ぶんどき
2024-05-22 16:02:16
1745文字
Public TRPG
 

音色とステップ

GODARCA 現行未通過❌ 自陣⭕
アーロンとニカくんがダンスする話。

 とある日の昼下がり、アーロンと仁嘉はウェスト・フォート支部の物置部屋にいた。なぜこんなところにいるのかといえば、支部長に備品の整頓を頼まれたからだ。本来であれば部隊長クラスの二人がやる仕事ではないが、ちょうど手が空いていたということもあり引き受けたのだった。
 たかが物置きの整理整頓、と少し甘く見ていたが物置部屋は存外広く、片付けには結構な時間を要した。
 床に積み上がっている中身が不明の箱を開け、中身を確認し仕分ける。そんな作業を繰り返し、ようやく残すところあと一つの小さな木箱だけになった。箱の中にはさらに古びた細長い箱が入っていた。真横にはゼンマイがついている。蓋を開けると、中には小さな突起がいくつもついた金属製の筒のようなものが入っていた。それを見たアーロンは首を傾げた。
「これ、なんだろう?」
 同じく覗き込んだ仁嘉はその箱を見ると少し考え込むような仕草の後、
……あ、それ、もしかしてオルゴールじゃない? 前に文献で見たことあるかも……
「オルゴール?」
「たぶん、このゼンマイを巻くと音が鳴るんだと思う」
「へぇ、面白いね〜、どんな音がするんだろう」
 そう言いながらアーロンはくるくるとゼンマイを巻く。
「かなり古そうだけどちゃんと動くかなぁ」
 仁嘉も気になるようでそわそわと見守っている。
 ゼンマイを巻き終わったアーロンが手を離すと、箱の中の筒が回転し始めた。しばらく錆びついたような調子外れの音が続いた後、かろうじてメロディらしい音を奏で始める。二人は顔を見合わせて瞬きをした。
「すごいねニカ、少し危なっかしい音色だけど本当に音楽が流れてる」
「これが百年前の音楽……
 世界が滅びる前に流行ったのであろう聞いたことのないメロディとそのゼンマイ仕掛けの音色は言いようのない郷愁を誘う。
……なんだか、このメロディを聞いていると踊りたくなってきたな。ねえ、一緒に踊ろうよ」
「ええっ、ここで? 急だね……?」
「ほら早くしないとオルゴールが鳴り終わってしまうよ。あ、ダンスの経験は?」
「ないよ、ダンスなんて……
「オーケー。俺がリードしてあげるから心配しないで。それじゃあ改めて。……ニカ、私と一曲踊っていただけませんか?」
 アーロンは恭しくお辞儀をすると優美な仕草で仁嘉に向かって手を差し出す。仁嘉はおずおずとその手を取った。
……君がかしこまると本当に物語の王子様みたいだね」
「ふふ、光栄だな。プリンセス・ニカ?」
「俺はプリンセスって柄じゃないんだけどなぁ……
 アーロンの動きに合わせるように仁嘉はたどたどしくステップを踏む。慣れない動きに何度も足をもつれさせそうになるが、その都度アーロンがカバーしてくれ一応形は保っているように見える。彼から僅かながら魔力の波動を感じることからアルカナの力を使っているのかもしれない。
 アーロン──【恋人】のアルカナは不思議なもので、確実に失敗したと思った瞬間に、そんな失敗なかったかのように上手くいっていることがあるのだ。まるで彼に手を引いてもらっているように。
「もしかして、アルカナ使ってる?」
「まあ深いことは考えないで、ほら俺に集中して」
 アーロンは軽くウィンクすると仁嘉をより自分の方へと引き寄せる。しばらく踊っていれば仁嘉も少しずつコツが掴めてきたのか、ついていくのに精一杯といった表情が次第に柔らかくなってゆく。
「あはは、楽しいね……!」
「そう、楽しければいいんだよそれで」

 二人の笑い声が物置き部屋に響き渡る。綺羅びやかなダンスホールではないが、窓から射し込む夕陽に照らされたハウスダストはきらきらと舞う。
 黄昏の空、二人の影が伸びる。ステップは滅茶苦茶で、音色も調子外れ。

 それでもこの一時はやさしくて、愛おしかった。



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【 解説 】
シリンダーオルゴールの発祥はほぼ19世紀なので、文化レベルが18世紀頃まで衰退したGODARCAの世界観的に(実用性があまり無いことからも技術継承の優先度は低そうなので)「昔はあったらしいけど今はほとんど現存しないもの」だったりして、それが奇跡的に物置きとかに眠ってたらエモいな〜などと思いました。