kaede
2024-05-23 13:16:30
925文字
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キスの日のはなし

燐一
内容があんまりないなあって今さら思ったけどわたしは楽しかったよ…

「今日は何の日か、ってェ?」
 読んでいる雑誌に視線を落としたまま、兄さんが、僕の投げた質問を繰り返す。
「ふゥン……なかなかいい顔してンじゃねェの」
 兄さんは質問には答えないで、雑誌の中にいるグラビアの僕に笑いかけて、それから、隣にいる僕を見てもう一度、笑う。
「まァ、今のおめェが一番いい顔してるけどな」
「兄さんに褒めてもらえたから」
……そーかよ」
 兄さんは窒素とかをたくさん混ぜた声でそう言ったけれど、それが『呆れている』という意味ではないことは経験則でわかっていたから。だから僕がもっとぎゅっと兄さんに身体をくっつけると、兄さんは僕の予想通りに僕の頭をふわふわと撫でた。
 ……と、いけない。兄さんと一緒にいるだけで、その上褒めてもらえたから満足してしまってそれでもうすっかり忘れかけていたけれど。うん。思い出したらちゃんと、欲しくなってきた。
「で、何の日か、っつー話だったよな」
「ウム」
 さすが兄さん。僕よりもずっと記憶力がいい。
「うーん……俺っちの誕生日はもう過ぎたし、もちろん弟くんの誕生日でもねェし……付き合って何ヶ月記念日とかってやつか?」
「そんなものがあるの?」
 初耳だ。
 兄さんが僕の顔をじっと見る。これは、僕の表情や呼吸、まとう空気から答えを探す時に兄さんがよくやるやつだ。語感的には、観察、というよりも、透視とか未来視とか、そういった類の眼差し。
 隠しているわけではないから、知らない、と言ってくれればすぐにでも答えを教えてあげるのだけれど。
 僕も、藍良から聞いて今日初めて知ったのだし。
……ラブレターの日」
「え?」
「じゃねェよな。やっぱ」
 兄さんの手にはいつの間にか、スマホが握られていた。僕の腰に手を回して、大切な宝物みたいに軽く引き寄せてくれたのが嬉しくて、全然気づいてなかった。
 どうやら、ネットで検索したらしい。
「お、チョコチップクッキーの日、ってのもあんぞ」
「へぇ、一日ひとつとは限らないんだね」
「で、こっからが本題だ。一彩くんがご所望なのはこれだろ」
 え? と兄さんに向き直ったその次の瞬間には。

 僕の唇に、答えが。
 僕の欲しかったものが返ってきた。