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ぎんちき
2024-05-23 21:30:26
4103文字
Public
ブン木手
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2つでひとつ
アイスをはんぶんこして食べるブン木手が書きたかったので大会期間中の時間軸で考えました。
・ご都合主義
・付き合ってない&明確な恋愛感情を互いに持っていないくらいの距離感
・オチがない
です。
オチについてはFBの記述と若干の相違があります……。
自身の頬を流れ落ちる汗をタオルで拭いながら、ふと思い出したように丸井が小さく言った。
「あれ、食いてぇな〜
……
」
それはあくまで彼のひとりごとであり、自分に向けられたものではない
……
そう理解しつつもこのまま黙っているのも何だか変ではないか。そう思った木手が問う。
「何をですか?」
「あれだよ、アレ。あの真ん中で折れるタイプのアイス」
丸井のことを見つめつつ、木手は何かを考えているように黙った。そうとは気がつかないまま、新たなガムを口に含もうと封を開けながら丸井は続ける。
「俺んちだと夏は絶対に常備されてるからさ、
オーストラリア
ここ
って今が夏な訳じゃん? だからか無性に食いたくなるときがあんだよな〜!
……
あ。でもキテレツってアレのイメージじゃねぇな。アイス食うならカップの方が好きそうだし」
「何ですかその勝手なイメージは
……
。その手のも、時々なら食べますよ」
木手の視線の先でぷっくりと大きな風船が膨らむ。それはすぐに萎み、代わりに丸井の言葉が続いた。
「まさか、
……
ひとりで一本!?」
「妹と、ですよ
……
丸井くんじゃないんですから」
「な、! 俺だって弟と分けてるしあの先端があって量が多い方も譲るぜ!?」
丸井の言う先端、というものをあまり意識していなかったのか、木手の頭上にはてなマークでも浮かんでいるかのような、そんな間が空いた。
「
……
ま、まぁとにかくだな
……
キテレツもお兄ちゃんをしてるのがわかったところで
……
今日の自主練、今キリいいとこだけどもうちょいやってくか?」
「
――
そうで
……
あぁ、いや。今日はもうやめにしましょう。オーバーワークは良くないですからね」
あまりにも突然テニスの話に戻ったのでほんの少しだけ反応が遅れた木手であった。丸井は頭の片隅でオーバーワークというほどやり込んではいないけどなぁ、と思いつつ、無理に続ける理由もないので木手の提案を受け入れることにした。
同日、21時。丸井はひとり、ホテルのエレベーターに乗っていた。中学生たちの宿泊する10階で到着音が鳴り、扉が開かれる。そのまま彼の宿泊する部屋のある左手へ
――
は向かわず、軽い足取りで真っ直ぐに1006号室の前まで赴く。その足取りの軽さといえば、スキップをしていると言ってもよいほどのものであった。
ドアの前に立った丸井はまずはチャイムを鳴らし、それに対する応答を待つこともなく自らの拳で軽く数回のノックをした。
「キテレツ、いるか〜?」
丸井が声をかけたその部屋の中では柳、仁王、木手の三人が勢ぞろいしている。
「丸井くん?」
木手がドアの方へと向かうのを見たあと、柳と仁王の両名は目を合わせた。
「このままでは俺たちはお邪魔虫になる
……
か?」
「プリッ」
念の為、とドアスコープを覗き間違いなくそこに丸井がいることを確認する。ドアを開いていざ対面すれば、満面の笑みを浮かべる丸井がそこにいた。
「これ、買ってきたから食おうぜ!」
「これ?」
丸井の突き出した右腕には買い物袋が握られていた。その中は見えないがそれなりに重量があるようなたわみ具合だ。笑顔のまま丸井は袋に手を突っ込み、中身を取り出す。
「ほら、さっき話してたやつだよ」
ビニール袋に何本かの色とりどりな棒状のものが入っている。それは確かに、先ほど丸井と木手の話していた棒アイスに間違いなかった。
「ああ
……
なるほど
……
」
大なり小なり喜ばれるものと思っていたのに、木手からの反応がいまいちなことに丸井は首を傾げた。そんな様子なのも一緒に食べれば変わるだろう、と踏む。
「とにかく入れてくれよ」
「はいはい」
「丸井は何をそんなにはしゃいでいるんだ?」
部屋に入ってきた丸井を見るなり、柳が問いかける。丸井は再び笑みを浮かべて買い物袋からアイスキャンディーを取り出して柳と仁王へ見せつけた。
「じゃ〜ん! お前らも久しぶりのご対面だろい? まさかオーストラリアの地で売ってるなんて思わなかったぜ! 日系スーパーってすげぇな」
丸井の頭の中では部屋中が大盛り上がり
——
となるはずだったが、現実はそうならならず、むしろ至極冷静なものであった。
「なるほど、そういうことか」
「ついさっきご対面したばかりぜよ」
仁王の視線が壁に寄りかかっていた木手の方へと向けられる。それを辿るように彼のことを見た丸井は少しばかり焦るような口調になった。
「え、どういうこと?」
はぁ
……
とため息をつき、腕を組み部屋のカーペットを見たまま木手が言う。
「同じものを、私も練習の後に買ってきたんですよ。柳くんと仁王くんにも見せました」
「は~、なに? じゃあキテレツはあの店で売ってるの知ってたのかよ?」
「ええ、まぁ」
木手の視界の中に丸井のシューズが入り込む。顔を上げれば、すぐ近くに赤い髪と大きな瞳があった。
「水臭いじゃん、あの時点で言えよなっ!」
「
……
そうですかね」
「そうだろー。ん
……
? 待てよ。そうするとお前の買ったやつってもう三人で食い切ったってことか? ここ冷凍庫ないよな?」
キョロキョロと辺りを見回すが、アイスのゴミと思しきものは見当たらなかった。机に肘をつきながら、そんな丸井を見ていた仁王が揶揄うような表情を浮かべながら口を開く。
「木手もおまんに負けないくらい浮かれててのう、『明日にでも丸井くんに分けてあげましょうね』とかなんとか言って、フロントに預けとったぜよ」
「フロントぉ?
……
あと今のキテレツの真似、似てたからそのうちまたやってくれよ」
「フロントなら冷凍のものを預かってもらえるからな」
柳の補足に丸井は納得し、大きく頷く。そしてそそくさとアイスキャンディーをフロントに託す木手の姿を想像すれば、頬が緩むのを抑えられなくなった。そもそもの話の発端が丸井自身であったというのが最大の理由だとしても、木手が自分にも分けよう、と考えていてくれていたのもなんだか嬉しさを強めた。そんな丸井を他所に、木手は仁王をにらみつけている。
「二度と私の真似をしないでください。特に、私の見ていないところで無断でやるのは絶対にダメですからね」
「プピナッチョ」
「まーまー、いいだろい。とにかくさ、俺の買ってきたやつ食おうぜ」
丸井の提案に木手は現在時刻を確認する。そして丸井へ向けて「今からですか」、とでも言いたげな表情を浮かべた。しかし、その反応は想像の範疇だと、丸井は木手に向けて特大のウインクを放つ。
「これ食ったくらいじゃなんてことねぇだろい! それに半分にするんだからさ」
「まぁ
……
それなら
……
」
「ちなみにそれの正式名称はポリエチレン詰清涼飲料だ。覚えておくといい」
「へぇ~、そうなんだ。でもさ、うまけりゃ名前なんか別に気にしねぇよな。ってことで、ん」
「ん?」
手にアイスキャンディーを一本だけ手に取り、残り全てが入った買い物袋を柳に差し出す。柳をはじめとして、この部屋にいる丸井以外の三人は一瞬動作が停止した。丸井が理由もなく食べ物を譲る
……
? 一体これはどういうことだ、という空気が漂っている。そのことに自分でも気がついたのが、丸井が取り繕うように言葉を繋げた。
「ほら、真田とか幸村くんとかさ、他のヤツらと食って来いよ」
「それにしたって、随分と気前がいいな」
柳は差し出されたものをまだ受け取らない。仁王もそれをただ見ているだけだった。いい加減受け取ってくれと言わんばかりに丸井は唇をへの字に曲げながらもう一度「ほら」と言いながら、今度は仁王の手に無理やり袋を握らせた。
「ワシらは毒見係に御指名されたってところかのう」
手渡されたものを数秒見つめた後、仁王はようやく立ち上がり、柳と共にドアの方へ向かうことにする。その間、黙って大人しくするようなふたりではなかった。
「まさか、丸井だぞ。むしろ買って出る方だ。つまるところ、俺たちは上手いこと厄介払いされたというだけにすぎない」
丸井は好き勝手なことを言いながら立ち去るチームメイトの背中をげんなりとした様子で見送った。それを見て普段自分ではなかなか引き出しがたい表情が見られたものだ、と木手はほんの少しだけ口角をあげていた。
「まー、なんだ。溶ける前に改めて
……
これ、ほら半分こ」
「どーも」
丸井の手によってそのアイスは真ん中で綺麗に分けられた。その半分を木手は受け取って、口に含んだ。そうするとすぐに甘みが口いっぱいに広がる。
「ん~。うまいな」
「そうですねぇ
……
。ああ、そういえば気になったんですが、丸井くんって弟が二人いるんでしたっけ」
「おう。俺に似て可愛いのがな!」
アイスによって唇が冷えているのを感じながら木手がふと浮かんだ疑問を丸井へと投げかけた。
「そうなると、このタイプのアイスは半分余りませんか? アナタと、弟くんたちとの三人で分けるというのは」
それを聞いた丸井はニヤリと意味ありげな笑みを浮かべる。そして拳を突き出して続けた。
「そうだな。そういう時は勿論、骨肉の争いっつーの? 言い訳なし、勝ったもん勝ちのじゃんけん勝負でケリをつけてるぜ。ま、俺はかわいい弟たちの為なら
……
って勝負からは降りることのが多いかな」
「
……
本当ですか?」
「マジだって!」
そんな会話をしながら、木手は故郷で食べた、この手のある商品のことを思い出す。あの紅茶の味わいは自分にとっては馴染み深い食べ物
――
あるいは飲み物
――
であるが、丸井にとってはそうでないかもしれない。ならば、この大会が終わったら送り届けてみようか、などと考えていた。
「丸井くん」
「ん~?」
既に凍った部分を食べ終えた丸井は溶けて液体となったものを名残惜しそうに吸い上げている。
「以前約束しましたけど、帰国したら絶対に私の育てたゴーヤーを送りますからね」
「え、いや
……
ありがたいけど」
「ふふふ
……
楽しみにしてなさいよ」
それは木手なりの小さなサプライズ計画の始まりであった。
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