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たかさき
2024-05-20 01:51:52
11599文字
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おにいちゃんって、よんで
FF7/ヴィンクラ/R-18
95:少し小さいヴィンセント
※いろいろなはじめて(
https://privatter.me/page/66326cf6a01df)
の続き的なもの
※このヴィンセントは10代後半を設定
ストライフ・デリバリーサービスの店の奥にはガレージを兼ねた倉庫がある。
そこにはクラウドの相棒であるフェンリルが大事に仕舞われていて、クラウドは暇さえあればここに籠って日がな一日フェンリルのメンテナンスをしているので、そのための機材や道具が所狭しと並べられている。薄暗く隅々までオイルの匂いで満ちているここはいわば、クラウドの秘密の庭だった。
そんな空間の真ん中に、コンクリート剥き出しの床にはおよそ不似合いな、古い革張りの椅子が一つある。一人掛けにしては大きく、クッションは快適で柔らかい。本当ならこんな場所でなく、どこか古めかしいお屋敷の応接間にでも置かれるのが似合いそうな椅子だった。クラウドはフェンリルを心ゆくまで弄ったあと、よくここに一人座ってううんと体を伸ばし、ヴィンセントがいないときにはそのまま居眠りして夜を明かすこともあった。
その椅子に、一人の男が座っている。
少年と呼ぶには幼さの欠片もなく、さりとて青年と呼ぶにはまだ背丈が足りない。その曖昧な年頃の風貌には似つかわしくない、陰鬱とした空気を纏わせている。
耳を隠すほどの黒い髪の隙間に覗く瞳は、暗く深い赤だった。
* * *
朝と呼ばれる時間が終わる頃、クラウドは二階の住まいから一階にあるこの倉庫へと足を運ぶのがここ数日の日課だった。ここ数日というのは、この椅子に座る黒髪の男が突如として現れてから、という意味である。全く奇妙な出来事ではあるのだが、理由など考えても特に意味がないことをクラウドは既に知っていたので、悩むことはしなかった。
水の入ったポットをそばにある小さな木箱の上に置いて、クラウドは黒髪の男の隣に静かに腰を下ろした。黒髪の男はクラウドがそばに座っても、目線を動かすことはなかった。俯いたまま、手の中にある銃を一日中弄っている。肌を触るより馴染んだ手つきで分解し、組み立て、また分解し、ただひたすらそれの繰り返し。
「ヴィンセントはもう仕事に行ったよ」
クラウドは気にすることなく、普段の声で言った。手を伸ばし、目にかかりそうな前髪を耳へと梳いてかけてやる。
「
……
ヴィンセント」
ようやく彼が顔を上げる。クラウドと目が合って、思った以上にクラウドの顔が近くにあったからか、慌てたように目を彷徨わせてまた俯いた。
年頃らしいその挙動に、クラウドは思わず頬を緩ませる。よく知るあのヴィンセントは絶対にそんな姿など見せないからだ。俯くその頬にキスしたいと思いながら、囁くようにもう一度名前を呼び掛けた。
「
――
どっちだ」
ぽそりと聞こえた声は子どものような高さでもなく、今のヴィンセントのような低さでもない。その中間のような声に、クラウドは柔らかい表情のまま、首を傾げて覗き込む。
「なに?」
「
……
呼んだのは、どっち」
「そんなの、」
くすりとクラウドは笑う。笑って、両手で俯いた頬を包んで上向かせた。
「お前に決まってるだろ、『ヴィンセント』」
赤の両目ははっきりと不満を浮かべて睨みつけていたが、クラウドがゆっくりとその名前を呼ぶと、目に不満以外の何かがゆらりと立ち上る。強烈な感情が圧縮されて、溶岩のように冷え固まったような、何か。今ここにはいない彼が滅多に見せることのない感情の揺らぎを、目の前のヴィンセントは隠すことを諦めたようだった。クラウドには隠そうとしたって無駄だったからだ。年齢の差もあるだろうが、感情を偽ることにかけてはクラウド以上に年季の入った者などまあいない。
ヴィンセントは手にしていた銃を木箱の上に置くと、クラウドの肩をぐっと掴み、そのまま力任せに引き寄せる。
「ヴィ、セ
……
んっ
……
」
強引に口づけて、クラウドが何か言おうとするのを何度も塞いで喋らせないようにする。クラウドは最初止めようとしたが、少しもしないうちに首を傾け、噛みつくような唇を受け止めて、口を開いて侵入してくる舌を受け入れた。椅子の背に体ごと押し付けられても抵抗しないどころか、むしろ誘い込むようにその手を背中に絡めてみせる。
はあ、と大きく息をついてようやく唇を離したあと、クラウドはまたくすりと笑った。
「焦る必要はない。ヴィンセントはもういないって言っただろ」
「っ、それは、」
「分からない? 俺と一緒に住んでいるヴィンセントは、だ。あっちのヴィンセントがいないときは
――
」
お前は俺に触っていいよ。触るだけじゃない。何でも、好きなことをしていい。お前が俺にしたいことを、どんなことでも、好きなだけ
――
クラウドが今目の前にいるヴィンセントにした約束だ。
初めて目にしたときから、クラウドはこのヴィンセントが自分に望んでいることを全て理解していた。それを理解したときの、腹の底からこみ上げた歓喜と興奮が今でも忘れられない。
ふっと視線を下げる。ヴィンセントにも分かるように、あからさまに。彼の下半身が変化していることが服の上からでも見て取れる。彼はそれを恥じるというより、悔しいと感じているようだった。険しく細めた視線を逸らすのがクラウドは何故だか許せなくて、逸らされた頬に手をやり、目線をこちらへと向けさせる。
「ねえ、脱がして
……
触りたいんだろ?」
「
……
っ」
考える時間は短かった。ヴィンセントは険しい表情のまま、乱暴な手つきでハイネックのジッパーを掴むなり、一気に下まで引き下ろした。そして服を取り払おうとして顕わになった白い肌に、ぐ、と息を呑む。そこには生々しく赤い痕がいくつも、数えきれないほど散らばっていた。
思わず動きを止めたのをクラウドは不思議そうに見たが、すぐに気付いて、ああ、と笑った。
「夜だけじゃなく、朝もしてくれたんだ
……
こんなに、たくさん」
うっとりとした表情を浮かべて、クラウドは指で自分の体につけられた痕をなぞる。そのときのことを思い出したのか、目は潤んで、吐息が湿り気を帯びる。
「じゃあ、何で、俺を許すんだ」
理解できない、という顔をするヴィンセントに、クラウドはふふ、と笑って見せる。
「お前も、ヴィンセントだから」
笑いながら、その頭を両手で引き寄せて、自分の胸へと押し付ける。
ヴィンセントはそれを突き放すことなどせず、寧ろしがみつくようにその体をぎゅうと強く抱きしめた。
* * *
「っ、だから、そんな強く噛むなって
……
もっと優しく、して
……
」
白い首をのけぞらせながらも、クラウドはヴィンセントの頭を抱える手を離そうとはしない。甘い息を吐きながら、その黒髪を愛しげに撫ぜている。ヴィンセントが胸に顔を埋めて、散らばる赤い痕の上に苛立ちを含ませながら噛みついてくるのを、楽しそうに受け止めていた。それに対して、ヴィンセントはやっぱり悔し気な表情のままだ。舌打ちさえ聞こえてきそうな口元から、低い呟きが漏れる。
「余裕だな
……
」
「ふふ、お前だって、最初に比べたらちょっとは上達したんじゃないか? ほら
……
」
つんと上向いた乳首をクラウドはわざと目の前で見せつける。白い肌に赤く濡れたその部位はあまりに蠱惑的で、ヴィンセントは堪らずといった感じでそこに噛みついた。歯を立てようとするのを何とか思いとどまり、強く吸い上げる。
「ぁん、そう
……
いいよ、上手
……
もっと、舐めて
……
」
切なげに息を繰り返すクラウドに、ヴィンセントは逆らわなかった。言われたとおりに、固くなった乳首を舌で潰し、甘く噛んで、手の平で愛撫する。そうしたらクラウドが甘い声で褒めてくれるから、夢中になって繰り返した。胸から脇腹、臍へと辿っていって、ズボンの邪魔なベルトを苛立たしく思いながら下着ごとずり下ろし床へと放り投げて、白い足を大きく左右に開かせる
――
と。
ヴィンセントはぎくりとして、またも動きを止めた。開いたそこにも赤い痕がそこかしこに残されていたからだ。この体の所有者は別にいて、お前の立ち入る隙は一ミリもないのだと警告されているようだった。
「ヴィンス
……
?」
クラウドの上擦った声が呼びかけてくる。待ち切れないという風に手を掴まれ、自ら痕の残る足を大きく開いて、彼を受け入れる場所を見せつけてくる。
「ほら
……
おいで?」
ヴィンセントは、息を呑んでクラウドを見つめた。
頬を紅潮させて、求めてやまない声が誘うのを振り切れるわけもない。けれどもヴィンセントを動かしたのはそれだけではなく、クラウドのその場所が白く濡れていたのが見えたからだった。
「
――
あ、ぁあ、ヴィ、セ
……
ヴィンス
……
!」
我慢など到底できずに誘われるまま昂った自身を取り出して突き入れると、そこは全く抵抗もなく受け入れて、柔らかく包んでくる。それどころかもっと奥へと飲み込むように絡みついて、ヴィンセントは詰めた息を吐き出した。持っていかれるかと思ったほどだ。暫く動けずにいるとクラウドの両腕と両足が絡みついて、早く動けとせがんでくる。声は何度も名前を呼んでいた。それは自分の名前なんだとヴィンセントは思い込もうとする。クラウドが求めているのは自分であって、今ここにいない、あいつではない。
がむしゃらに腰を動かして、音を立てて打ち付ける。耳元に漏れる声は揶揄いを含んで、笑っているように聞こえた。それが悔しくて、もっと必死にさせたくて、腰を両手で掴んで強く打ち付けてやると、クラウドの手が伸びて自分の両手に重なった。
「そこ、じゃない、」
「はぁっ
…
なに、」
「ちゃんとおしえただろ
……
? 俺の好きなとこ、」
濡れた目をして、クラウドは薄く笑う。手を掴み、自ら腰を揺らして、ヴィンセントの体を誘い込む。
「
……
ここ、」
誘われるままにぐっと押し込むと、温かく濡れた中がひくひくと嬉しそうに絡みついてきた。堪らなくなって、言われたとおりに何度も同じ場所を擦り、抉る。
「ん、そう、そこ、きもちいぃ
……
っ」
クラウドは体をしなやかに跳ねさせ、甘い声をあげた。潤んだ目は確かにこちらを見ていて、名前を呼ぼうとする唇を塞ぐようにして食いつくと、頭を抱えた手が髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回した。
「ぅ、く
……
っ」
「っ、
――
ッ
……
」
強く、擦り付けるようにして根本まで押し込んで、二度、三度と繰り返して中に吐き出すと、全身の力が一気に抜けるような倦怠感がぐったりと押し寄せる。逆らえずに倒れ込むと、優しく受け止める腕があって、額を胸元に擦り付けると、くしゃくしゃになった髪の毛を優しく梳いてくれた。
荒い息のまま顔を上げれば、クラウドも蕩けたような目で、にこりと笑ってくれる。上手にできたな、と囁かれて、こんなのに抗える男がいるんだろうかと、複雑な気持ちになりながらその言葉を聞いていた。
突然、ドアの開く音がした。かつ、と響く耳障りな靴音。
はっとして体を起こすと、長い黒髪が歩調に合わせて揺れるのが一番に目に映った。
「こんなことだろうとは思ったが
……
」
地を這うような低い声に、ヴィンセントは恐怖を感じたわけではない。込み上げたのは、激しい怒りだ。ぎり、と奥歯を噛み締めてクラウドを抱き寄せようとする。
が、当のクラウドがとろんとした目を瞬いて、ゆっくりとその体を起こした。そして声がしたほうにその手を差し伸べる。
「あれ
……
ヴィンス、どうしたんだ。忘れ物でもしたのか?」
暢気としか言いようのない声で、クラウドが話しかける。
「説明が必要か? 全く
……
外まで声が聞こえたぞ」
入って来たほうも入って来たほうで苛立たしさを前面に出した声ではあるものの、さほどの緊張感があるわけでもなく、それはヴィンセントにとって逆に腹立たしいことだった。
しかし、その軽薄な空気が一転したのは、入って来た男が身に着けていた手袋を外して床に叩きつけたときである。
同じように着ていたジャケットを汚れることも構わないのかそこら辺に適当に放り投げ、ついでにネクタイも外して投げ捨てると、二人が絡み合っている椅子へと正面から片膝をついて乗り上げた。
そのとき、ヴィンセントは何をされたのかよく分からなかった。彼の左手の異様さに目が奪われて、次の瞬間、気が付けば床に転がっていた。
頭上でクラウドの怒声が響き渡る。
「何するんだ、やめろ!」
「軽く押しただけだ。こんなことで倒れるほうがどうかしている」
「約束が違う、この子には手を出すなって言っただろ!」
「ほう、そんなに気に入ったか、あれが」
激高する声と、反して石のような冷たい声。
冷たい声の主は、今床に転がされているヴィンセントと同じ名前を持つ男である。
年若いヴィンセントが現れたとき、この男は何も言わず表情さえ変えることなく、すぐさま銃口を向けた。勿論、同じ顔をしているもう一人の自分に対してである。
クラウドはヴィンセントを背に庇いながら、彼に対して今と同じように怒って止めさせ、約束させたのだ。アンタはこの子に手を出しちゃ駄目だからな。もし手を出したら、絶対に許さないから。そう言われても男は優に五秒間は銃口を向けたままでいたが、分かった、と短く言って、銃口を下げたのだった。
「そういう問題じゃないだろ、アンタとこの子じゃ力が違い過ぎるから
――
……
ッ、ん、
……
っ」
男は有無を言わさず、クラウドに覆い被さった。顎を掴み、口づける。クラウドが苦し気にその腕を掴んでも離そうとしない。長い黒髪がざらりと落ちてクラウドの顔を覆い隠し、その表情が見えなくなった。
クラウドは抵抗するものだと、ヴィンセントは思っていたのだ。だからか、床に座り込んだまま、ぼうっとして二人の様子を見ていたのだった。
目の前で男の腕を掴むクラウドの手から次第に力が抜けて、押しのけるどころか甘えるようにその腕を撫で擦り、さっきまでこの髪を撫ぜていたはずの手が長い黒髪を頭ごと抱きしめている。怒鳴っていたはずの声は、いつの間にか啜り泣きのような甘えた声に変わっていた。
「時間、いいのか
……
? もう一回、してくれるの
……
?」
「時間など知ったことか、いいからもっと足を開け」
男の手がクラウドの片足をぐっと高く持ち上げ、自身の体を割り入らせる。ヴィンセントの位置からも、何も身に着けていないクラウドの体が押し開かれる様子がよく見えた。クラウドが男のシャツのボタンをもどかしげに外そうとする間、男は構わずにズボンの前を手早く寛げて、クラウドの腰を強く抱き寄せた。
「
――
ぁ」
半ば閉じられていたクラウドの目が、大きく見開かれる。
背を弓なりにのけぞらせて、開いた目がまた、熱に浮かされたように瞼が落ちた。
「
――
ッ、あぁアッ、ぁん、ンッ、」
突き上げられ、揺さぶられて、恍惚とした表情を浮かべながら、聞いたことのない嗚咽のような声をあげている。
抵抗するどころか、悦んで男を中に受け入れていることくらい、嫌でも分かってしまった。
抱きしめる力さえ抜けてしまったのか、腕を掴んでいたはずの手はだらりと椅子に伸びて、足をだらしなく開いて男のされるがままになっている。
――
こんな声を出すのか、クラウドは。
ヴィンセントはどこか冷やりとした頭で考えていた。
この声も、あの男を見つめる目も、表情も、全て自分の前では見せなかったものだ。それはとても
――
とても、我慢のならないことだった。
「っ、ヴィンス、
――
だめっ、」
衝動的に体が動く。跳ね起きて、クラウドの顔へと手を伸ばす。強引にこちらへ向けさせて、熱に溶けた目が自分を見た瞬間。
ぞっとするような殺気が全身を貫いた。
振り向くと、男の獣のような赤の目がぎらりと光るのが見えた。開いた口元から牙を剥き出し、そして異形の左手を振りかぶったのだ。
「手を出しちゃ駄目って、言っただろ」
その瞬間聞こえたクラウドの声は、怒るというにはあまりに甘く、まるで聞き分けのない子どもに向かって言っているようで。
ヴィンセントはこの男が止まるとは到底思わなかったので、目を抉られるか喉を裂かれるか、来るだろう衝撃を覚悟して身を固くしたのだが、そんなことは起こらなかった。
男は不承不承といった感じで振りかぶった左手を収めて、唸り声のような息を吐き出した。
「私がいるときは、触らせない約束じゃなかったのか」
「アンタだってさっき、破ったんだから、これでおあいこ。な?」
絶対、こいつはそんなことで納得なんかしないと思うけど。
ヴィンセントは反射的にそう思ったし、目の前の男も同じような表情をしていたように思う。が、クラウドの言葉に反対する気にはなれないのか、男はそれで大人しく引き下がった。何となくその心情を理解しそうになって、ヴィンセントはやはり複雑な気持ちのままだった。
「ヴィンス、おいで」
二対の赤の目がクラウドを見る。クラウドが見ているのは自分のほうだった。そのことに一瞬だけ優越感を感じる。だが、一瞬だけだ。クラウドの首筋が汗で濡れているのが目に入って、そうさせたのが自分ではないことは分かり切っていた。
悔しいのか虚しいのか、自棄になった気分でヴィンセントはクラウドの唇に噛みついた。こっちは必死だというのに、ふふ、と笑う気配がする。
「だから、焦るなってば
……
」
クラウドの手が悪戯のように伸びてくる。頭と頬を優しく撫ぜた手が、同じとは思えない手つきでヴィンセントの股間まで這っていき、既にまた固く勃ち上がっているものへと指を絡ませてくる。危うく情けない声を出すところだったのを、何とか喉の奥に押し込めた。どうせさっきの恐ろしい目で見ているに違いない自分に聞かせるわけにはいかなかった。腹立ちまぎれにさっき散々噛みついた胸を鷲掴んでやると、あっ、と上擦った声がして、滑らかな体がぴくりと跳ねる。
「
――
待っ、
……
ぁ、あッ」
途端、クラウドが苦しそうな表情で、切羽詰まったような声を上げた。自分ではない自分が、強く突き上げたのだ。この男にそうさせたことに、少しだけ気分が晴れた、ような気がする。
誰とも分からない荒い息が混じり合う中、クラウドが揺さぶられながらも、こちらをちらりと見た。うわごとのようにヴィンス、ヴィンセント、と名前を何度も呼ばれて、指がせわしなく動くのに耐えられるわけもなくて、二度目をクラウドの手の中へと吐き出した。
クラウドは嬉しそうに微笑んで、その手をぺろりと舐めて見せた。口の端に滴った白い液体が顎を伝って首筋へと流れていくのを、そして自分ではない自分がクラウドを初めての絶頂へと導くのを、ヴィンセントはただ黙って眺めていた。
* * *
「もう、行くのか? どうせなら休めばいいのに
……
」
未練を感じさせる声でクラウドが言うのに、男は軽く首を振るだけで、さっさと服を整えてしまった。わざわざ放り捨てたネクタイまで律義に拾って、締めるのは面倒なのかポケットに押し込んでいる。
椅子の背にしどけなくもたれるクラウドに軽くキスをして、そのまま立ち去ろうとした足を止める。少し迷った末に、男はこちらを見た。
椅子の下に座り込んでいたヴィンセントは、その視線を正面から受け止める。そこには敵意があるわけではなく、けれども特別なものも何もない、ただ乾いた視線があるのみだった。
「
……
クラウド」
男が呼びかけた声は、今まで聞いた中のどれとも違い、不思議な響きを持っていた。だからか、クラウドは何も身に着けていない状態でも、返事をせずに立ち上がり、彼の腕をそっと握ったんだろうと思う。
「ヴィンセント、もう少し、ここにいて」
男が頷くのを、自分は期待しただろうか。よく分からない。考える暇もなく、やっぱり男がクラウドに首を振るのを見たからかもしれない。
「クラウド、
……
頼んでも良いだろうか」
でも、その声もやはり不思議な声だった。
「お前に、頼みたい。私にはどうしたら良いのか、『本当に』分からない」
どんな感情が湧いたときに、そんな声を出すんだろう。分かるとは思えなかったが、ヴィンセントは考え続けていた。
深い地中に埋めたことさえ忘れていた自分の骨を見つけたら、あんな顔をするんだろうか。
少ししてクラウドが頷いて、握った手を離したのを見て、それだけはヴィンセントにとって安心をもたらすものだった。
そして、ヴィンセントは一人、椅子に座っている。
服はちゃんと着ているが、髪が少し濡れたままだ。あの後、クラウドがシャワーを浴びようといって一緒に入ったのだが(気は進まなかったが、クラウドに押し切られて断れなかった)、タオルが一枚しかなくて、クラウドは二階へと取りに行った(勿論、服はちゃんと着ていた)。
かしゃん、かしゃん、と音がする。手の中に何より馴染む、小さい古い型のリボルバー。弾倉を開けては閉じ、開けては閉じを繰り返している。昔から常にあったこの音は、ヴィンセントにとって耳に馴染んで離れないものの一つだった。
シャツの胸ポケットから弾を一つ取り出し、弾倉に込めて、ハンマーを倒す。手慣れた操作だった。
銃口を口に咥えようとして、苦笑いを浮かべる。どうにもこの口に咥えるというやり方は趣味に合わない。やっぱりやるならこっちだと、こめかみに当てる。失敗しない自信はあるし、何より重たく無意味なこの頭を吹き飛ばしてやりたいのだ。それだけがやりたいことで、それさえできれば他はどうでも良かった。
「
……
ヴィンセント」
シャワーを浴びたばかりだからか、幾分冷やりとした手が自分の手を包む。
「駄目だ」
クラウドは、目の前にいた。目はまっすぐにこちらを見つめ、声は少し震えていた。
「そんなことしないでくれ
……
お願いだ、ヴィンセント」
ほだされた、のだろうか。自分の手はあっさりと負け、クラウドの促すままに下へとおろされた。クラウドはそのままするりと銃を抜き取って(意外に手慣れていた)、遠くへと放ってしまった。
「
……
してもしなくても、一緒だ」
「なに?」
クラウドがそっと横へと座る。尋ねてくる声は穏やかで、とても心地の良いものだった。
「あいつが俺を忘れたんだ。だから俺はもう、ここにはいない。一緒のことだ」
クラウドの手が頬へと触れる。この手を掴んで自分のものにしたいと何度思っただろう。
「でも、それは多分、あいつにとって良いことなんだろう」
頭を引き寄せられて、温かい胸へと押し付けられる。性的なものは感じられない動作だったが、ヴィンセントはついさっきの行為を思い出していた。男なのに胸も中も柔らかくて、そうさせた奴のことを考えざるを得なかった。
「俺には行きたい場所もないし、帰る場所もない。やりたいこともないし、やらなきゃならないことだってない。
――
だから、あいつが俺を忘れたのは当然なんだ」
だからもう、眠らせてくれ。
最後の気持ちは、言葉になったかどうか。それをヴィンセント自身も分かってはいない。
(それはヴィンセントが望んだことじゃない
……
ヴィンセントの意思じゃない)
クラウドはある風景を思い出していた。
埃と塵に覆われた古い屋敷。蜘蛛の巣がいくつも張る中、寂れた実験用ポッドが並んでいる。ひび割れたガラス。薄汚れた手術台。地下に続く階段。もう誰もそこを訪れることもない。
あの中で、切り刻まれたヴィンセントから永遠に失われてしまったもの。望みもしないのに不老不死の体を得て、それでも置き去りにされたものがある。
そのことが分かるのは自分だけだと、クラウドは思う。自分もきっと似たようなものを失ってしまった。
ここにはいないヴィンセントを思って、自分は泣くべきではないと思った。本当に泣くべきなのは、ここにいないヴィンセントのはずだ。本当に分からないと言って去ってしまった、彼が。そしてここにいる、もう眠りにつこうとしているヴィンセントが。
なのにこの二人は少しも泣こうとしない。涙一つ見せようともしない。少しくらい泣いたっていいのにと、クラウドは少しだけ嫉妬に近い感情で、思う。
「
――
帰る場所なら、あるだろ。ここだ」
撫ぜていた髪の毛が、もぞりと動く。顔を上げたヴィンセントは、何とも言い難い、奇妙な顔をしていた。
信用してないな、とクラウドは吹き出しそうになる。こんな頃から人を頭から信じるということをしない人間だったんだなアンタってやつは、と自分のことを棚に上げて、笑った。
「
……
あいつがいるのに?」
「あいつって言うなよ、ヴィンセントだ」
「どっちのことを言ってるのか分からなく
……
いやそういう問題ではなくて
……
」
「
――
あ、そういえば」
クラウドは不意にヴィンセントの頭を撫ぜる手をとめて、ぼふ、と椅子の背に深くもたれて天井を見上げた。ヴィンセントの頭を抱えたままだったから、必然的にヴィンセントも引っ張られてクラウドにのしかかるような姿勢になってしまう。そのことに内心慌ててはいるが奥歯を噛み締めて声には出さないヴィンセントだった。
クラウドがほんのり遠い目をして天井を見上げたままで、その間もずっとヴィンセントを抱えたまま離さないので、ヴィンセントは居心地悪そうに顔を上げた。
「そういえば、何」
「
……
ああ、うん。俺の母さんがさ
……
昔言ってたことを思い出して」
ヴィンセントはまた何か揶揄われるのかと思っていたから多少気構えていたのが、思いのほかクラウドが素直な声で話し始めたので、そんな素に近いクラウドの声を聞くのは初めてなような気がして、構えていたのもすっと取り払われてしまう。
「父さんは俺が小さい頃にはもういなかったんだけど、もしそうじゃなかったら、もう一人くらい子どもがほしかったって言ってたんだ。だから俺にも弟か妹がいたかもしれないんだって、小さい頃よく考えてたな
……
って」
クラウドの声は決して明るいものではなくて、それでもどこか懐かしむような響きがあったので、ヴィンセントはその声に聞き入っていた。懐かしいと思うことなどヴィンセントにはあまりないことだから、クラウドは今何を思っているんだろうと考えていたところ、クラウドがヴィンセントの顔を覗き込んできた。
「お前、俺の弟ってことにしたらいいんじゃないか?」
「
……
ん?」
「髪も顔も全然似てないけど
――
どうせあと少ししたら背だって抜かれるんだろうけど
……
うん。俺の弟。な、そうしよう」
「そうしようって
……
え」
「そういうことにするってことだよ、いいじゃないか。そうしたらここがお前の帰る場所になるだろ」
な、と笑うクラウドは、どこか泣きそうな顔をしていたので。
ヴィンセントは全くもって意味が分からなかったが、頷いてしまった。
そうしたらクラウドは安心したように笑ったので、それでもまあいいかと思ってしまった。
「ふふ、ヴィンセントが俺の弟だって
……
かわいいな、お前」
両手で顔を撫でてきたので、ヴィンセントはさすがにこれには抗議したくてその温かい手から逃れるように距離を置こうとする。
「かわいいって
……
自覚ないのか? それってクラウドのこ」
「は? なに? お前今何言おうとしてる?」
「何でいきなりそんな態度
……
大体、弟とこんなことしていいのか」
そう言われたクラウドが一瞬きょとんとして、その後に浮かべた笑みがどれほど艶やかで美しいものだったのか、ここにいないヴィンセントが見ることのできなかったのは、とても残念でしたとしか言いようがない。
「そうだな
……
お前となら、しちゃうだろうな」
座るヴィンセントの前にクラウドが立ち、手を差し伸べている。
行きたい場所なら、俺が連れて行ってやる。このフェンリルなら、どこまでだって行けるんだ。だから、行きたい場所があるなら一緒に行こう。
ヴィンセントは少しの間、考える。行きたい場所なんて本当になかったからだ。でもクラウドの行く場所なら一緒に行きたいと、そう言った。
分かった、とクラウドがその手を掴んで引っ張っていく。ガレージの扉を開け放つと、薄暗い空間にさっと光が差し込んだ。
じゃあ、とりあえず海でも行くか。
時間がもうあまり残されていないのはクラウドもヴィンセントも分かっていたが、それは今考えなくてもいいことだった。
クラウドがヴィンセントの手を掴んで、その指先一つ一つが離れていくまで、ちゃんと離さず握っていたことのほうが、二人にとってはとても大切なことだった。
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