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あじゃりもんた
2021-09-19 10:21:27
4634文字
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エスケープ
女装注意
2021年9月ロビシャルwebオンリーお題企画
注意⚠️女装
どうしてこんなことになってしまったのだろう。焦りで視界が眩んで、思考すらままならない。
苛立ちのままにギチリと歯を噛み締めるけれど、心臓の鼓動はちっとも落ち着きやしない。
どうか。どうか。
わずかに感知した魔力が僕に気付かず通り過ぎてくれますように、見つかりませんようにと心の底から祈った。
「マスター、お手伝いしますか」
保管庫の扉を覗き込むと、マスターとマシュが資料らしきものを広げていた。
「あ、サンソン。暇だったらお願いしていい?」
「勿論です。何かお探しですか?」
マスターの手元を見てみると、広げていたのは概念礼装のデータだった。それも、かなり前に使っていたものが多い。
「探してるっていうかね。ほら、夏イベも終わったから、じゃあ次はハロウィンかな? なら今のうちに古いやつを確認しておいて、傾向と対策を練っておこうかな?なーんて」
なるほど、と相槌を打つのと同時にマシュが有りました!と数枚のファイルを引き出した。
「ここに描かれているのは······アイリスフィールさんと、イリヤさんでしょうか? それともシトナイさん?」
「この時はまだシトナイと会ってないから、イリヤだねぇ」
この概念礼装も入手するのがすごーく大変だったんだよ。そう言いながら女性のあられも無い姿が描かれたファイルに頬擦りをするマスターは同じ女性といえども業のようなものを感じた。
「一応時期ごとには並んでる筈だから、基本的には夏イベの後の4、5枚がそうだと思う」
「わかりました」
分厚い書類ファイルを受け取ると、後はひたすら手作業で確認するのみ。中々こうして眺めることも無いけれど、目にしてみると「あのイベントの時のものだ」「この礼装の撮影には時間がかかったな」と思い出すことが多く心が浮き立つ。世界各国の装いを皆で楽しんだこともあった、仕舞い込んでしまったがまた袖を通してみようか。次へ次へと指を滑らせ、日本の遊園地を訪ねた時のものを見つけ出して「こちらですね」とマスターに差し出す。
「そうそう、この時はそんなにハロウィンっぽく無かったんだよね! 哪吒の礼装は今でもよく使うんだよ〜この時のだったかー!」
「マスター、まずは全て並べてから確認するのが良いのでは?」
「そうだけどぉ」
子供っぽくむうと頬を膨らませたマスターに対し、マシュが終わらせたらお茶にしましょう、と宥める。サンソンさんもいかがでしょうと誘われたが謹んで辞退した。きっとマスターはマシュと2人きりで楽しむ方が良いだろう。
「えーと······あ、あったー!!」
不精不精にページを捲っていたマスターが1枚を引き抜き高々と掲げる。
「デンジャラス・ビースト! マシュがすごく身を張ってくれててね、すごく可愛いんだよー!!!」
「先輩! そんな大きい声で、恥ずかしいです···!」
一瞬のことなのでろくに見えなかったが確かに肌面積は大きいように見えた。思い返せば「この肌寒くなり始めた時期に···!」とランスロット卿が身代わりになるべく立候補して風邪薬を処方したような憶えがあるような無いような。
「スター獲得かあ、サンソンは装備したことあったっけ?」
マスターが掲げた腕を下ろしつつ問うてきて、「無いと思います。装備するならジャックでしょうか?」と答えながら散らばったファイルをまとめつつ立ち上がった拍子に、マスターが手を滑らせ概念礼装がサンソンの頭の上に落ち。············一瞬の後、装備されてしまった。
ガタッと音を立て床にへたり込む。なるべく少女2人に、体の前面が見えないように。
「早く装備解除して下さい!」
「う、うん! ごめんね本当に!」
ブーツは普段と同じくらいの長さだが、厚い革と比べて体にぴったりと張り付くような素材感で心もとない。腕にもおそらく同じロンググローブが着用されている。頭と、腰のあたりに飾りが着いているようで俯いた頭に妙な重さがある。
そして。何よりも。背中にはわずかだが布の感触があるというのに、体の前面はほぼ紐だ。体を拘束するかのように幾本も纏わりついた紐と、かろうじて胸と股間は隠されているというのがかえって羞恥を加速する。どうして背中の布で胸かせめて腹部を覆わなかったんだ!こんなに紐を巻き付かせなくても、武則天のように太いリボン1本ではいけなかったのか?!
衣装の考案者への罵倒が次々湧き出てくる。一方マスターは中々手間取っているようだ。
「あれ? パーティ6の控え枠で入ってるかと思ったんだけどな」
「先輩! もしかしてサポート枠の方にセットされているのでは!」
何なら装備解除さえされたらそのまま霊体化して「さっき? 何の話でしょう。僕はずっと部屋にいましたが···」ととぼけようと心に決めた瞬間。
「おーいマスター。何を大騒ぎしてるんです? ダ・ヴィンチから急ぎで書類書いてくれ······って······」
見られた。よりにもよって彼に。
ちぎれんばかりに握りしめていたカボチャのクッションを全力で投げつける。ロビンフッドがそちらに気を取られた隙に全力で横を駆け抜け、そのまま保管庫を後にする。
敏捷Cのスキルをかつてないほど駆使した瞬間だった。
とは言え。
装備の影響か霊体化も出来ず。
幸いにもシュミレーターに向かったサーヴァントが多く、カルデア内は普段よりも閑散としている(幸運Aのお陰かも知れない)。とはいえ、自分の居室は他のサーヴァントの部屋とも近いので、この無防備のまま動くと誰かと遭う可能性はとても高い。
最適解としてはリネン室か医務室かでシーツを調達して部屋に戻るか、マスターが装備解除をしてくれるまで待って部屋に戻るかのどちらかだろう。
物鬼か、隠れ鬼か。
この格好のままもし誰かと出会えば、その時点でサンソンの社会性は抹殺される。
加えて、さっきロビンフッドと出会ってしまったことも不味かった。サンソンだって、もしロビンがこの格好でうろついていたら全力で止めるからだ。半分は少年少女に悪影響を及ぼすことの無いように、半分は恋人のあられも無い姿を衆目へ晒したくない独占欲。
2人きりのベッドの上でなら醜態でなく媚態として見れるかも知れないが、それが公共の場で晒されていると思うと胃がキリキリする······と考えて今実際その醜態を晒しているのは自分自身なことに気付いて立ち上がれないほど落ち込んだ。
飛び込んだ部屋から身を屈めつつ飛び出し、1部屋、2部屋。曲がり角を走り抜けようとした時向こうから話し声が聞こえて慌てて足を止める。職員達は話に夢中になっていてサンソンに一切気付くこともなく反対側へ曲がって行った。狭まった喉から細く息を吐き出し、今度こそは扉をくぐり抜ける。なるべく人の集まる管制室や食堂は避けて、最終的には自室へとたどり着けるように。
「気配遮断と···魔力探知も必要だな···」
カルデアはサーヴァントはいわんや、職員も全て魔術が出来る者で構成されているので魔力に反応出来るはずだ。問題なのは近代サーヴァントかつ生前に魔術経験のないサンソンはこれまで一切使ってこなかったスキルということなのだが、今はそれを言っている場合でない。見よう見まねで壁に額を押し付け、音を窺うように気配を探る。すると案外拍子抜けに、ぼんやりとだが気配が察知出来る。これらを避けて、かつ気配遮断を働かせていけば予想よりも簡単に危機から脱出出来るのでは······と詰めた息を吐き出した瞬間。
察知出来る範囲の廊下を疾風のようなスピードで走り抜ける、サーヴァントの気配。
しかも、サンソンはその魔力を体で覚えてしまっている。
「ロッ······」
冷や汗が噴き出す。声を出したら見つかるような気すらして慌てて唇を噛んだ。
気配はすぐに消えたが、サンソンの搔き乱された鼓動は治まらない。
じとりと掌にかいた汗に見て見ぬふりをして、出来る限り早急に、迅速に動こうと決める。
お説教ならまだ良い、あれだけ怒っているだろうロビンに見つかれば何をされるやら分からない······。ゴクリと唾を飲み下して、まずは彼が向かったのと反対側。リネン室へ向かおうと決めた。
「······でさあ」
「はは···マジでか! それって······」
早く行ってくれ、お願いだから。ぺたりと壁に張り付いて気配が遠ざかるのを待つ。
足音が去っていって、他の気配が無いことも確認して(やはり遠くの方で高速で動く点Rに背筋を震わせ)、ヒールの音が響かぬように気をつけながら廊下を駆け抜ける。
緊張に指を震わせながらキーロックを解除し、自動ドアが開く一瞬を永遠かのように待ちわびながら、隙間に強引に体をねじ込む。
電灯の消された部屋。ひとけが無いのは数室前から確認済みだ。
高く聳え立つワイヤーラック、そこに整然と収められたカゴ。ゴウンゴウンと音を立てて乾燥機が数台稼働している。
「······やっ、た······。」
精魂尽き果てた体が求めるままへたり込み、背中を壁に預ける。
普段ろくに励起させないスキルを、しかも複数を常時発動状態にさせ魔力消費は激しく。
緊張状態のまま息を潜めながら細切れの全力疾走を強いられ。
何よりも、もし誰かひとりの目にちらとでも見られれば「女性用にしても過激すぎる衣装を着て公共の場にいた」という認識をされてしまう──それがマスターが原因であったとしても──という激しい羞恥に苛まれたままの精神状態。
他者から見たらくだらない戦いだったかも知れないがサンソンにはあまりにつらく苦しい戦いだった。
それもここまで来たらほぼ投了と見ていいだろう。
女性用水着を着用した男とシーツでぐるぐる巻きになった男、どちらがマシかと言われたら圧倒的に後者だ。そしてここはカルデア。普段から水着に限らず全裸に近い格好で闊歩するサーヴァントだって多いし、何より「マスターの手違いで」とありのままの真実を語れば大体の皆は同情に満ちた目で納得してくれるだろう。
あとは自室に駆け込んで、マスターが装備を解除してくれるか編成の時間切れをひたすら待つのみ。
「は、ぁ············」
安堵の息を吐き出しながらあともう少し、と自身を奮い立たせ、棚の上から二段目、畳まれたシーツへと手を伸ばす。
「?!」
不安定な体勢のままがん、と壁に叩きつけられる。目の前には人の姿は無いのに、手首はぴくりとも動かせないように縫い留められている。
「坊ちゃん。楽しかった、ですか?」
普段と違う薄い手袋ごしだが、嫌と言うほど慣れ親しんだグローブの感触。声を聞くまでもなく、誰の仕業だかははっきりと分かる。ただ、さあと血の気が引いて、頭がうまく回ってくれないので。唇はわなないて言葉を紡げず、膝は震えてまともに体重を支えられない。
「あぁ、勿論マスターとマシュの嬢ちゃんから話は聞きましたよ。事故だって、お互いそんなつもりは無かったのに、ってね。それでも、そんなハズカシイ格好で建物中逃げ回ったってのはね、ちょっといかがなもんなんでしょうね────」
すぅと目隠しを外されたかのように姿が現れていく。皐月の王。無貌の王。森の狩人。そして、今の彼は······みどりの目をしたあくま。
「つかまえた」
▽ にげられなかった!
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