相棒とも呼んだ人間の親友と愛息子が結ばれたと聞いた時は驚いたが、そもそも息子の一途な思いは一等そばで見ていたので、困惑がないとは言わないが「良かった」と思う気持ちが強かった。
ただ人間、水木はそれでいいのかと思いもした。したが。
なぁ、と既に大分酔いの回った調子で呼びかけてくる声に、目玉は頭…というか目玉の上の方をぐるんと上げる。仰ぎ見るのは相棒の顔。
目元がほどけ、とろんとした様子に少し心配になる。
「おぬし、水飲んだ方が良いぞ」
「ん?いや、平気だ」
あんまり平気じゃなさそうなんじゃが…とおやじは思うが、何しろ水木は頑固なので言い出したら聞かない。
「…なら良いが。して、何じゃ」
うん…、と水木は少し考えるように目を伏せた。ドキリとするような色っぽさがある。
これ、わし、間男にならんか?
おやじはにわかに心配になった。が、いや、わし、相棒じゃし!とすぐに思い直した。
「その…、あらたまって言うのも何だが」
「うむ」
「鬼太郎と、な、……、だろ?」
「今さら何を恥ずかしがっとるんじゃおぬし。おぬしと鬼太郎が懇ろになったのなんぞ、もう何年前じゃ?」
「………」
水木はふいと視線をそらす。恥ずかしいらしい。
かわゆい男じゃの、とおやじは笑う。せがれとの関係は良好なのだろう、と。
「で、何かあったか。せがれと」
「…いや、何も…。そうじゃなくて、その…、」
水木らしくもなく口ごもった後、すう、と深呼吸をして彼は言葉を発した。
「あいつ…俺のどこが好きなんだと思う?」
「………のろけか?」
「違う!」
「いや、わしビックリじゃあ…。それは惚気じゃろうて」
「だから違うって!…あいつ、年上が好き…とかなのかな」
「いや、せがれは水木が好きなんじゃろ」
水木はむせた。そしてこぼれ落ちそうな程大きく目を見開いた。
「なあ、やっぱりこれ、わし惚気られとるよな?」
「ち、違う…」
「違うんか」
「…し、」
「し?」
「尻が…大きいのが、好き、とか…」
水木は可哀想に両手で顔を覆ってしまった。耳まで赤いが、酔いのせいではないだろう。
やっぱり惚気じゃろ…とおやじは思ったが、面白くなってきたので乗ることにした。
「さあなぁ、しかしまあ、せがれも男じゃから」
「そう…か…」
「なんじゃ水木、おぬし自分の尻が大きいと思うとるのか」
水木は答えない。だがこの場合肯定だろう。なお、おやじもそう思っている。
「……たまに言われる」
「言われる?誰にじゃ、せがれにか」
「鬼太郎はそんなこと言わない!」
がば、と水木は顔を上げた。目が潤んでいる。今息子がここに帰ってきたら少し誤解を招きはしまいか…、おやじはやや悩んだ。だがまあ乗りかかった船だし、そもそも鬼太郎より自分の方が(わずかに)水木との付き合いは長い。あれこれ言われる筋合いはない。…多分。
「取引先とか…?同僚とか…、たまに触られる」
「ンンッ?」
「なんだよ」
「それ、せがれには言わぬ方が良いぞ。いや?言った方が良いのか…、うむ、それ、伝えておいたが良い」
「嫌だよ」
男が尻を触られたからって騒ぐ方が恥ずかしい、水木の顔にはそう書いてある。体の半分くらいある目玉全部でため息をつき、おやじは滾々と諭した。
「どこの世界に伴侶がよその男に尻を触られて何とも思わない男がいるんじゃ。水木は阿呆か」
「…っ、」
「逆に考えて、鬼太郎が尻を触られていたら嫌ではないか?」
「そいつを殺す」
「おぬし水飲め、水!まったく…」
「鬼太郎が優しいからって、そんなの許せん!」
心配せんでもせがれが一等優しいのはおぬしじゃぞ、と思ったがおやじは黙っておいた。
「ならわかるじゃろて」
「…でも俺は別に。自分で何とか」
「っだーっ、このわからず屋め!」
何を騒いでるんです、と涼しげな声が割って入り、おやじも水木もぴたりと口を閉じた。おやじはともかく、水木に至っては顔が真っ赤である。
「おぅ、お帰り鬼太郎や」
まるで気配を感じなかったことに驚きつつ、おやじは陽気に、何事もなかったかのように息子の帰宅を喜ぶ。ただいま戻りました、と鬼太郎は相変わらず丁寧だ。
「依頼はどうであった?」
そう。
鬼太郎は3日前から妖怪ポストに入っていた手紙を元に動いていたのだ?
「問題ありません。解決しました」
さすが鬼太郎じゃ、とニコニコはしゃぐ実父の横で、ギクシャクした様子の水木が「お帰り」と微笑む。それでも笑顔は心からのものとわかる。
「疲れただろう。風呂入っておいで。あたためてやろう」
酔いを感じさせない様子で立ち上がった水木だったが、鬼太郎に手を取られて止まる。
聞かれていたかな、という思いがよぎる。
「鬼太郎?」
自分の手を握り、じっと見上げてくる今は連れ合いとなった相手に、水木は小首を傾げる。
ふ、と鬼太郎が唐突に笑った。大人の男のような顔だった。
「不安にさせるなんて、僕はまだまだですね」
「……?」
にこり、鬼太郎が笑う。
「あなたの好きな所はたくさんあります。真っ直ぐなところ、情が深いところ。その目も好きですし、僕の…」
わーっ!と水木は声を上げる。顔はそれまでよりさらに真っ赤だった。
「まだ言い足りないんだが」
生真面目な顔で訴える鬼太郎に、もう十分、と水木は首をふる。
「……なら、続きはまた。ところで」
「…?」
「誰に尻を触られると?」
ぐ、と鬼太郎の手が不意に、浴衣ごし水木の尻を掴む。小さな声が漏れて、おやじは聞かなかったことにする。
「水木?」
息子の有無を言わせぬ笑顔を横目に、おやじはちびりちびりと酒を吸った。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.