝動に駆られる。その衝動をどうにか押し込めようとして、どうしてわざわざ太宰の要望を律儀に聞いているのかと気がついた。相手は嫌がらせと称して散々中也の嫌がることばかりしてくる太宰だ。
 太宰は、中也の手の感触を楽しむように目を閉じている。その唇に小さく唇を落とした。太宰の嫌がることをするのは構わないが、先程のように嫌がられると多少気分が削がれる。唇を離すと、先程までぼんやりと虚空を見つめていた太宰の瞳が名残惜しそうにこちらを向いた。すぐにさっと視線を逸らされてしまったが、あれは絶対に見間違いなどではなかった。
 これは、もしや。と、思っている間にすぐに太宰の視線はこちらへと戻ってきた。
「やっぱりキスして」
「いらないんじゃなかったのかよ」
……嫌ならいいけど」
 遠慮がちだが不貞腐れたような声は「いい」なんて全く思っていないのが相棒でなくともわかる。どんな心境の変化かわからないが、どうやらキスを気に入ったらしい。中也としては願ったり叶ったりであるので、遠慮なく太宰の唇に吸い付く。
 やっぱりどこか甘くて、不思議な気持ちになる。今度こそしっかり味わおうと舌を伸ばすと、先程とは違ってすんなりと口内に受け入れられた。太宰の口の中は熱くて、病みつきになりそうな味がした。


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