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kaede
2024-05-24 13:31:57
2167文字
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キスの日のはなし②
こっちは一彩くん愛され燐一・ニキひいのやつです。
一瞬だけ品のない描写がある。
「キスの日?」
言われたままを僕が返すと。
「そう」
「そうっす」
両隣で、肯定の返事が弾んだ。
兄さんと椎名さんを順番に見る。二人の間に入れてもらえるのは嬉しいけれど、こういう時は、困ってしまう。どこを見て話せばいいのか迷ってしまうから。二人とも同時に見られたらいいのに。
でも、僕のベッドの端に並んで座っている限り、それは物理的に不可能だ。だから僕は、二人を交互に見ることにして話を続けた。
「
……
どういった語呂合わせなのかな? たとえば猫の日は『にゃあにゃあにゃあ』だとわかるけれど
……
というか教わったけど、キスの日はどういう」
「弟くん、今のもう一回言って」
「え? えっと
……
にゃあ?」
今の、というのがどこを指すのか、いまひとつ確信はなかったけれど。幸い、猫の日に猫の鳴き真似をした僕にとても喜んでいた兄さんと椎名さんのことが記憶に残っていたので、これだろうか、と見当をつけて言うと、兄さんはとても満足そうに笑った。
「かわいいっすねぇ
……
」
振り向くと、椎名さんも嬉しそうに笑っていて、形態模写にもなっていない鳴き声でいいんだろうか、とは思いつつも、二人が喜んでくれると僕もとても嬉しくなる。あの日は二人にせがまれて猫耳と、あと猫のしっぽをお尻に挿
「で、キスの日だからよォ、今日は弟くんとキスをしまァす」
僕の思考を遮るほど明るい声で、兄さんが言う。理由はわからないけれど、ご機嫌みたいだ。椎名さんも、特に何かを声高に言う様子はないけれど、にこにこ笑っているので兄さんの宣言に概ね同意なのだろう。
僕としても、まったく異論はない。のだけれど。
「
……
キスの日でなくても、ほぼ毎日してるよね」
疑問はそれなりにある。こだわるつもりはないけれど。
「昨日だってたくさんしたし」
「あ、弟さん」
「あァ〜? お兄ちゃん昨日は泊まりの仕事でいなかったンですけどォ〜?」
椎名さんの言葉を奪うように、兄さんの声がどさりと被さる。
「そのお兄ちゃんとどうやってキスするんですかァ〜?」
「ウム。兄さんはいなかったから、椎名さんとたくさんキスし」
「わーーーーーー弟さんお腹空きません!? ちゃちゃっと何かつくりましょうかね!!」
急に立ち上がった椎名さんが、そんなことを言う。どんな時でも僕を気遣ってくれる、優しい人だ。
「ありがとう。でも今はまだそんなに空いてはいないから。というか僕よりも、椎名さんは大丈夫かな?」
「ニ〜キ〜きゅ〜ん?」
兄さんに愛らしく呼ばれて、椎名さんは結局また、僕の隣に座った。というより、僕にすがるようにくっつく。
だから。
「いいじゃないすか! 燐音くんだって僕がいない時は弟さんを独り占めしてるくせに!」
「俺っちはお兄ちゃんだからいいンだよ」
「横暴っす!」
「兄さん!」
だから馬鹿な僕でもさすがに、気づく。
椎名さんが責められていることに。
兄さんがどうして、怒っているのかに。
「兄さんを仲間外れにしたつもりはないんだ。でも、僕、どうしてもキスしてほしくて
……
椎名さんは僕のお願いを聞いてくれただけで、悪いのは僕なんだ。ごめんなさい!」
兄さんは一瞬目を見開いたあと、どう読み取ればいいのか僕には難しい顔をして黙って僕をじっと見て、唐突にぼそりと呟いた。
「お兄ちゃんとは?」
「え?」
「お兄ちゃんとはキスしたくねェのかよ」
「え
……
」
「ニキとはしたくて、俺とはしたくねェのか?」
どうして?
「
……
どうしてそんなこと言うの?」
「だってよ」
「さっき、今日はキスするって言ってたよね? もうしてくれないのかな
……
」
昨日はできなかった分、今日はたくさん、兄さんにもキスしてもらえると思ったのに。
兄さんがまた、目を見開く。でもそのあとの反応は、さっきとはまるで正反対だった。
「お、おう! だよなァ!」
「
……
ウム!」
兄さんはさっきまでとは打って変わって、太陽みたいにぴかぴか笑っていたから、ほっとする。
よかった。
兄さんが元気になって。
それと、キスする気がなくなったのではなくて。
「じゃあ、お兄ちゃんにも『キスして』って言って」
「大人気ない
……
」
「ニキてめェは黙ってろ」
兄さんはいつも、僕が言うより先に僕がほしいものをくれるから、言う機会があまりなかっただけなんだけれど。
「
……
キスして、兄さん」
だから、あまり言い慣れないからか、少し緊張気味な声になってしまう。
笑われるかと思ったけれど、兄さんは僕の予想とは違って、満足そうに、僕よりも小さな子供みたいにかわいらしく笑って、でも、僕に初めて教えてくれた時よりもずっと深い、僕を内側からとろけさせしまう大人のキスをしてくれた。
そんなわけで結局、どうして今日がキスの日なのかはわからずじまいだけれど。
「僕もしていいっすか?」
「てめェはお預けだっつの」
「燐音くんには聞いてないっす。ねー? 一彩くん」
「っあ」
「オイ、どこにキスしてんだ」
「ん
……
もっといっぱい、してほしいよ
……
」
でも、それはまたあとで、調べればいいことだ。
二人にたくさん愛してもらったあとで、それをちゃんと覚えていられるかの自信はあまり、ないけれど。
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