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あじゃりもんた
2021-09-19 10:16:33
3930文字
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花束
2021年9月ロビシャルwebオンリーお題企画
ざばーん、ざぶーんと寄せては返す波。
きゃっきゃとはしゃぐ少女達と、それを憧憬を込めて見守る保護者達。
「そろそろ読み終わるんじゃないの?いい加減あなたも楽しんだら?」
「僕も十分この夏の空気というものを楽しんでいるし、医師として付き添っている以上軽率な行動を取るのはどうかと思う」
全くもう、とあきれ笑いを浮かべたマルガレータ。そんな頑なだから、マスターに誘われたんじゃないの?と顔にはっきり書かれているようだ。
確かに同じ行を何度も何度も目で追ってしまっているし、なんなら既に読了した上で日に焼けても波に濡れても問題ない本として持ってきているので内容はほぼ頭に入っているから熱心に読みふける必要もない。もうすぐ消滅する夏特異点なので、一般的になら考えられる不埒なナンパ除けとしての仕事もないだろう。そう、別に楽しんでいない訳ではないのだけど、水に入ろうとしないのは──。思考を遮るように、背後から「アイス持ってきましたよー!」という声がかかる。
「みんな、一度上がって下さい。水分補給もしよう」
ジュースも用意してありますよ。
やったー!と歓声を上げて水から上がってくる皆の姿は普段よりもずっと幼く見えた。「キュケオーンの用意は?!」という声を上げている一名はことさらに。
「ほれ、台所連中が何やら色々詰め込んでくれましたからね。自分で好きなやつ選んでくれや。余裕であまるとは思いますけど食べ過ぎはおススメしませんぜ」
ぱかりと開いたクーラーボックスの中にはみっちりとアイスが詰まっている。サイズも種類も様々の色とりどりだ。更なる歓声を上げて、女性陣があれやこれやと覗き込んでいる。
「ロビン、お疲れ様」
「はいドーモ。先生も早いとこ選ばないと無くなりかねませんよ」
「僕は後でいいかな。君こそいいのかい」
そこまでアイス好きでもないんでー、と言いながら手渡した水筒をがっとあおる。
「それに、あそこまではしゃいでる女子供と一緒にあれこれ選ぶってのもねぇ」
「確かに。自分が選んでいるよりも子供の選んでいる姿を眺める方が楽しいというか心がなごむのはよく分かる。ただ、僕には君もあちら側に見えるが」
ゴハッと勢いよく噴き出した音に慌てて隣に目を向けると、激しく咳き込んでいるロビン。しばらく背中をさすってやっていると、長く息を吐き出した後ロビンがくわっと眉を釣り上げた。
「はああっ?!! ちょっと、いくらなんでもそりゃ無いでしょう! アンタの目は節穴ですか!! つか、アンタの方がよっぽど見た目はガキくさいんですけど?!」
む、とこちらも眉を寄せる。
「確かに見た目は若い時の姿だが、精神的には僕はれっきとした成人男性だ。それに身長だって君よりも高い」
「オレだってれっきとした成人男性ですけども?!」
身長は確かにそうかもしれませんけど、と言われて「何なら生前はもう少し高かった気がする」と返そうとした瞬間、ずいと間にアイスキャンディーが割り入った。
「もう、二人ともこんなところでまでケンカしないで下さい!」
「マスターの言う通りね。ほら、二人もアイス選んで? きっとブーディカ達が沢山詰め込んでくれたんでしょう? 全然減らないままでもがっかりさせちゃうわ」
呆れた冷たい視線と、さんさんと照りつける日差しの温度差にはっとさせられて、ロビンと二人で視線をさ迷わせたあと「すみません」と頭を下げた。
「ホント、まだいっぱいアイスあるから! でもこれ、作ったのほとんどエミヤだろうなぁ······」
また後でお礼言っとこう、というマスターの発言におや、と疑問が浮かぶ。
「何故エミヤだと?」
「う~~ん、国民性······? なんかこう、アビーが食べてるのみたいなジェラートは違う気がするんだよね。この細めの果物味のアイスキャンディーとか、マシュの食べてるお花型のカップに入ったソルベの大き目のみたいな······かき氷って言うんだけど、とか。おばあちゃん家に遊びに行った時に出してもらった系というか、わたしよりちょっと上の世代のアイスのあるある感を感じるんだ、このクーラーボックス···············。」
再び「ゴッふ」と激しい音を立てて咳き込みだしたロビンを置き去りに、さりげなくもう数本アイスキャンディーを持ってマスターは背を向けた。まぁマスターも僕の時代なら一人前の大人として扱われた歳なので、多少ならアイスの食べ過ぎも自己責任だろう。
今度はひぃひぃと笑って呼吸の整わないロビンも自己責任だろうと横目で流し、女性陣の離れたクーラーボックスを引き寄せる。食べないにしても溶けないようにテントの日陰にしまい込んでおくべきだ。
「本当にこれは············食べきれないな。いくら選ぶ楽しみがあるといっても、君も運ぶのが大変だったろう」
かき氷に、ジェラートやソルベの入った蓋付きカップ。棒付きのミルクアイス。容器を傾けるところころと音のする小粒のアイス。日本サーヴァントがよくお茶菓子にしている大福もある······これはアイスでいいのだろうか? あれやこれやと手に取りながらごそごそとまさぐっていると、クーラーボックスの底が二重底になっていてその端からビニールが顔を覗かせている。
「おや」
好奇心の赴くままにくっと指先を引っ掛けて底板を持ち上げてみると、保冷剤かと思いきや違うものが入っていた。つまみ上げようとするその前に、背後から伸びた腕がその袋を取り上げる。バレたら不味いものだったのかい?なんて軽口を叩こうとした瞬間、ずいと僕に向けて突き出される。
「ハイ、アンタの」
「えっ」
驚いたもののそのまま受け取ってしまう。マスターが持って行ったものよりも小さめのアイスキャンディーが数本束ねられていて、長い棒の先端で重そうにびょんと揺れる。
「女子供ってのは甘いモンには目がねぇもんですから、それが暑い場所で動いた後となっちゃひとしおってもんでしょう。それにアンタ結構大食いですからね、甘いもんだとどうかとは思いましたけどまぁ備えておいて損は無いかと思いまして。余ったなら余ったでカルデアの冷凍庫にまた戻せばいいだけの話ですからまあ別に無理して食べなくても」
「ロビン。僕のためにわざわざ用意してくれたのか」
あれだけ言葉を紡いでいたのにふっと口を噤んで、うーとかあーとか言った後、まあそうですね、と小さな声で呟いた。
「そうか。ありがとう、ロビン。色とりどりで、花束のようで綺麗だ」
ふふ、と目を細めると、恥ずかしそうに頭を掻いている。
「でも僕だけで食べるにはもったいないな。君もひとつくらいは一緒に食べよう」
袋を留めたテープをぺりり、とはがして棒をつまみ出す。みかん、ぶどう、ソーダ、りんご。引き抜いたいちご味をロビンに差し出すと渋々といった顔で受け取ってくれた。
マスター達はとっくに食べ終わったのかまた波打ち際に集まっている。もうしばらく経ってから「おかわりはどうですか」と声をかけてみるのも良いかも知れない。キンと脳内に響くような冷たさを楽しんでいる間に、隣の男はしゃくしゃくと二口ほどで食べ終わってしまっていた。
「ロビン、君は海に入ったかい」
「? ええ、お遣い頼まれるまではそれなりに泳いでたじゃないですか。今日はなかなか水が生温いなんてことも無くていい感じですよ」
「そうなのかい。······僕はまだ入っていないんだ。足くらいなら濡らしてもいいかとは思ったけど、万が一その瞬間に大波が来たらと思ったら」
かしり、と歯を立てて甘みを堪能する。目線を合わせないように。無いとは思うけれど、アマデウスみたいに僕を馬鹿にする表情をしていたらしばらく引き摺ってしまいそうだ。
「············坊ちゃん、もしかして」
「············現代人でも、水泳教育を受けていないのなら泳げない方が一般的だと聞いた」
勿論サーヴァントにそれは適用されないだろう。エーテル体の体は呼吸に左右されることもないし、筋力よりもずっと効率良く体を動かす。聖杯由来の効率的な泳法もすっと頭に染みこんでいる。ただ、それが精神的な抵抗までカバーするかは別問題で。
「勿論、浜辺で日差しを味わったのも皆が海を満喫するのを日陰から見守るのも楽しかった。けれど君が、揃いの水着まで用意して備えてくれたというのに、勿体ない気もしてしまって」
マスターが「海に行こう」と声をかけてくれたのはしばらく前のことだった。参加メンバーと聞いて意図を察し、加えて医師としてなら付き添いもやぶさかではないだろう、と自身を納得させて是と答えた。泳ぐ気は無いから普段の格好でいいかと衣装班に声もかけずに数日。逆に彼女らから呼び出されて目を瞬かせていると、「本当は内密にと言われたのですが」と微笑みながら誰からの依頼かを教えてくれたのだ。色も柄も異なっているが仕立てと柄の入り具合は同じだし、ロビンは慣れた夏霊衣ではなくわざわざ新調したものを着てくれている。皆が少し遠巻きにしてくるのも恥ずかしながら当然のことだろう。
「じゃあ、それ食べ終わったら。岩場の方行ってみませんか。さっき見た感じカニとかも居ましたよ」
「それは良いな」
頷いて、氷菓を握った手に力がこもる。びょいんと揺れるアイスはすぐに食べてしまわないと串刺しになったように棒が突き抜けてしまいそうなことだし。
「急がなくても大丈夫ですよ。時間はまだ有るから、ちゃーんと待ってるんで」
微笑んでこちらを見やるロビンの真上には、雲ひとつない青空と一緒に9月の太陽が輝いていた。
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