しまった着る服がない。いつもの着ている服は洗濯してしまって残りは着心地は良いけれど大分よれてしまって外に着ていくには少し憚られるものばかりだ。
「よし、借りよう。洗って返せばいいか」
クローゼットいっぱいに様々な服を詰めている翼獅子のコレクションから一着借りることにした。
同じ顔、同じ体型でいつも小洒落た格好をしている彼のことだから一着くらいは着やすい服があるだろう。クローゼットを漁っていると白いTシャツを見つけた。
「お、こんなのもあるんだ。これでいいや」
袖を通すとさらりとした肌触りが心地よい。それでいて通気性もいいし、薄すぎず厚すぎない生地の重みが丁度良い。
その後丸一日着たTシャツはジーンズと一緒に普通洗いの洗濯にかけてよく陽が当たる場所で乾かしクローゼットに戻しておいた。
借りたものはちゃんと返す。よし。
その晩リビングでアイスを食べながら寛いでいると翼獅子が血相を変えて怒鳴り込んできた。
「ライオス!!」
「なに」
「私の白いTシャツ勝手に着ていっただろう!?」
「洗って返した」
「何洗いで!?」
「普通だけど」
「これ!手洗い!日陰に干す!あとなにと洗った!!??」
「ジーンズ」
「色落ち!!白!!白くない!!」
「そんな分からないから大丈夫じゃないか」
「全体的に色違う!!ああああもう借りるなら借りるで一言!洗わなくていい!!」
「大丈夫大丈夫君なら何着てもかっこいいよ」
「同じ顔に言われてもなあ!!」
「そうは言っても布じゃないか」
「これは!人間たちの努力の結晶なの!素材の厳選から!デザイン!縫製まで!弛まぬ努力の結晶なの!!」
「布なのに?」
「君は布の有り難みを分かっていない!前は替えの服一枚にすら喜んで大事にしてたのに」
「あの時はそりゃまあ貴重品だったから」
「だいたい君だってあのダッサイドラゴンセーターが伸びて着られなくなったら嫌だろう!?」
「それはちょっと嫌かなあ」
「ね!?」
「でも同じの売ってるし」
「物は!大切に!!」
そう言って地団駄を踏んで翼獅子は部屋に戻っていった。
ちょっと可哀想なことをしただろうか。
そんなに大切にしていたものなら弁償した方がいいかもしれない。まあ良い品物でも五千円はしないだろう。Tシャツだし。
手元のスマホで昨日借りたTシャツを調べてみると、同じものが見つかった。値段を見てみると、なんと一万円。
一万円。Tシャツで。
いや自分もコレクションのドラゴンメタルフィギュアをそんなおもちゃが一万円もするのかと翼獅子に言われて反論したことはある。
物の良し悪しは人それぞれだ。
それでも、うーん、一万円。一万円あればファリンと外食に行った方が楽しいな、と思い通販サイトをそっと閉じた。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.