溶けかけ。
2024-05-22 22:26:20
1398文字
Public ほぼ日刊
 

昼寝はほどほどに

海辺で昼寝をしているフとそんな彼女を見つけたヌのお話。
ほのぼの。

 休憩がてら、少し散歩をしたくなったヌヴィレットはフォンテーヌ廷を出て、近くの浜辺を歩いていた。色とりどりの鳥やアベラントたちが午後の日差しの下に集い、うつらうつらと船を漕いでいる。そんな生物たちに囲まれて、健やかな寝息を立てている者がいた。

「フリーナ殿、起きたまえ。年頃の娘が外で無防備に眠るのは良くない」

 濃紺のレジャーシートの上でクッションを枕にすよすよと穏やかな顔で眠るフリーナをゆすれば、んぅ……と言いながら顔を顰めたあと、ヌヴィレットの手から逃れるように寝返りをうった。

「ああ、すまない……ありがとう」

 彼女のサロンメンバーはヌヴィレットを客人と認識したらしく、水筒からお茶を注ぐと彼に手渡した。フリーナの世話焼きな部分が色濃く出ている彼、彼女らはいそいそとバスケットから残っていた菓子を取り出すと、皿に乗せてヌヴィレットの前に置いた。

「これは、君たちが?」

 ヌヴィレットが問えば3人が首を振り、未だに目覚めないフリーナの方を見た。

「なるほど」

 貰ったプクプクシュークリームを口に入れる。軽い口当たりのシュー生地に、甘さを控えたクリームは紅茶との相性が良い。――いつの間に、これほどのものが作れるようになったのだろう?と考えながら食べ進め、ぺろりと平らげていたことに気付く。空になった皿を置いたヌヴィレットにマンマルタコ――ジェントルマンアッシャーと言ったか――が、おかわりはいかが?と言わんばかりに首を傾げた。

「ゴホンッ……すまない、頂こう」

 外聞もなく貪るように食べてしまったことに羞恥を覚えつつも、おかわりを貰い手を伸ばす。陽射しの強さに対して暑さを感じないのは髪を撫でる潮風のおかげなのだろう。
 3つ目のおかわりを辞退し、皿を返すと紅茶で喉を潤してフリーナの隣に寝転がった。

「案外、悪くないものだな……

 寄せては返す波音もお喋りな鳥たちの囀りも。彼女といなければ気付けなかったことばかりだと思うとこの時間すら特別なものに感じる。

…………




……レット……ヴィレット……きて……

 聞き馴染みのある声にヌヴィレットはゆっくりと瞼を上げた。眼前いっぱいにフリーナの顔がある。

「あ、やっと起きた……おはよう、おねぼうさん」

 体を起こし、笑いかけるフリーナに問いかけた。
 
「おはよう、フリーナ殿……今は何時だろうか?」

 辺りはすっかり橙色に染まり、二人のシルエットが長く伸びている。

「えーと……5時だね」

 持ってきていた懐中時計でフリーナが時間を確認する。

「どうやら寝過ごしてしまったらしい……

「なんだって!?それは大変だ!今すぐ戻りたまえ!」

 フリーナはヌヴィレットの髪を簡単に櫛で整え、手を引いて立たせてシートから追い出した。片付けが、などと言う彼に、いいから行け!と強引に送り出すとシートに座って片付けを始めた。

「あれ?2つも減ってる……キミたち、食べたかい?」

 フリーナの問いかけに3人が楽しそうに首を振って顔を見合わせた。疑問に思いつつも片付けを再開したフリーナはバスケットの中に入れた覚えのない紙切れが入っているのを発見し、手に取って内容を確かめる。読み進めるほどに頬が赤く染まっていく彼女がパレ・メルモニアで仕事をする彼の元へ躍り込むまであと――