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明らか
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小説
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師弟短編集
師弟の短編集3本です。左右は決まってません。
1.師匠の夢
夢を見た。
大人になって女性と結婚したモブが、子供の手を引いて歩いてる夢。街でばったり鉢合わせた俺に、師匠お久しぶりです、なんて声をかける。
「モブ、久しぶりだな。お前の結婚式以来か?」
「そうですね。いやぁ、奇遇だなあ」
「
…
その子は?」
あ、会うのは初めてですよね。息子の○○です。
ほら、ごあいさつして?そういってモブは3歳くらいのその男の子に挨拶を促す。その面影はどことなく子供の頃のモブに似ていた。
軽く世間話をしたのち、また相談所の方にも遊びに行きますね、おう、と交わして各々その場を後にする。
数歩進んだ後ふと振り返ると、
パパ、あのひとだあれ?
パパの師匠だよ〜。
ししょ〜?
と言って子供の手を引き、家へと帰っていくモブの後ろ姿が見えた。
俺はモブがいた頃のまま、同じ事務所で仕事をしている。炎上したあとも引越すことのなかった一人暮らしの古びたアパートへと帰り、ソファに腰を掛けた。
「
…
もう師なんかとっくに超えてんだよな」
俺は一体何の師匠なんだろうな。
何もない空間に向かってひとり呟く。返事などあるはずも無く、そのままカップラーメンを啜って風呂に入り、シングルベッドの布団を引っ被って眠った。
────────────────
目が覚めると枕が濡れていた。目元もぐしゃぐしゃ。号泣だった。ちくしょうなんて夢見せるんだ。
辺りはまだ暗い。深夜3時と言ったところか。
顔洗ってくるかと身動きしたところ、隣に人の気配がする。モブだ。モブが俺の分の布団まで引っ掴んで健やかにすうすうと眠っている。
その薬指には2人で一緒に買った俺のと同じマリッジリングが嵌められているのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
2.マスター視点の2人
久しぶりに顔を覗かせたかと思えば、新隆ちゃんはいつも通りひとくち、ふたくちレモンサワーを舐めたあとすっかり酔っ払ってしまった。
「おれさぁ、モブにヘンなことしたくないんだよ。だいじにしたいんだ。なのにあいつ好きです好きですって人の気も知らないでさぁ
……
」
「あら、新隆ちゃん彼女いたの?随分惚れ込んじゃってるのねぇ」
「
……
そーだよ。惚れてんの。あいつに。もぶのこと大好きなの」
「あらまぁ惚気けちゃって。その女が羨ましいわ」
あの新隆ちゃんにこんなこと言わせるなんて、一体どんな彼女さんなのかしら。それにしてもモブだなんて、変な名前ねぇ。あだ名かしら?好きな子の名前くらいちゃんと呼んであげればいいのに。
「も〜新隆ちゃん飲みすぎよ。アルコール抜いといたのにどうしてそんなに酔っ払っちゃうのかしら
…
」
「う〜
……
」
しばらくすると新隆ちゃんはすっかり潰れちゃってカウンターに突っ伏したまま動かなくなってしまった。
新隆ちゃんは場の空気に飲まれやすいところがあるのよね。様子見てアルコール抜いてあげるんだけど、このお店の雰囲気でいつも酔っ払っちゃうのよねぇ。
「ほら、誰かお迎え来てくれる人いないの?」
「ん〜
……
」
一言唸ると、新隆ちゃんは携帯を取り出して開こうとしたところでカウンターの上に置いたまま再び眠りの体勢に入ってしまった。
「んもぉ、しょうがない人ね。ちょっと借りるわよ」
発着履歴を見てみると、お母様や仕事関係っぽい名前に紛れて『モブ』の文字が。この子ね、新隆ちゃんの彼女は。一体どんな女なのかしら。
個人的な興味を胸に抱きながら、アタシはその番号へと発信ボタンを押すことにした。
「うちの師匠がすみません」
迎えに来たのはなんと、かわいい男の子。それも大学生くらいの。新隆ちゃんと10歳以上歳が離れてるんじゃないかしら?
「ほら師匠、飲みすぎないでって言ったじゃないですか」
「ん〜
……
あれ、もぶ?」
『モブ』くんは新隆ちゃんの肩を軽々と抱いて席を立たせる。
「あ、すみません、お代
……
」
「いつもの事だからいいわよ。つけておくわ」
すみません、ありがとうございます。と言ってその子はお行儀よくお礼を言ったあと、新隆ちゃんを抱いて颯爽とお店から立ち去っていった。
全く、新隆ちゃんも隅に置けない人ね。
おかげで失恋しちゃったわ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
3.Merry X'mas
その日、師匠は赤いサンタ帽を被って相談所の仕事をしていた。
「こういうのは雰囲気だからな〜。うちもクリスマス商戦に乗っかって営業しようっつー作戦だ。お前の分もあるんだから被っとけよ」
そう言われて僕は師匠と同じサンタ帽を頭に乗せられて受付の定位置に座ることになった。
その頃の僕はちょうど小学校の冬休みに入っていて、特に行くところも無かったからよく相談所へと通っていた。普段のお客さんはまばらだったけど、冬になるとそれなりに体調を崩す人も多いようでマッサージのお客さんが増えていた。だから師匠が施術をしている間、僕は漫画を読んで過ごしていることが多かった。お会計の時に真っ赤なサンタ帽を被っている僕を見て、あら可愛いサンタさん、と個包装になったビスケットをくれる常連さんがいて、僕はそのビスケットを食べながら師匠がコーヒーを飲むついでに淹れてくれたホットミルクを両手で抱えて火傷しないようにちびちびと飲んで過ごしていた。そんな冬休み。
あの日師匠はパソコンに向かって、僕は受付でいつものように漫画を読んで、二人ともサンタ帽を付けてる以外は特に変わりなく過ごしていた。24日のクリスマスイブともなると誰も霊障相談には来ないらしく、結局その日は一人もお客さんが来ないままだった。
「こんな日に依頼持ち込んで来る客なんかいねえか。暇だな
……
」
窓の外でははらはらと雪が降ってきたのが見えた。
「雪もちらついてるしとっとと閉めるか
……
」
師匠が立ち上がりブラインドを閉めようとしたところ何かを思いついたようで、茂夫くんアレルギーとか何か食べれないものとかある?と聞かれたので僕は首を横に振った。ちょっとここで待ってろよ、と言って師匠は表の看板を本日終了に裏返すとそのままどこかへ消えてしまった。一人残されて静かになった相談所。少し心細くてソワソワしていると、10分ほどして師匠が何やら袋を持って戻ってきた。
「ほれ、スマイルマートのチキン。一緒に食おうぜ」
師匠は近くのコンビニでチキンを買ってきてくれたのだ。
「夕飯前だからな、あんま腹いっぱいにすんなよ。家のご馳走食えなくなるぞ」
「ありがとうございます」
「ケーキは帰ったら家族と食えよ」
コンビニチキンを食べる機会があまり無かった僕は紙袋に包まれたそれを目を輝かせながら受け取った。そっと破いて中のチキンを半分取り出すとまだ温かいそれを一口頬張る。中の肉汁が溢れて口からこぼれ落ちそうになった。
「せっかくのクリスマスだし、たまにはそれっぽいことしないとな。小腹も空いたし、お前もいるし丁度いいだろ」
そう言って師匠は豪快にチキンに齧り付くと、あっつ!!と叫んでチキンを落としそうになった。中の肉汁が熱かったらしい。僕は落としかけたチキンを浮かせて高速回転で冷ましてあげた。
「おお
……
サンキューな茂夫くん」
よくやったぞ。あ、牛乳飲むか?脂っこいもん食べたらなんか飲みたくなるだろ?
そう言うと師匠は僕と自分用のマグカップに牛乳を注いでくれた。それを手に取りコクコクと飲み干す。この時飲んだ牛乳の味はなんだかいつもより美味しく感じた。そうして僕らはサンタ帽を被りながら相談所でコンビニチキンを頬張り、二人だけのささやかなクリスマスを過ごした。
僕は今でもクリスマスになると、この時食べたチキンや牛乳の味を思い出す。今となってはよく食べるいつもの味なのに、あの時二人で食べたコンビニのチキンはなんだか特別な味がしたんだ。
────────────────
しんしんと雪が降り積もる中、コト、コト、と階段を登り、本日終了と看板が掛けられたドアを開ける。鍵はかかってないようで、ドアノブを回したらすんなり中へ入れた。
「
……
表の看板が見えなかったのか?」
中央の所長席に座ったまま、こちらへ声をかけてくる。
「電気がついていたので」
僕はそのまま足を進め、その人の座る机の前で手に持っていた白いビニール袋を見せた。
「それより、食べませんか?スマイルマートのチキン」
「あんなに売ってるなんて凄いですね。この時間でもチキン山積みになってましたよ」
「そりゃクリスマス本番だからな。今日明日は店側も気合い入れるだろうよ」
師匠の入れてくれた牛乳を飲みながら、まだほのかに温かさの残るチキンを頬張る。
僕は仕事が終わったその足で相談所へと向かっていた。この日だけはみんなどことなく浮かれ気味で、残業もそこそこにさっさと仕事を終わらせて帰路につく同僚が多いのだ。
「
……
お前、今日が何の日か知ってる?」
女とデートの予定とかないの?
師匠がこちらには目もくれずチキンを頬張りながら聞いてくる。
「今日は大切な人と一緒に過ごす日です」
そう答えると僕も自分のチキンを頬張った。
「
……
あっそ」
そっけない言葉とは裏腹に師匠は満更でもなさそうな、少し照れたような表情をして目を逸らす。
「師匠こそ、仕事もないのにこんな時間まで残業ですか?」
僕の記憶ではクリスマスに相談所に来るお客さんはほとんどいない。こんなに雪の降る日なら尚更早めに相談所を閉めててもおかしくないのだ。
「生憎、繁盛してるんでな。こんな時間まで残業だ」
そんなことを言いながら師匠はゴクゴクと牛乳を飲み干す。
本当はもう知っている。サンタさんの正体はフィンランドに住んでるトナカイのそりに乗ったおじさんじゃないってことを。
相談所にいつも牛乳が置いてあるのは、僕が来た時のために師匠が用意してくれてたんだってこと。クリスマスイブの日に会う約束なんかしてなくても、相談所の看板を本日終了に裏返して、彼は僕が来るまでずっと待ち続けてるんだってこと。たとえ僕に彼女ができて、クリスマスデートの予定が入っていたとしても、彼はずっとここで僕を待ち続けるんだろうなってことを。
「ついでにケーキも買ってきたんです。一緒に食べません?コンビニのやつですけど」
「
……
別にいいけど」
僕はMerryX'masと書かれたプレートが乗っかってる苺のショートケーキを二つ取り出した。付いてきたプラスチックフォークでそっと掬って口に運ぶ。
昔家族と食べたような、どこか懐かしい味がした。
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