佐久らぎ
2024-05-19 21:20:59
742文字
Public 蒼界:文章
 

イリスとティルク 観劇の誘い

misskeyから転載

「芝居のチケットを頂いたので、一緒にどうかと思いまして」

 ティルクは二枚のチケットをひらひらと手で弄んだ。

「流行りの台本だそうですよ」
「ふーん。どんな話か知ってるの?」
「ざっくりとなら」

 ――とある王国に、由緒正しい公爵家がありました。
 その後継者である彼には身分違いの想う相手がいましたが、貴族の宿命からは逃れられませんでした。政略結婚です。
 それに我慢ならない彼は、結婚し妻となった、今まで顔も知らなかった彼女を貶し、決して愛することはないと突き放します。
 しかし、彼女はそんな逆境にもめげず、彼と公爵家に尽くします。
 頑張り続ける彼女を見て、彼は認識を改めますが、彼の恋人はそれが気に入りません。
 ついに暴漢を使い、妻である彼女を害そうとしますが、彼女の夫であり恋人だったはずの彼に阻まれます。そして、ついに彼は恋人に見切りを付けます。
 妻に今までの非礼と扱いを詫び、愛を告げるところで、ハッピーエンド。めでたしめでたし。

……この上なくつまんなそうな話ね」

 イリスは頬杖をついたまま、吐き捨てるように言った。

「結局、結婚させられた相手の方がいい女だったから手のひら返しただけでしょ? 気持ち悪いわ」
「貴女は本当に流行には乗らない性質ですねえ。まあ俺も凡そ同じ意見ですが」
「で?」

 イリスは、口元だけで笑うティルクに向き直り、指先でテーブルの表面を叩いた。

「そんな三文芝居が本題じゃないんでしょ? どんな面倒なことにこの私を巻き込もうとしてるわけ?」
「心外ですね。ただ貴女とデートしたいだけかもしれないじゃないですか」
「御託はいいから早く吐いて頂戴」
「相変わらずせっかちなことで」

 隻眼の祓魔師は吐息で笑った。