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hatonyannyan
2024-05-18 20:15:27
2008文字
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刺草の揺り籠
webオンリーのネップリアンソロに提出したやつです。逆行1828みたいなやつ。
無我夢中でガブの手を掴み引き上げる。間に合った。確かに救えたのだ。ジョシュアを殺していたことも知らずのうのうと生きてきた己に意味はあったのだろうか、いや、あったのかもしれないと一筋光が差した心地だった。だから川向こうに生き残りがいることに意識を向ける余裕がなくて、背中にまともに氷の魔法を受けて体勢を崩し気付いたときには宙を舞っていた。手を伸ばすのも忘れるほど一瞬のことで、けれど不思議と恐怖はなかった。
(ジョシュア、すまなかった、ジョシュア)
浅ましい願いであるのは承知であるが、ひとかけらだけでもいい。
……
これで、償えただろうか。
*****
どのくらい寝ていたのだろう、とぼやけた頭でそこまで考えてありえないと一気に目が覚める。あの高さの崖から落ちて生きていられるわけがない。目を開いて辺りを見回すと、ひとまず牢ではないようだった。地獄にしては小綺麗な部屋だ。
「ああ、目を覚まされたのですね」
ドアを開いて入ってきたのは、黒髪の青年だった。着ているものは質素だが、貧しいという印象はなく品の良ささえ感じる。
「三日も眠っていたので心配しました。お加減は如何ですか?」
問題ないと答えようとして上手く声が出なかった。青年が察知して素早く水差しから水を持ってきてくれる。背中を支えられて身を起こし喉を潤すとようやく人心地ついたような気がした。
「あちこち痛みはあるが
……
休めば治る類のものだと、思う」
「良かった。どこか違和感を感じたら、遠慮なく仰ってください」
違和感を感じるとすれば青年の態度だ。この甲斐甲斐しさは、何だろう。いくら青年が心優しく親切であったとしても度が過ぎているように感じる。青年と面識は無い筈だが
……
誰かと間違えているのか?
「失礼を承知で言うが、何故貴方は俺を助けたのだろうか」
「覚えていないのですか?貴方が私たちを助けてくれたのですよ」
「
……
は?」
今度こそ人違いではないのかと声が出た。自分は崖から落ちて死んだ筈で、誰かを助けられるわけがないと。不信を滲ませる声で言うと、青年は薄く微笑んだ。
青年曰く、交戦中に突如光の中から現れた謎の召喚獣が敵勢力を全て焼き尽くしたのだという。散々暴れ回ったあと顕現が解け、そこで見つかったのが俺なのだと。
ぞっとした。まさかまた暴走したのか。ガルーダと戦った時のように。フェニックスゲートの時のように。また、人を。
一筋見えたはずの光が濁流に呑まれて見えなくなっていく。ああ、ああ、やっぱり、俺は。
「助けてもらったのに、すまない、だが俺はやっぱり死ぬべきだったんだ
……
!でなきゃまた、また
……
!」
「しかし我らは貴方こそを待ち望んでいたのです。創世のみぎりに神を迎える器よ」
どろりと溶けるような青年の笑顔に、背筋を寒いものが走る。震えが止まらない手をそっと包まれて、その優しい仕草がけれどたまらなく恐ろしい。猫に追い詰められた鼠というのはこんな心地なのだろうかと、心が現実から逃避してしまうほどに。
あれから数日経って分かったことがいくつかある。ここは灰の大陸であること。もう一つは、大陸歴から察するに自分がいた世界より四十年以上昔の
……
過去の世界であること。此処に来てから何もかも信じられないことばかりだ。自分はとっくに狂ってしまっているんじゃないかと思う。狂ってしまえたのなら
……
どれだけ楽だっただろうか。
「食事をお持ちしましたよ、ミュトス」
己を助けた青年は、この若さで族長をしているらしい。名を、バルナバス。灰の大陸でこの名前となれば、信じられないことだが後のウォールード国王その人なのだろう。
いつものように体を起こされ、猿轡も外される。匙がスープを掬って口元へ。だから俺もいつものように、反抗心を示すために一度目は拒否する。次もまた拒むと口移しで無理矢理完食させられるのが分かっているので二度目は口に入れた。早く体力を戻してここから逃げ出さないと。
「
……
可愛い人。貴方が神の器でなければ、私のものにしていたのに」
灰青の瞳が微かに細められる。その奥にある仄暗い執着が、見るたびに少しずつかさを増してきているように感じる。
「死ぬことが望みだというなら素直に神にその身を捧げてしまえばいい。それだけで貴方の苦しみは終わるのだから」
バルナバスの言うことは尤もで正論もいいところだが、彼の言う通りにしたら絶対に駄目だという勘があった。何故そう思ったのかは分からず、根拠がないからこそいつか折れてしまいそうで恐ろしい。
だんまりを決め込む己に、やはりバルナバスは笑った。灰の瞳に、燃えさしとは思えないほどの狂気を湛えて。
「時間はある。じっくり、根競べをしましょう」
妄執の塊じみたじとりとした舌で唇を辿られて死にたくなる。けれどこの腕の中でだけは絶対に嫌だと、正気を繋ぎ止めるように歯を食いしばった。
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