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倉木
2024-05-19 20:01:15
2910文字
Public
他🐢
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RL
2k7
とある曲にインスパイアされたものですが原型はほぼ無し
勢いよく着地すると同時、派手に飛び散った水しぶきが目に入った。
雑に掃除でもしたんだろう、水びたしの床は今改めて見ると薄暗い月光でも艶めいているのがわかる。
後から続いて軽やかに着地したレオナルドはそんなコンディションにも気付いていたようで、足元を軽く湿らせた程度で落ち着いていた。
未だ頬についた水滴を忌々しく払いのけるが一歩踏み出しただけでまた同じことの繰り返し。
「休まなくて大丈夫か?」
そんなラファエロに特にからかうこともなく、むしろ気遣いのある言葉が届く。
だが、薄暗闇でも見える涼しい顔には優しさなんてものは感じられなくて嫌味にしか聞こえなかった。
「ハッ残念だがこちとら力ありあまってんだわ」
家からはそれなりの距離を移動してきているし、その間も休むことなく全速力とも言えるスピードで駆け抜けてきていた。
幾度となく通った道でどう動くのが一番良いのかなんて聞くまでもない、ラファエロにとっては飽きるくらい通ってきたルート。
反して未だ目新しいものが多いらしいレオナルドは時節興味深く見回しながらという状態で、それでも呼吸ひとつ乱れた試しがない。
それだけ基礎的な能力がついたということなんだろうが、それが煽っている言葉と捉えるのはラファエロの心が狭いからだけじゃないと思いたい。
「そうか」
だからこそ皮肉をこめて言ったつもりだが、本人からはそんな感情のない一言のみだった。
偵察という名目で出てきたので、街灯が目立たずどこか薄暗いエリアで辺りを探っているらしいその背を見ながら、ひとり溜息。
中途半端に茹だった水滴は生臭い。
酔っ払いの騒ぐ声が耳障り。
ひとりで夜を徘徊するようになって、如実に見えてきた『綺麗じゃないモノ』は一瞬で世界を塗り替えた。
産まれた時から住んでいる故郷だ、変わったことなのはラファエロ周辺の環境だけなのに目を瞑りたくなるような極彩色と目を背けたくなる哀しいモノトーン。
レオナルドの帰還により穏やかになった日常の中でも、一度見えたノイズを無視できるわけもない。
ふと聞こえた嬌声に視線を下に下げる、見えた光景にラファエロは眉を吊り上げる。
「何かあったのか?」
舌を打った些細な音をも拾い上げたらしい、レオナルドがこちらに寄ってきたので慌ててその胸板を押し返す。
「っ別になんもねェよ」
隠そうとしたところで再度、響いた女性の甲高い声が聞こえた。
悲鳴と言うには艶めかしく、狂喜に近い。
それをどう捉えたのかわからない、表情を引き締めたレオナルドがラファエロを押しのける。
「おいっ!」
掴もうとした腕はさらりと避けられて、屋上のヘリに手をかけた。
「
……
だから言ったろ、なんもないってよ」
下を覗き込んだ姿に深い溜息が漏れた。
屋外でわざわざ睦み合う男女なんてこの街じゃそう珍しくもない、むしろ何故今まで見えてこなかったのが不思議なくらいだった。
守るものがいつだって綺麗なものだって限らない。
向けられる言葉の理不尽さに怒りを覚えたことは正当なものもあったと今でも思っている。
背を向けるレオナルドの顔は見えないが、おそらく驚いているであろうことは予想できた。
何せ海を越えた大自然の中で自足生活をしていたらしいのだから、都市の汚いところはまだ刺激が強いだろう。
「あぁ、見られるような場所なのによくやるよな」
しかしその場を見下ろしたレオナルドは冷めたような口調でそう言った。
階下から視線を外したその表情は同じように冷ややかな顔をしていて、嫌悪感や恥じらいというものも何もない。
そこに感慨深さも何もなく、思慮すら必要ないという眼。
そんな表情に首元をぞわりとした感覚が突き抜けた気がした。
「随分と手慣れてるじゃねぇの」
清廉潔白、そんな言葉が良く似合っていた兄にそう言えば、少しだけ眉を吊り上げた顔でこラファエロを睨む。
外に出てからずっと澄ました顔をしていたその表情を崩せたことに微かな愉悦を感じるが、一瞬で距離を詰めたレオナルドがぐいと身を寄せてきた。
いつの間にか開いていた体格のせいで踵を上げてできるだけ近く。
「知ってるか?夜の森ってのは絶好の逢引場所らしいぞ」
昏い空に浮かんだ月。
その下で浮かんだ蒼と淡く燃える瞳に、無意識に呼吸が止まる。
そりゃ自分だって色々と変わったのだし、レオナルドだって色んなことを経験しただろう。
しかしこんな、妖艶ともいえるような笑みを浮かべるなんて誰か想像できただろうか?
永遠ともとれる時間は、ついと離れたレオナルドによって脈打った鼓動を取り戻した。
早鐘の心臓は痛いくらい。
「そろそろ戻ろう、皆も心配する」
そう言って、レオナルドは身を翻した。
早く着いていかないと不審に思われてしまうし、たまに迷子になるレオナルドを野放しにはしておけない。
しかし先ほどの表情が脳裏に貼り付いたまま、吐いた息は鬱陶しいくらい熱を帯びていた。
火照っているであろう頬は宵闇に隠れて見られていなかったと願うばかり。
好きだと自覚した頃にはもう遅く。
戻ってきたと思ったら、思い出が今の彼によって急速に塗り替えられる感覚を許容したくない自分がいることもまた事実だった。
数刻の沈黙を置き、やがて息を吐いて頬を叩く。
ひとまず彼に追いつこうと勢いよく飛び降りた先、見知った後頭部が見えた。
「アっ!?おい、どけレオ!!」
まさか真下にいると思わず、声を上げたラファエロにレオナルドもようやく気付いたように見上げるがその間に対処できることは何もない。
二人分巻き込んで地面に転がると、いくら丈夫な身体でもそれなりの衝撃でもって身体を叩く。
それはレオナルドも同じだったようで、隣で呻き声が聞こえた。
「
…
ンでこんなとこに突っ立ってんだよ」
そう文句を言いながらレオナルドを見やると、そのまま固まった。
闇夜でもわかる、真っ赤に染まっている頬。
「
……
別に、ああいう現場に慣れてるなんて言ってないだろ」
そんなラファエロの表情に気付いたのだろう、レオナルドは素早く立ちあがると手早く身なりを整え足早に姿を消してしまった。
先程の妖艶は雰囲気は成りを潜め、あどけなさすら残る初心な反応は思い出の中でも相当古いもので微かに覚えがあるくらいでもう時間軸すら狂ったか?と思うものだった。
前と後なんて些細なことなのかもしれない。
結局のところレオナルドの全てに振り回される感情を、恋と言わずなんと言うのか。
……
と言うか、アイツ家と反対側行かなかったか?
それに気付いて慌てて立ち上がると後を追いかけた。
音もなく移動するせいで一度見失うと探すのは一苦労。
吹きつけた風に乗ってきた花の香りは甘く、纏わりつくようだ。
どこかの香水のキツイ女の残り香か、もしくは誰かがプロポーズのためにでも大きな花束を抱えて行ったあとなのだろうか。
意識ひとつでこの街は色を変える。
薄暗い月の下、滑稽なダンスは今夜も同じ。
せめてまともな恋ができるようになるまで、夜が永遠に続けばいい。
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